母の入院(4)~ 心と治癒力
◆ 記録の意味
なかなか日々の雑事で疲れてしまって、記録ができないでいる。でも、記録は書いた方がいい。箇条書きでも構わない。覚え書きの意味だけではなく、自分の気持ちをきちんと感じるためにも。人は忙しすぎると、自分の感情をきちんと感じないで飲み込んでいく。それは、心身に良くない。
◆ 入院のリスク
高齢の母が転んで大腿骨を折った。高齢の人が入院すると、いろいろなリスクがある。入院中に別の病気が発生する可能性がある。導尿をしているので、尿路感染が起きたり、肺炎とか、感染症が起きる可能性。そして、動かないから、血栓が起きやすくなり、脳梗塞や肺塞栓が起きたり。さらに深刻なのは、認知症のリスクである。
◆ 術後せん妄
術後せん妄という言葉をご存じだろうか。高齢者に限らず、手術をすると、精神的におかしくなる。反応がなかったり、頓珍漢な会話をしたり、中には幻視が見えたりする人もいる。
手術によって過度な心身の負担、特に麻酔などで脳がおかしくなっていて、そんな症状を起こさせるのではないかと言われていて、看護師さんによると、8割の人が手術後になるという。
若くても術後せん妄になる場合もあって、私が知っている方は、20代のときにがんを発症して、手術をしたあと、夜中に目が覚めると、陰惨なハロウィンのように、仮面をかぶった人たちがベッドの周りを取り囲んでいる幻視が見えたそうだ。幸い、しばらくすると、治っていったそうだが。
◆ 認知症の影響
その方は、あるがん患者の会の代表をされていたが、高齢者ががんの手術を受ける際に難しいのが、一定の割合で認知症になってしまうということだと言っていた。
認知症になると、いろんな自分の危険に対する防御を考えられなくなるので、ほかの病気やケガのリスクが跳ね上がると思ったし、実際にそうである。
それに、認知症が進むと、母のように骨折でリハビリが必要な場合、相手の言葉を理解できず、リハビリが非常に難しくなる。
余談だが、動物の骨折は非常に治療が難しいそうだ。自分が骨折したという認識ができなくて、何に気をつけて骨折を酷くしないようにすればいいのか、伝えられないから。動物の骨折はどうにもならず、そのまま……ということが多いそうだ。
◆ 骨折と精神的負担
母の場合も、手術をしたあと、麻酔が覚めても、頓珍漢なことをやはり言っていたので、これは戻るのだろうかと、とても心配だったが、翌日にはある程度会話できるようになった。まず、第一の関門は大丈夫だった。
何にしろ、認知症とか、うつ病を起こしてはいけないと思った。健康な人は想像しにくいかもしれないが、大腿骨の骨折なんて、滅茶苦茶な痛みを抱える。もう、それだけでストレスなのに、体が動かせないわ、変化のない病室にいるのだって、相当なロケーションダメージだ。認知症にならなくても、うつ状態になる可能性も十分あると思った。
◆触媒になる話題
そういうこともあって、私は会社勤めじゃないから、比較的時間の融通が利く。最初は、一日ごとに見舞いに行った。
それから、これは偶然だったのだが、母は植物が好きだったし、私も植物が好きなので、散歩のときにスマホで撮影した写真に、植物の名前と簡単な説明を書いて(例えば、原産地を書くとか。コスモスなんかは、日本古来の植物に見えて、明治時代に渡ってきた南米原産の植物だ)。50種類くらい印刷して渡しただろうか。
母は、痛みや精神的な疲れのせいだと思うが、ラジオもテレビも聞いていられないと言っていた。でも、植物の写真と説明は、見ていられるし、すごく気が紛れると言っていた。
人は、同じ日本語ができるだけではなくて、何か共通の話題がないと、コミュニケーションが取れない。そして、本人に合ったものが必要になる。これは、病気やケガのときほど重要だ。
看護師さんや介護士さんには難しい分野だ。家族でなければ。私は持病があって、できることが少ない。植物の写真と説明を渡すことを、私の支援の中心にすることにした。
◆ 心と治癒力
『心と治癒力』という本を読んだことがあって、母がケガをする前に、偶然読み直していた。ずいぶん昔の本だが、ビル・モイヤーズというジャーナリストが、心にアプローチすることによって、病気の回復に大きな影響を与えるということについて、実践している専門家を取材した内容だった。
外科手術をした患者が、外の景色がよく見える部屋にいた場合と、よく見えない部屋にいた場合、統計的に明らかに、景色がよく見える部屋の方が回復が早いという、わかりやすい例もあったが、もっと専門的な内容があった。
ちょっと専門的な話になるが、本来、脳にだけあると思われた情報伝達物質が、体中で見つかって、心は脳だけにあるのではなくて、体中の神経ネットワークも心に含まれるのではないかと語っていた専門家がいた。
神経系と免疫系が連絡を取り合っていて、心の状態と感染症のリスクは密接に関係しているであろう予想。
免疫だけでなく、心の状態もそうだが、血流その他の循環もよくなるはずだから、回復にものすごく影響が出るであろうこと。
私も、なんだか、直感的にそんな感じがしていたので(実際に体験したことや見聞きしたことで、そんなふうに感じていたのだが、長くなるので機会があったら別に書きたいと思う)、絶対に心に働きかけた方がいいと感じていた。
頻繁に見舞いに行ったり、植物の写真を持っていったりということで、母には感謝されているけれど、そういうものが根底になっている。やっていることは、親切心からだけではない。
◆ 伝えたいこと
たぶん、これは大事なことだ。そして、ケガや病気を抱えることは、誰でもあることだ。何か、参考になればと思って、シェアさせていただいた。
◆
追記
母の経過
80代の母は
大腿骨を複雑骨折し、受傷から5日後に手術。
手術直後は寝たきりで、おむつと導尿による排泄管理が必要だった。
その後リハビリを開始し、約10日後には自力で起き上がり、ベッド脇のおまるで排泄できるようになった。
改善は年齢の割には早いほうだと思う。
