【怪談ショートショート集 怪怪談談】 ♯17『夢と同じ』
♯17『夢と同じ』
文字数:約2,060字
ある日の夕方、女子高生は駅のプラットホームで電車待ちをしていた。
乗り口の最前列に立ち、スマホを手元でいじっている。
ふと顔を上げた女子高生の目に、線路を挟んだ先の向かい側ホームの様子が映る。
彼女のちょうど正面に立っていたのは、紐付きの赤い風船を持つ幼い女の子とその手を握る母親だ。
……あっ、あの風船、紐が切れて飛んでく。
女子高生はふとそう思った。
そして思った直後に本当に紐が切れてしまい、赤い風船が母子のもとから空に向かって上昇していく。
泣き出した幼い女の子となだめる母親の様子を眺めながら、女子高生は自分の思ったことが当たったことに驚いた。でも、女の子は紐を何度もひっぱるようにしていたのだから誰にでも予想がつく結果だった、と冷静になって、スマホの画面に顔を下げた。しかしすぐに何事か気になる様子で、向かい側のホームへと視線を戻す。
……あそこのベンチに座ってるリーマンが週刊誌を読み始める。
女子高校生がまた思った直後に、顔を向けた先でベンチに座っていたリーマンが、カバンからおもむろに週刊誌を取り出して、読み始めたのだ。
呆然とした表情になった女子高校生はさらに、ベンチの近くに設置されている自販機に視線を移す。そこでは3人の男子中学生が飲み物を購入しているところだった。
……最後に買う男の子は、コーラのボタンを押したはずなのにブラックコーヒーが出てくる。
向かいのホームから熱い視線が注がれていることを知らないまま、身を屈めた3番目の男の子が取り出し口から缶を取り出す。
「うわっ。コーラ押したのにコーヒー出てきたんだけど。しかもブラック!」
中学生3人組の笑い声と嘆き声が聞こえてくる中、確信した女子高生がつぶやく。
「……デジャヴだ」
向かい側のプラットホームで繰り広げられている状況に既視感があるのだ。
なんとなく前にもあった気がするというような薄らぼんやりとしたレベルではない。
先読みしたことが的中するくらいなのだ。
もはや既視感の域を超えている。
この状況を過去に一度経験しているはずなのである。
この光景を間違いなく目にしていたはずだった。
一体いつ? どこで?
「夢だ……夢の中で見たんだ」
そこまでは思い出した。
悪夢だったことも思い出せた。
このあとの展開で、なにか良くないことが自分の身に降りかかるはずなのだ。
でもそれがなんなのかをどうしても思い出せない。
……思い出せ、思い出せ、思い出せ。
女子高生は向かいのホームの状況変化から手掛かりを得ようとした。
腰を曲げて歩いている老婆が目に留まる。
……あのおばあちゃんが関係していたはず。
ホームを歩いている老婆に何かが生じたあと、それに連動する形で、自分の身にも何かが起こる。
と、だんだん記憶がよみがえってきた。
……たしか、もうすぐ転んじゃうんだ。
そして、みんなの目が転倒した老婆に向いている最中、自分の身にも――。
「!」
思い出してハッとした瞬間、女子高生は猛然と背後を振り返る。
バチーーーン!
振り返りざま、後方に立っていた男子大学生の顔を、おもいっきり平手打ちした。
「この人、痴漢です!」
大声をあげた女子高校生の訴えで、周囲は騒然となった。
男子大学生はホームに居た男性たちによって確保され、すぐに駅員も駆けつけてくる。
「僕は何もしてませんよ」男子大学生は大狼狽で首をふって否認した。「電車待ってたら、この子が振り返っていきなり殴りかかってきたんです。僕のほうが被害者ですよ!!」
「嘘をつくな」と駅員。
「その男の人が言ってること、たぶん嘘じゃないですよ」
帰宅時間帯のホームには多くの人がいたため、どうやら男子大学生の訴えが正しいということが判明する。
一転、女子高生に疑いの視線が注がれた。
「本当に痴漢をされたんですか?」
「はい! 間違いありません。この顔です。向こう側のホームに居るあのお婆ちゃんが転んだあと、私は後ろからおもいっきり抱きつかれたんです!」
「あのお婆さんは転んでなんかいませんよ」
「転ぶはずだったんですよ!」
「……はずだった、とは?」
「転んだんです、夢の中では! 私が見ていた夢では、その直後に抱きつかれるはずだったんですけど、先手を打ってぶっ叩いたから、犯行を未然に防いだんです!」
その後、警察に引き渡されることになったのは、女子高生である。
両脇を抱えられて喚き散らしながら彼女は連行されて行った。
その様子を見送りながら唖然としていた男子大学生がつぶやく。
「……夢と同じじゃないか、すっかり」
(了)
