【怪談ショートショート集 怪怪談談】 ♯23『憧れの首なしライダー』
♯23『憧れの首なしライダー』
文字数:約1,830字
ある田舎町を珍走団(古称:暴走族)が走っていた。
夜も更けているのに近隣住人の迷惑も顧みず、
パラリラパラリラ ブンブンブブブン
と、喧しい騒音を轟かせてる。
赤ちゃんがようやく寝ついたところだったかもしれない、会社員が残業からヘトヘトになって帰ってきてやっとの思いで布団に入っとところだったかもしれない、翌日に大事な試験を控えている学生がいたかもしれない。それら一切を想像することができないヤカラたちが、真夜中の道路を我が物顔で進んでいく。
みんなと同じことは嫌だと言っておきながら、みんなで徒党を組み、みながみな、ダサさを追求して極めようとしているような似たりよったりの魔改造バイクに跨がり、それいくらで売っているんですかと訊きたくなるようなお揃いの特攻服を着て、無駄に鉄パイプなどを手にしながら、もちろんヘルメットは被らず、あらゆる道路交通法を無視し、守られているのはトロトロとした法定速度くらいなもので、信号無視の蛇行運転を続けている。
「どけどけぇ~、どけどけぇ~」
「邪魔だ、邪魔だ」
「ひき殺されてぇ~のか!」
「バカヤロコノヤロめ!」
と、口々に言っていたかどうかはわからないが、珍走団たちは、ある集落の坂道に差し掛かっていた。
下り坂のため、トロトロ走っていたスピードが自然と加速していく。
むしろ家が集まっているここぞとばかりにハンドルを捻る。
パシューーーンッ
空気を切るような音が近隣のブロック塀に反響したあと、突然、先頭を走っていた特攻隊長のバイクが横転した。それを皮切りに、数珠つなぎになっていた珍走団たちが、次から次へと転んでいき、けっきょく、後続バイクのすべてが転倒する大惨事となった。
バイクのアイドリング音だけが響く中、頭を打って気絶していた珍走団の男のひとりが目を開けた。
最後尾を走っていたため、彼の視界には倒れた仲間たちと無数のバイクという無惨な光景が広がっている。
視線の先に、一名だけ、立って歩いている人物が居た。
あきらかに珍走団のメンバーではない。
中学生ほどの、パジャマ姿の少女である。
事故の音を聞きつけた近隣住人が駆けつけてくれたのかもしれない。
怪我の影響からか立ち上がれない男は、助けを求めようと試みるも、声が出せない状況だった。
こちらに気づいてくれるように祈って、うろうろ歩き回っている女の子を見つめていると、なにか様子がおかしい、と感じ取る。倒れているメンバーの状況確認をしているは間違いないのだが、聞こえてくる少女の独り言が、奇妙なのだ。
「こっちはダメだ、胸で切れてる……あっちもダメね、腰で切れてる……向こうは、惜しい、肩で切れてる……」
一体、なんの確認をしているんだ? 助けようとしているんじゃないのか?
「あっ、あれはどうかな」
振り返ったパジャマの少女が、男のほうへ近づいてくる。
気づいてもらえるチャンスだと思い、男は声を出そうとするが、やはり出せない。しかしどうやら少女が目指しているのは自分で間違いない。
身をかがめた少女が、頭に手を伸ばしてくる。
男の視界が、ふわっ、と急上昇した。
少女が彼の髪の毛を掴んで持ち上げたからだ。
「こいつもダメね、口で切れてる」
男の体は、口を境にして〝上下真っ二つ〟に切断されていたのである。
「要らな~い」
パジャマ少女が、半球体になっている男の頭部を、投げ捨てた。
男は着地した先で、自分の体の大部分が路上に倒れている光景を真正面から目撃する。
ぽたぽたっ ぽたぽたっ
空中にピンと張られた鋼鉄製のワイヤーから、血の雫が自分の体に垂れ落ちて来ている光景を目の当たりにしたあと、男の意識は闇に飲まれた。
◯
翌日から、ワイヤー設置による珍走団大量殺人事件の捜査が開始されたが、犯人が警察に捕まることはなかった。住民たちは『首なしライダーを生み出そうと実験しているマッドガール』が近隣に住んでいるこを知っていたが、みながみな、素知らぬ風を装った。いったい誰が、夜の平和を守った英雄を、てんで頼りにならなかった国家権力などに突き出そうものか。
(了)
