見出し画像

おしどり

小泉八雲の「おしどり」という作品を、朗読してみたかったのですが、青空文庫に無いので、訳してみました。

おしどり
作 小泉八雲 
訳 ねこつう

ある所に、孫庄という猟師がいた。彼は、陸奥の国の田村(たむらの)郷(ごう)と呼ばれる所に住んでいた。
ある日、彼は猟に出かけたが、獲物を見つけることができなかった。
しかし、彼が赤沼と呼ばれる所を渡ろうとしていたとき、おしどりのつがいが、連れだって泳いでいるのを見つけた。
おしどりを殺すのは、良くないこととされている。
しかし、孫庄はとても空腹だったので、そのつがいに矢を射かけた。
彼は、雄を仕留めた。しかし、雌は急いで逃げ、対岸の茂みの間に消えた。
孫庄は、仕留めた鳥を持ち帰り、それを調理した。

その晩、彼は悲しく妖しい夢を見た。
朧気な意識の中で、美しい女性が彼の部屋にいるように感じた。そして、その女性は、すすり泣き始めたのだ。
その嘆き悲しみ方が、あまりに痛々しく、孫庄は、聞いていて、胸を切り裂かれるようだった。

その女性は叫ぶのだった。
「なぜ、彼を殺したのです? 
彼が、どんな罪を犯しましたか?
あなたに、どんな悪い事をしましたか?
赤沼で私たちは、ただ静かに生きていただけだったのに。
それなのに、あなたは、彼を殺した!
彼は、あなたに対して、何か害のあることをしましたか?
あなたは、自分がどんなことをしたか、わかっていますか?
あなたは、私をも殺したのです。
私は、ただ、それを伝えるために参りました……」

そして、彼女は、またすすり泣いた。その悲しげな様子は、聞いている者の骨に染み入るような痛烈さであった。
そして、彼女は、泣きながら、次のような短歌を歌ったのである。

日暮るれば誘いしものを赤沼の
真菰隠れのひとり寝ぞ憂き
 
これは、
夕方には、彼を呼んで、一緒に眠った。今は、ひとりで、赤沼の茂みで、浮いて寝ている。悲しく憂(うれ)いに満ちた気持ちだ。
という意味である。

そして、そのあと、また彼女は、激しく叫んだ。

「あなたは、自分のなされたことが、どんなことなのか、わかっていないのです。
しかし、赤沼にあなたが来てくだされば、私は、それを、見せてさしあげます」

そういうと、彼女は、また悲痛な泣き声を上げて、立ち去った。
孫庄は、朝、目覚めた時、その夢の中での異常な出来事を鮮明に覚えていた。

彼は、彼女の言っていた言葉を思い出した。

「しかし、赤沼にあなたが来てくだされば、私は、それを、見せてさしあげます」

彼は、そのことがただの夢なのか、それとも夢以上の何かがあるのかどうか、すぐに確かめたいと思った。
それで、赤沼に出かけて行った。

彼は、雌のおしどりが一羽で、岸近くに泳いでいるのを見つけた。
すぐに、その鳥の方も、孫庄を見た。しかし、鳥は、なぜか逃げようとしない。
それどころか、鳥は、孫庄をじっと見つめながら、泳ぎ、近づいてきたのだ。
そして、彼女は、突然、自らの嘴で自分の胸を引き裂いた。
鳥は、孫庄の目の前で死んでしまった。
孫庄は、髪の毛を剃り、僧侶になった。


作品ご利用に関して

・この作品は朗読、配信などで、非商用に限り、無料にて利用していただけますが翻訳の著作権は放棄しておりません。テキストに関するの翻訳の著作権は、ねこつうに帰属します。
・配信の際は、概要欄または、サムネイルなどに、作品タイトル、原作者名、翻訳者名、掲載URLのクレジットをお願いいたします。
・また、本規約は予告なく変更できるものとします。当テキストを用いた際のトラブルには如何なる場合もご対応いたしかねますので、自己責任にてお願いいたします。

その他の作品への目次

いいなと思ったら応援しよう!