【怪談ショートショート集 怪怪談談】 ♯06『窓際嫌いの子』
♯06『窓際嫌いの子』
文字数:約1,590字
ある小学校に窓際の席を嫌がる子供がいた。
席替えをして窓際になると必ず「窓から離れた席に移してください……」と今にも泣きそうな顔で担任に訴えるのだ。
窓際を好む児童が多い中、彼女だけは「ぜったいにイヤだ」と言ってきかない。
「どうして窓のそばは嫌なのかな?」
担任の男性教師が問うと、
「花壇が見えるから……」
窓側から顔を背けるようにして彼女は答えた。
クラスは一階に位置しており、窓からは校舎脇に設けられた学級花壇が間近に見えている。
「花壇が見えると何か困ることがあるの?」
こくんと小さくうなずいたあと、女の子はしばらくだまった。
男性教師が、何かな?、と促すようにして、ようやく口を開く。
「ときどき花壇に、人の手が生えているからイヤなの……」
「人の手が生えてる?」
こくんっと今度は力強くうなずいた。
女の子の話によれば、花壇に植えられた花に混ざり、人の手が生えているときがあるのだそうだ。
目にするたびに生えている場所は変わっている。
手の長さは、その時々に植えられている花の背丈によって変わるらしい。
パンジーのように地表近くに花を咲かせる場合は、手首から先が土の上に覗いて見える状態。
ヒマワリのように丈が長い場合は、地面から腕がありえないほど長く伸びていて、ヒマワリの花と同じ位置で手のひらを広げているのだという。
そして、目撃してしまったときにはいつも、
おいで、おいで
と、手招きしてくるのだそうだ。
席替えのたびにその子だけを贔屓するわけにもいかず、今回は窓際で我慢するようにと、男性教師は言い聞かせた。
「もう生えて来ないように先生が明日まで花壇を調べておくから」
「ほんとう?」
「約束する」
花壇から人の手など生えて来るわけがない。
しかし約束してしまったからには、解決策を探し出さねばならない。
これが手に見えていたんだよ、と提示して女の子を安心させるものを。
日も暮れかけた帰宅前に、男性教師は学級花壇を調査してみた。
現在は色とりどりのマリーゴールドが花を咲かせた空間になっている。
辺りを歩き回り、ところどころで立ち止まって、茎をよけてみたり、奥の方を覗いてみたり……。
だが結局、人の手に見えそうなものを発見することはできなかった。
「家に帰ってからの宿題だな」
と、学級花壇から去ろうとしたときである。
男性教師は足を取られたように転んでしまった。
顔を起こしてみると、足首に何かが絡まっているのが見える。
手に取ってみると、それは、ただの雑草だった。
男性教師が倒れた近くの地面には、除草されてまとめ置かれたままになっている草の塊があった。
薄暗かったため、どうやらそこに足をひっかけてしまったらしい。
「……これも人の手には見えないな」
立ち上がって土を払い落とし、男性教師は帰途についた。
その夜のことである。
風呂に入ろうと脱衣所で服を脱いだ際に、男性教師は気づいた。
いつのまにか足首に覚えのない赤い痕が生じているのだ。
「なんだこれ……手形?」
まるで人の手に掴まれたような形をしている。
試しに自分の手のひらを当ててみると、五本の指の位置がおおむね重なった。
その晩、男性教師はなかなか寝付くことができなかった。
閉じた瞼の裏に、どうしても窓際嫌いの女の子の顔が浮かんで来てしまうからである。
彼女は今日の別れ際に言っていたのだ。
「花壇で転んだ次の日から、見えるようになったの」、と……。
(了)
