記憶工場

【【今日は学校からかえって、すぐタクやんのいえにあそびにいった。おいしいごはんをたべて、おふろにはいったらすぐねむくなった。あしたはうんどうかい、たのしみだな】

俺は想起をやめた。最高の『子供の頃の記憶』。記憶工場では、子供を生産しては、自我の弱いうちから外部の記憶を強制的に想起させつづけて、脳に植え付ける。そして自分の人生と誤認した記憶を収穫され、死ぬ。許されない。まずいコーヒーを一気飲みして、俺はもう一度想起する。こんどは、記憶の視点から離れて】

「止めろ止めろ!コイツ離人(デコグ)しやがンぞ!」
私の外脳(エグゾブレイン)スピルバーグが想起を中断した。
視点が現実に戻る。まだ【【おいしいごはん】】と【まずいコーヒー】の味が舌に残っている。
「だから警察じゃ手に負えないんだ、『プルースト』」ボスが無表情で告げた。
「この捜査官は、自前で離人を身に着け、大量の売られた記憶から記憶工場の位置を探しだした」
「なるほど。だから死んだ。それをうちの『死人に口なし(オソレザン)』がサルベージしたと」
他者の記憶を媒体から想起することは誰でもできる。
想起している記憶を想起するとなると難しい。
さらに、離人して他者の記憶の中を飛び回るやつの想起となると、まず無理だ。だから私達は外脳とリンクする。
「記憶工場の位置を探り出せ。それが今回のお前の仕事だ」
媒体の容量を見るに、かなり長い記憶のようだ。私はため息をつく。
「『記憶の宮殿(チャンドラマハル)』にやらせればいいじゃん」
「奴の外脳ノーランは修復中だ。『名探偵(シャーロック)』とクロサワも休暇中」
「いいじゃねえか、ほらボスの紅茶だぜ」スピルバーグが画面越しに無責任に笑う。
私は紅茶を受け取る。やるしかないか、と口に出してから、その香りを吸い込み、想起を開始する。
私は、香りを契機(トリガー)にして離人する。
まずはこの捜査官の、離人の契機を割り出さねばならない。

【続く】

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