【ショートストーリー】嘘つきは失恋の始まり
「アイデアが尽きた。俺はもう終わりや」
机に突っ伏して、航は情けない声で呟く。航の部屋に遊びに来ている茜は、そんな航を冷たい目で見て一言。
「うわあ、また言うてるわ。何回終わったら気い済むねん」
航はムッとして顔を上げた。
「そもそもな、俺には恋愛小説や無理やねん。出会いがありきたりとか、心の機微が書けてないとか言われても、もう知らんがな!」
その言葉にカチンときた茜は、腰に手を当てて仁王立ちになった。幼なじみの航には分かる。これは完全に戦闘モードだ。案の定、茜は先ほどよりも尖った声で言い返してきた。
「はあ?わたるクン、何、小学生みたいなこと言うてんの。自分、もう大学生やろ」
「ちゃうねん!そういう問題やのうて、俺が書きたいんはミステリーやねん!絶海の孤島とか、雪の密室とか、嵐の山荘とか、ほんまはそんなんが書きたいのに、茜がダメ出しするから……」
「いや、あれはあかんやろ。隠し部屋とか、隠し通路とか、反則技ばっかりやん。しまいに『瞬間移動装置』に『タイムリープ』って、ミステリーファンから殺意抱かれるレベルにあかんわ」
「俺は斬新なアイデアも良いと思たのに……。けど、茜がそう言うから、次は新作ホラー書こうとしたのに、またダメ出ししたやんか」
「あれが新作ホラー?タクシーに乗ってきた白いワンピに黒髪ロングの女って、いつの時代の話か思たわ。挙げ句に女は消えて、シートが濡れてて、運転手は女に追いかけられる悪夢にうなされてって、あちこちで聞いたことある話、そのまんまやん」
茜は容赦なくぶった切ると、ため息をついた。
「ミステリーは論外、ホラーはオリジナリティゼロ、アオハルも恋愛も書かれへんって、書けるジャンルないやん。もう、書くの諦めたら?」
航は子どものようにふくれっ面になった。
「いやや。一作ぐらいは、茜がダメ出しできひんような話が書きたいから」
茜は不意を突かれてポカンとした。
「え?なんかの賞に応募するとか、そこで入賞狙てるとか言うてたやん?せやから私に読んで感想言うて欲しいんやって、ずっと思てたんやけど……」
航は茜から目を逸らして、ゴニョゴニョと言い訳を始める。
「いや、茜が小説が好きなん知ってるから、面白い話が書けたら俺のこと見直してくれるかなあ、とか。ほぼ、純愛からくる不純な動機みたいな……」
不器用な航なりの、精一杯の告白だった。もしかすると茜も少しは俺のことを……という淡い期待は、次の瞬間に打ち砕かれたが。
「はあ!?あんた、そんな気持ちで書いてたん!?うっわー、信じられへんわ。命削って書いてはる作家さんのことも、あんたのためにしょーもない小説もどき読んであげた私のことも、バカにしてるわ!」
「いや、違うねん。そんなつもりやのうて……」
「違えへんわ!金輪際、あんたの書いたもんは読まへんから。書きたかったら勝手に書いたらええけど、私を巻き込むんは止めてな。完全に時間の無駄やったわ。ほな!」
茜はバンッとドアを閉めて立ち去った。
「やってもうた。もう終わりや……」
航は項垂れて、今度は心の底から呟いたのだった。
(完)
こんばんは。こちらに参加させていただきます。
今回は、やらかしてしまった彼の話です。彼女の気持ちは分かりませんが。言葉通りかも知れないし、もしかしたら違う気持ちも混じっているのかも知れません。
ナルさん、またまたよろしくお願いします。読んでくださるだけで有り難いので、大変なら私の感想は飛ばしてくださって構いません。とにかく、無理はなさいませんようお願いしますね。
そして、ちょっと情けない彼の話を読んでくださった皆さん、どうもありがとうございました。
