韓米FTAを使わない韓国が関税戦争で孤立する理由
トランプ政権が関税を「仮設建築物」からコンクリートに固めつつある今、韓国だけがFTAという手札を使わずに沈黙している。その間にカナダとメキシコはUSMCAを交渉の武器として動かし始めた。
> 韓米FTAは18カ月間、誰も使わなかった交渉カードだった。
この記事のポイント
・韓国だけがFTAを交渉に使っていない
・クーパン問題が対話不在を象徴している
・沈黙の構造が関税固定化を加速させる
何が起きたか
米国は現在、20カ国とFTAを締結している。そのうち製造業で意味ある規模の対米貿易を行っているのはカナダ・メキシコ・韓国の3カ国だけだ。カナダとメキシコはUSMCA評価会合を通じてFTAを関税交渉に活用し始めた。韓国だけが18カ月にわたるトランプ関税ショックの中で韓米FTAをほぼ言及しなかった。トランプ氏は韓国との相互関税を15%で合意したと表明。さらに米国は「強制労働」名目で韓国に12.5%の追加関税を課す動きも見せている。
なぜ韓国は持ち札を使えなかったのか
韓国政府の内部では「FTAを持ち出しても意味がない」という判断が働いていたとされている。トランプ政権が多国間・二国間の法的枠組みより「取引」を優先する姿勢を見せていたため、法的根拠を持ち出すことがむしろ交渉を硬直させると読んだ可能性がある。結果として、協議の場そのものが失われた。
その判断の代償が最も見えやすいのがクーパン問題だ。韓国最大手のネット通販クーパンは親会社が米企業でありながら、個人情報流出問題への対応をめぐって韓米間の外交・通商摩擦に発展した。韓国の康京和駐米大使が記者会見を開いて「韓米関係に影響しないよう管理する」と火消しに走る事態になった。早期解決できた問題が、定期的な協議チャンネルの不在によって肥大化した典型例だ。
法律・規制の観点から見ると、韓米FTAには紛争解決メカニズムや定期協議の枠組みが埋め込まれている。ところがソウル大法学専門大学院のイ・ジェミン教授が指摘するように、この「インフラ」が韓国国内でもほとんど機能していない。部処間の調整を促すタイムラインとして使えるはずの条項が、眠ったままだ。
業界全体で見ると、クーパンの株価は最高値から
44%下落
したまま回復の見通しが立っていない。個別企業の問題ではなく、韓米間の対話モードそのものが「節電モード」に入った結果が株式市場にも滲み出ている。米国が関税を固定化・常態化させる方向に動けば、韓国の製造業全体がコスト構造を組み替えざるを得なくなる。
この構造、交渉テーブル不在のリスクとして読み替えると
私がコンサル時代に感じたのは、「使わないフレームワークは存在しないのと同じ」という事実だった。あるクライアントの製造業案件で、既存の取引契約に価格改定条項が明記されていたにもかかわらず、誰もそれを持ち出さないまま3年が過ぎていた。「今さら持ち出すと関係が悪化する」という遠慮が、じわじわと不利な条件を固定させた。韓米FTAの18カ月間の沈黙は、あの案件と同じ構造だと私は見ている。
私が注目しているのは、FTAが「交渉ツール」ではなく「対話の場を維持するインフラ」として機能するという点だ。カナダとメキシコがUSMCA評価会合を動かしているのは、関税を下げるためだけじゃない。「テーブルに座り続ける権利」を確保するためだ。韓国がその席を空けたまま15%の相互関税と12.5%の追加関税を受け入れていけば、やがてその数字はデフォルトになる。
もう一点、クーパン問題を通じて私が確認したのは、「民間の問題と外交摩擦の境界線が消えている」という現実だ。親会社が米国籍の企業でも、韓国国内で起きた個人情報流出は韓米の通商問題に直結した。今後は企業レベルのコンプライアンス問題が即座に二国間の政治議題に引き上がる。その前提で韓米FTAの協議枠組みを「早期警戒システム」として設計し直す発想が必要だと、私は判断している。
トランプ政権が打ち出す関税を詳しく理解したいなら、米中新冷戦の構造とあわせて読める『トランプ2.0 米中新冷戦 予測不能への備え方』が一冊の地図になる。韓国のFTA沈黙が生まれた国際環境の背景が、具体的に整理されている。
沈黙は戦略ではなく、テーブルからの自発的な退場だった。
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