見出し画像

服部農園ヒーロー班 第3話

【第三話】
 バトルエージェントになることを決意した龍真は、夏期休業あけから、雷弾流の研修を受けることになった。それまでに、基本の呼吸法を会得するため、丈一や翔たちから手ほどきをうけていた。
 新入社員は呼吸法について入社時に教わっており、本来なら龍真は呼吸法を既に会得できているはずだった。しかし何も知らされていなかったため、急ピッチで呼吸法会得に向け、日々特訓を重ねていた。

 龍真が浜蔵機関について説明されないまま入社できたのは、はっきりとした理由は明かされないままだった。莉瀬に頼んで、浜蔵機関の本部で働く由那にも聞いてもらったが、それ以上の情報は得られなかった。
 由那は、龍真が正規の手順を踏んで採用された、新しいバトルエージェントだと認識していた。
 その後、丈一が仕入れた情報によると、どうやら龍真は魔力が安定していないらしい。そのため、採用するかどうかを決めかねている間に、内定の手続きだけは別進行しており、採用決定に至った可能性があると聞かされたが、何かまだ裏がありそうだった。
 しかしこれ以上のことは、分かりそうにない。
 採用に至る経緯はともかく、現実として服部農園に就職しているのだから、分からないことを考えても仕方なかった。
 それよりも、龍真はバトルエージェントとして、成果を出すことが重要だと考えた。

 魔力とは、人間なら誰もが持っている力で、異世界の技法である魔法を使用するのに必要となる。いわゆる『気』とはまた違ったもので、普通に生活していると意識して使うことはまずない。
 魔力は地球そのものがもつ力であり、直接大地に触れることで、補充、強化することができる。農園は、魔力の補充と強化の役目も持っていた。
 雷弾流忍法では、魔力を使って技を発する。翔の「迅雷」や「雷旋」がそれにあたる。
 服部農園は他にも全国に散らばっており、雷弾流の研修には各地から研修生が集まると言われた。その中で、龍真一人だけが基本の呼吸法ができていない状態は良くない。

 必死の努力で、夏期休業に入る直前、なんとか基本の呼吸法を会得することができた。
 常日頃からこの呼吸法を心がけていることで、身体能力が上がり、魔力も安定して引き出せるようになるという。
 服部産業の夏祭りでヒーローショーをやっても、丈一や翔たちが熱中症にならない理由がここにあった。

 研修に向け、龍真は夏期休業中も呼吸法の連取を続けていた。
 そんな夏休みのある日、街中へ買い物に出かけた龍真は、一人の女性から声を掛けられる。背の高いとても美しい女性だった。ワンピースからは、白くすらりとした手足が伸びている。
「落とされましたよ」
 女性が手にしているのは、龍真の財布だった。
 ポケットを探ると、確かに財布がない。龍真は礼を言って財布を受け取った。 
 では、と女性が微笑みを残して立ち去る。
 龍真はその後ろ姿を見えなくなるまで見つめていた。一目見たときから、龍真は心を奪われた。こんなことは初めてだった。
 龍真の脳裏には、女性の姿がいつまでも残り続けた。




第一話はこちらから


いいなと思ったら応援しよう!