【ヴェネツィアの運河】ソラと一緒に旅する世界
イタリア・ヴェネツィアの午後。
空は淡い水色で、運河の水面がキラキラと光を跳ね返している。
ぼくは木の桟橋の端に座り、前足をかけて下をのぞきこんだ。

水の奥には、街の建物と空、そして“もうひとりのぼく”がゆらゆら映っている。
「みゃふ……」
風のにおいも、水の冷たさも、ぜんぶ初めてで、胸が小さく高鳴った。
ほどなくして、飼い主がぼくを呼んだ。
「ソラ、行こう」
その声につられて、ぼくは黒いゴンドラに乗り込んだ。

けれど、水の上は少し怖かった。
揺れるたびに足元の世界がゆがみ、ぼくは思わずしっぽをぎゅっと丸める。
座席の縁からそっと下をのぞくと、さっき見た“もうひとりのぼく”がまたそこにいて、今度は波にのまれるように消えていった。
ぼくは小さく息をのんで、耳をぴくりと動かした。

その瞬間、背中にやわらかい温もり。
飼い主の膝の上に乗せられて、ぼくはゆっくりと体を預けた。
「大丈夫。ここにいるよ」
声は聞こえなかったけど、手のぬくもりがそれを伝えてくれた。
風が頬を撫で、光がまぶたを透かして入ってくる。
怖さも、不安も、少しずつ溶けていった。
ぼくは小さくあくびをして、膝の上でごろんと横になった。

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