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おべんとうのおはな

ぼくのおべんとうは ちゃいろい

たまごやき ウインナー ごはん まいにち おんなじ

みんなのおべんとうには
くまさんがいたり
おほしさまがいたり
ピンクとかきいろとか いっぱい

ぼくのは ちゃいろい

あるひ ママに ゆった

「なんでぼくのおべんとう かわいくないの」

ママは ちょっとわらって 「ごめんね」

「ほんとうにごめんね がんばってるんだけどね」って ゆった



ぼくは なんだか むねがいたくなった




つぎのひ おべんとうをあけたら おはながさいていた


ひとつだけ


せんせいが「ゆうとくん、おはなさいてるね!ハムでつくってあるんだ、すごいね」って ゆった


ぼくはそのおはなをみたとき からだが ぎゅうってなった



たからものだ っておもった



だから ハムのおはな さいごまで たべれなかった





よるのおふろで パパが「ゆうと おまえ ハム いやか?」ってゆった

「ううん やじゃないよ」

「じゃあどうして――」

パパはそれいじょういわないで あたまをあらいはじめた


パパのせなかをみながら おべんとうにのこしたおはなのことをおもった

なんでかわからないけど おこられるきがした




つぎのひ おべんとうをあけるのがこわかった


あけた


いつもの ちゃいろいおべんとうだった


せんせいが「きょうはおはなさいてないね」って ゆった



ぼくはないた  おおきなこえでないた


せんせい びっくりさせちゃった
ぼくもびっくりしちゃった


・・・・・・


おねつがあったみたいで ママがむかえにきた

「ゆうと だいじょうぶ?しんどくない?」
「…おべんとうたべれた?」


だいじょうぶ しんどくないよ


ママ きのうのおはな どうしてきえちゃったの?   ぼくのせい?


ごめんね


ママも 

「ごめんね おはなおいしくなかったかな ごめんね」

って



ううん ちがうよ

たからものの おはなみつけたから ママにもみてほしくて のこしておいたの

すごくかわいかったんだよ ママもみてくれた?


ママがないていた


ぼくはなんでかわからないけど 「やっぱり」っておもった


「おかあさん ぼく またハムのおはなつくってほしい」


おかあさんが ぼくをみて


「うん ありがとう」

ってゆった


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「優斗のおべんとう」

私には、「優斗(ゆうと)」という4歳の息子がいます。
優斗は、体が弱く、食べ物のアレルギーを持っています。
優斗のお弁当は、栄養士の先生にみてもらった、アレルギー物質の回避と栄養バランスを両立させた質素なものになっています。

ある日、優斗に言われました。
「なんでぼくのおべんとう かわいくないの」
私は、ぐっとこみあげてくるものを必死に抑えながら、すっと笑って
「ごめんね」って言った。

「ほんとうにごめんね がんばってるんだけどね」

優斗を強く、丈夫な体に産んであげられなかった分、優斗の前では弱音を吐かない強い母親でいたかった。
だけどその時だけは思わず、言わなくてもいい言葉まで吐き出してしまいました。



家に帰って、すぐに「おべんとう」で調べたInstagramとアレルギーの診断書をテーブルに並べました。

「ハムのお花・・・」

栄養士の先生に連絡をして、ハムが大丈夫か聞きました。
「ハムの件ですね。まず確認なんですが、優斗くん、卵黄の卵焼きは食べられていますか?」
「はい、問題なく食べています。」
「PFAS(花粉-食物アレルギー症候群)の症状は出ていませんか?」
「それも大丈夫です。この1年間、特に変わりありません。」
「優斗君もお母さんもがんばってますね。」
「それでは、ハムですが卵白不使用のものからチャレンジしてください。」


その日の夜、私は必死でハムのお花づくりを練習しました。
写真や動画だと、くるっと丸めてパッと開くだけに見えますが、これが実際はとても難しい。
失敗したハムを夫が笑いながら晩酌のお供にしていました。


ひとつだけ

きれいな「ハムのお花」ができました。

いつものおべんとうに ひとつだけ

そっとハムのお花を置いた時、一輪のお花が咲いたようで、
「これでよかったんだ」と、すっと道が開けたような気がしました。



その朝、先生にも伝えました。
「優斗のお弁当、今日初めてハムが入っています。アレルギーは大丈夫だと思いますが、様子みてやってください。」


その日は、優斗が大丈夫だったか、ハムのお花を喜んでくれたかな、と、ドキドキしながら帰りを待ちました。

返ってきたおべんとうを開けると、少し形の崩れたハムのお花がそっと残っていました。

「あーぁ、だめだったか。」

私はそのお花を、パッとつまんで食べた。

シンクに流れる水の音だけが聞こえるキッチンで食べたハムは、少しだけ、少しだけ涙の味がした。



夫が帰宅すると「優斗、どうだった?」と聞きました。

私はそっと首を振りました。

「そうか。」

その一言だけ返して、夫は優斗とお風呂に入っていきました。

お風呂から上がった夫も優斗も、ハムのことはなにも言いませんでした。
明るく賑やかな、いつもとおなじ夜が過ぎていきました。



次の日、私はおべんとうにお花を咲かせてあげることができませんでした。



お昼過ぎに、携帯が鳴りました。

「優斗君がおべんとうの時間に急に泣き出しちゃって。一応おねつ測ってみたら37.8℃あったので、お迎えお願いします。」

私は車を走らせました。

ケアルームの先生が言いました。
「優斗君、おねつ下がったみたいです。今日はゆっくり休ませてあげてください。」


帰り道、優斗に聞きました。


「優斗、大丈夫?しんどくない?」

「・・・おべんとう食べれた?」


「だいじょうぶ しんどくないよ」


それを聞いて、良かった、とほっとしました。


少しの間があったでしょうか。優斗が続けて言いました。


「ママ きのうのおはな どうしてきえちゃったの?」 

「ぼくのせい?」



「・・・ごめんね。」



優斗の「ごめんね」が、私の胸を刺しました。


ぐっと堪えて、優斗に言いました。


「ごめんね おはなおいしくなかったかな ごめんね」


溢れてくる熱いものを必死で抑えていると、優斗が言いました。


「ううん ちがうよ」

「たからものの おはなみつけたから ママにもみてほしくて のこしておいたの」

「すごくかわいかったんだよ ママもみてくれた?」



昨日のおべんとうに残っていた、少し形の崩れたハムのお花を思い出しました。


私は溢れる涙を止めることができませんでした。


優斗の前では泣かないと決めていたのに。


優しく優斗の声が聞こえてきました。


「おかあさん ぼく またハムのおはなつくってほしい」


私の涙をみても、なにも言わない優斗に向かって、私はできる限りの笑顔で答えました。


「うん ありがとう」

って

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