銀蛇謳海~序~
むかしむかし海の底に都がありました。
人々が幾千の波を越えたとしても、淵深く潜ったとしても決して辿りつけないそこは仙郷でした。
白亜の壁に鱗を葺いた館が軒を連ね珊瑚を模した楼閣は高々と伸び、宝石のような魚がその間を群れ泳ぎ、金砂銀砂を敷き詰めた通りは目映く、陽光は揺れる投網となってそれらを綺羅綺羅と包みこみます。
息をするのも忘れるほどの炫耀の都です。
そこは神々の領域である『真海』の中心にあり、『竜宮』と呼ばれていました。
そうです、御伽話に伝えられる竜宮城です。
『竜宮』に住むのは海の神々とそれに仕える竜人竜女たちでした。
その神々の頂に立つのが綿津見という神さまでした。綿津見は『竜宮』の王であり『真海』の守護者でした。
『竜宮』には悲しみがありません。
悲しみのないかわりに喜悦に満ち、憤りなら隠し味ほど混じっていたでしょうが悲しみは誰も持ち合わせてはいません。さて楽しく夢のような場所でしょうか。
しかしいっとき、『竜宮』は血の色に染まります。
四方の海を恐れさせた綿津見の仕業でした。
その咎で彼はその身を二つに割かれ『真海』を追放されます。
永久に続くように思われた『竜宮』の栄華は泡沫となり、やがて神代は終焉を迎えるのです。
その『竜宮』の最期から二柱目の綿津見の譚をしましょう。
最期の海の王ではありません、最期からひとつ前の王です。
それは綿津見が荒御魂と和御霊に分かれる前の譚。
碧海に銀蛇の髪を靡かせ、月に舞い風に謳った若き王がいたのです。
さて、なぜ海の王がそのようなことになったのか。
あなたが眠りにつく前に語って聞かせてあげましょう。
夢のような『竜宮』とまだ若い海神の譚を。
さあ、夢の中へ参りましょう。
波をくぐって参りましょう。
それ、ざぶんさぶんーーーーーーーーーーーーーー
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