古書からの秋便り[エッセイ]
読書が好きで、気づけば数が増えている。
押し入れの扉がひっかかりだしたら、増えすぎだ。
殿堂入り以外を引っ張り出して、平積みの山を築く。
処分はしたいが、名残惜しい世界との別れは、時間がかかる。
迷うものは、保留コーナーを作って置いても良いと言う知識は、まだ無いころだった。
幸い部屋を2室、使えたので、数日後には、処分本の山が出来上がった。
段ボールに入れる前に、挟まった私物がないか、ページをめくって点検をしていたら、中の大判コミックスから、はらり、と縦長の一筆箋が出てきた。
「楽しかったです、ありがとうございました。元気でお過ごしください」
見合い相手に貸していた、平安時代が舞台の最新刊。
仲人さんを通じ、まとめて返って来たものだった。
日付は、2年半前。
話も合い、ご家族も優しかった。
好きな漫画を貸すぐらいだから、気心は合った。
ただ、ここが肝心で。
彼とはどうしても、手をつなぐ事を想像するだけで、胃が重いような気になった。
一筆箋を手近な小机に置き、飛ばないように重石をしてから、残りの点検をしていく。
肌寒くなってきた初秋でも、じっとり、肌着に汗がにじむ。
一息つこうと立ち上がったら、平積の一角が、ドサリ、と、なだれを起こした。
足元の英語版スヌーピーを、数冊、つかんで、山に重ね直す。
今度は、中の一冊から、大き目の紙片が、はみ出してきた。
引っ張ってみると、二つ折りの便箋。
柄は、花束をかかえたスヌーピー、ラブレターを運んでいるウッドストック。
「たくさんの楽しい時間をありがとうございました。どうかご健勝で。Good Luck!」
かちかちとした几帳面な文字だが、上手い、とはお世辞にも言えない。
独特のインクの濃淡と、太めの線は、彼のお気に入りの万年筆で書いたのだろう。
ページを開くと、ウッドストックが籠の中につかまってしまい、弁護士を呼べ、と、のたまっている。
ここに挟んだのを、忘れていた。
……ふん、綺麗事、言って。
一筆箋の下に便箋を敷き込んで、階下にコーヒーを淹れに行く。
彼の愛車は旧式のローバーミニだった。
日本車と違って、妙なところがよく壊れて、と、ぼやきながらも、彼の目はうっすら細くなり、口角も微かに上がっていた。
車内ミラーで髪をせわしなくとかし、澄まし顔で待つ仕草に、愛嬌はあるが、色気はない。
多分、聞かれるつもりのない、密かな独り言。
聞こえてしまったとたん、踏み出そうとした足と気持ちは、回れ右をした。
……そんなこと、思ってたんだ……じゃあ、味方じゃないじゃん、敵じゃん、それ。
間もなくご縁があり、お子様も出来たらしい。
コーヒーを淹れ、マグカップを部屋に持って上がる。
椅子にもたれて、一口含み、ホッと息を吐く。
このグァテマラ、やっぱり美味しい。
目の前の網戸ごしに、秋の稲刈り後の青い香りが部屋に入り込み、コーヒーの燻した香りと清々しいようなハーモニーを奏でる。
椅子から立ち上がり、小机の一筆箋と便箋を両手で額に当てて、黙礼する。
「ありがとうございました」
二つをそっと、シュレッダーにかける。
バリバリと勇壮な機械音を聞きながら、大きく背伸びをした。
当初の目算通り、一筆箋の出てきた大判コミックは高額査定がつき、さびしくなっていた私の懐は、少々潤った。
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当該作品は実体験ベース、フィクション込みのエッセイとなっております。
全体構成チェック・誤字脱字二重記載揺れ等点検 Gemini&ChatGpt&Claude
タイトル、本文、全て当人記載、修正例、単語に至るまでAIには書かせておりません。
