【怪談ショートショート集 怪怪談談】 ♯16『公園少女』
♯16『公園少女』
文字数:約1,790字
残業を終えたOLが徒歩で帰っていた。
ある住宅地を通過していたとき、つと立ち止まる。
マンションに隣接する猫のひたいほどの公園に、女の子がひとりで居るのだ。
小学校中学年くらいの少女が、つまらなさそうに俯き、足だけでブランコをキコキコ揺さぶるようにしている。
腕時計は深夜23時を回ろうとしていた。
保護者らしき姿は見当たらない。
……近隣に暮らしている子供なのだろうか?
OLは心配に思ったが、肩から下げていたハンドバッグの紐をギュッと握りしめ、無視することに決めた。
このご時世である。
下手に関わり合いになって面倒事に巻き込まれるのは避けたい。
意を決して先を急ごうと思ったのだが、すぐに歩みを止めてしまう。
前方から若い二人組の男が歩いて来ていた。酔っ払っているのだろうか。千鳥足で互いに寄りかかり合うようにしながら「ギャハハハっ」と下卑た笑い声を上げている。服装もヤカラっぽい。
OLは公園に視線を移して、ブランコに乗っている少女をもう一度眺めた。
大人しそうな彼女は、整った可愛らしい顔立ちをしている。
「はぁ……」
と、OLは溜め息をついたあと少女のものとへ向かった。
◯
「こんばんは。あなたひとりなの?」
「…………」
ブランコに座る少女の目の前まで来てOLが話しかけると、顔を上げた彼女は黙ったままジッと見つめ返してくる。
「お姉さんねぇ、こんな夜遅くにひとりでどうしたんだろう?、って心配になって話しかけてみたんだけど。この近所の子なの?」
「…………」
少女は黙ったままだったが、小さく首肯すると、すぐ隣に建っているマンションの上層階を指で示す。
「ああ、このマンションに住んでるんだ」
「そう」と、少女が初めて口を開いた。
「お父さんとお母さんは? 今、おうちにいるの?」
「いるよ」
「じゃあ、迎えに来てもらおうか」
「むり」
即答してきたため、やはり複雑な事情を抱えた家庭の子供なのかもしれない、とOLは思った。
厄介事の香りが一気に強くなったが、それじゃバイバイ、と踵を返すわけにもいかない。
「どうして無理なのかな?」
「死んじゃってるから」
「…………え?」
この子は今何と言ったのだろう。
OLが訊き返すよりも先に、
「ふたりとも部屋で死んでるの」
無感動にも淡々と、少女が繰り返す。
聞き間違いではなかったようだ……。
「……死んでる? どうして?」
「わたしがこうしたの」
ドスッ
胸に衝撃を受けたOLが視線を下げると、少女の握りこぶしが当たっている。
少女が手をひっこめると、胸元から生えたような果物ナイフの柄が見えた。
……えっ、あたし刺されたの?
と、OLが思ったときにはもう全身の力が抜けて地面に倒れ込んでいた。
ブランコから立ち上がった少女は、倒れ伏したOLの肩に下がっていたハンドバッグを、無理矢理ひったくり、駆け出す。
公園から飛び出していく少女を、OLは霞んだ目で見つめるしかなかった。
「じゃまだどけろ!」
と、少女は、公園の前を通りかかったヤカラ風の男二人組に罵声を浴びせ、走っていく。彼女が住んでいると言っていたマンションも通り過ぎて、走っていく。
「ったく、なんだよあのガキ、こえぇな」
「おい、人が倒れてる!」
ヤカラ風の男二人組が、ブランコの前で倒れているOLに気づき、駆け寄ってくる。
「どうしました!? 大丈夫ですか!?」
「やべぇ、刺されてんぞ。救急車!!」
男二人組は動揺しているもののスマートフォンで即座に119番に電話し、救急車を要請。
「お姉さん、しっかりしてください! 自分の名前は言えますか?」
「ナイフは抜かずにそのままにしておけ、だってさ!」
「血ぃ止める方法、はやく聞けよ!」
「すぐ救急車が来ますよ!」
薄れゆく意識の中でOLは学びを得た。
……人は見かけじゃわかんないな。
けどもう遅かった。
(了)
