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宇宙建築が拓く人類の未来<竹中工務店インタビュー>

国際社会経済研究所(IISE)では、人類の未来を拓くカギの1つとして、宇宙コモンズに注目し、宇宙ステーションや月面、衛星データなどを対象にその可能性を探索してきました(No.1,2,3,4,5)。
このシリーズでは、宇宙コモンズに関わるキーパーソンにお話をお伺いし、宇宙コモンズの可能性を深堀していきます。第1弾では、IISE理事/CTOであり宇宙飛行士である野口聡一さんに宇宙コモンズの可能性を伺いました。続く第2弾は、竹中工務店の佐藤さん、田中さんをお迎えし、コモンズとしての宇宙建築の未来、その地球社会への還元などについて、お話を伺います。


お二人のプロフィール

宇宙建築タスクフォースチーム結成

― 宇宙建築タスクフォースチーム結成の経緯を教えてください。

佐藤:元々、田中さんとは学生時代から面識がありまして、竹中工務店に2006年に同期入社しました。長らく別の本支店で働いていましたが、2022年のJAXAの宇宙飛行士選抜試験の受験をきっかけに、お互いが宇宙に興味があったことを初めて知りました。

田中:「建築」という現実の仕事と「宇宙」という憧れの仕事を組み合わせようと盛り上がって。さらに、同じタイミングで2022年に社内で7年ぶりに新規事業コンペが全社的に開催され、宇宙建築のビジネスモデルを提案したんです。会社の役員の目に留まり、予算がつき、社内ネットワークにつながりました。

佐藤:社内
アピールや思考のエクササイズのために、社外の設計コンペティション(宇宙建築賞)に月面居住の第一歩として「Lunar Tower」の建設を提案したところ最優秀賞をいただきました。2023年から宇宙建築タスクフォースチーム(TSX)として、正式な組織が発足し、現在20名程度の体制で活動しています。

田中:TSXには、2010年代後半から竹中工務店が取り組んでいた植物栽培チームや小型ロボットチームのメンバーなども合流して、宇宙建築のワンチームとして活動が開始しています。また、実は1990年代の火星基地構想のデザインに関わった人もいるんですよね。

火星基地構想(Credit:竹中工務店)

― 宇宙建築タスクフォースの取り組みについて教えてください。

佐藤:NASAやJAXAの月面シナリオを参考に、竹中工務店としてのロードマップをバックキャストで作りました。TSXのゴールは大きく2つあり、まず本業の建設会社としての宇宙での総合設計施工サービス、次に宇宙という極限環境でのQOL(Quality of Life)向上です。肉体的にも精神的にもそこまで訓練していなくても快適に生活できる空間や環境の実現を目指しています。

田中:8つの研究テーマをたて、特に「宇宙建築の設計基準研究」と「宇宙QOLの研究」に注力しています。宇宙建築設計基準は空間の広さ、温湿度、セキュリティなどから防災計画まで多岐にわたります。一つ一つがこれから深い検討が必要です。2030年代の宇宙建築の実現を目指しています。

佐藤:我々の検討の1つに先に述べたLunar Towerもあります。月面での自重耐久性や、月面で風がない点、地球の1日(24時間)が月面では28日(太陽が当たる時間が14日おき)になる点などに起因する新たな設計基準の検討が必要でした。

月の縦孔からそびえ立つLunar Tower(Credit:竹中工務店)

― Lunar Towerの特徴は何ですか。

佐藤:Lunar Towerは、月の通信やエネルギーを担う重要なインフラ施設です。太陽発電による集光機能も備えていて、クレーターや丘のある月面において、高いタワーですと長距離で通信やエネルギーを無線供給できます。月面都市の1つのシンボルにもなると考えています。構造面では、月面における1/6Gでの耐荷重を考慮して設計し、450本のリングから構成され、すべての材料を1回のロケット打ち上げで運べるように工夫しています。

田中:月面での居住を考えたとき、隕石や放射線から守るために地下に存在する溶岩チューブに住むことも想定されます。Lunar Towerは、暗い洞窟内に明かりももたらし、そこ暮らす人々が光やエネルギーを共有し、コモンズとしての暮らしをサポートする役割を担っています。月面コミュニティの基盤としてLunar Towerを位置づけ、広場の機能を担うものとしてLunar Domeを計画しています。竹中工務店は東京タワーや東京ドームも手掛けているため、大空間建築に強みを持っています。

Lunar Tower & Lunar Dome (Credit: 竹中工務店)

月面活動に参加する強み、課題

― 月面産業において、御社の強みはどこにあるとお考えですか。

佐藤:月面産業というと、着陸や通信システム、土木作業などの分野がありますが、建築分野は、地上でも生活者視点、利用者視点を大切にして、空間デザインやQOLに取り組んでいるため、月面に滞在する人のQOL向上に直接貢献できると考えています。閉鎖空間特有の採光の問題や音の響きなど検討すべき点は多くあり、それらに貢献できます。

田中:月面に人類が滞在する際のQOLに関する課題に対し、建築の観点から解決策を提供できることが強みです。例えば、プライバシー空間の考え方、採光による精神衛生向上などがあります。生活コモンズや文化コモンズが宇宙では変わると考えていて、それは地上での建築活動を通じて地上の生活や文化を知っているからこそ、宇宙にも応用できると考えています。また、建築は、新しいコミュニケーションルールなどにも関わってきます。

佐藤:日本独自の強みも建築では生かせると考えています。例えば、日本では、ふすまやのれん、座布団などを利用することで、小さな空間を柔軟に活用しています。コモンズとしてのスペースをより広く、ときには分割して使うアイディアとなります。その文化や仕組みづくりにも応用できます。日本独自の文化が宇宙に応用され、世界に展開するってこともあります。日本で発展した文化で外国人が共感しているものもいっぱいありますし。

― 月面産業に参入するにあたっての課題や、リスクはどのように考えていますか。

佐藤:月面は地球と大幅に環境が異なり、それに合わせた設計基準を一から作らないといけません。例えば、低重力、地球とのタイムラグ、地球からの輸送コスト、高温低温、高放射線、隕石落下、レゴリスなどの要素が建築設計にも大きな影響を与えます。

田中:地上の建築は、何千年もの知見の積み重ねの上で設計基準やルールがあります。月面建築は、それらを適用できない新しい環境になります。考えれば考えるほど、多くの新しい課題が出てきて、それが面白いところでもあります。例えば、階段1段の高さをとっても、1/6Gだとどの位の高さが最適なのかなどを議論しています。

佐藤:加えて、隕石落下や構造物に何かあったときのリスクも考えないといけません。月面への事業参入へは膨大な費用がかかりますし、今後、下がっていくとは思われますが、今のところ物資を地球から輸送する費用は1kgあたり1億円と莫大です。極力失敗しないような構造、設計を考えないといけません。

月面農場計画案(Credit:竹中工務店)

月面で生活する人の視点からの工夫

― 月面という場所ならではの生活者視点での工夫というのはどのようなものがあるのでしょうか。

佐藤:月面居住では屋外活動の機会がないので、屋内の空間設計が非常に重要となります。屋内スペースは単に居住する場としてだけでなく、住民間のコモンズとしても意識され、健康維持を促進する役割も果たすべきだと考えています。例えば、コモンズの中でどのようにプライバシー空間を確保するかが挙げられます。このプライベート空間のデザインは、居住者のQOL(生活の質)に大きく寄与すると考えられます。また、閉鎖空間での社会性やコミュニティの在り方、防犯や災害に対する冗長性なども重要な観点になります。ちなみに、宇宙での閉鎖空間での防犯について考えすぎて、密室犯罪のミステリー小説を1冊かけるくらいアイデアが出ています。

田中:地上では、階段を上りたくなるように設計にすることで健康維持にもつなげたりします。体力維持の観点で月面でもそのような設計思想が大切になってきます。重力が1/6Gとなるため、それに適切な部屋のサイズや、地上とは異なる空間感覚に配慮したデザインが必要不可欠になると考えています。さらに、月面の昼夜が14日間ずつ続くという環境下での人体への影響、具体的には生体リズムの変化も考慮する必要があります。また、資源管理の面からも、水の無駄使いや食べ物に関するルール作りも必要になると考えています。

佐藤:閉鎖空間で食べて排泄して生きていくという中で、コモンズとしての植物や水の使い方のルールを整備しないといけないですね。宇宙での生活について、国内外の研究者(元宇宙飛行士など)と意見交換を進めています。

―宇宙建築を考えることによって、地上社会へフィードバックできることもありますか。

田中:いっぱいあります。月面と地球は通信のタイムラグがありますが、それを問題ないように建築作業できるロボットの開発は、地球上の山奥や南極での操作ロボットにも応用できます。現在、高層ビルのてっぺんではトイレ・弁当付きで1日中操作している人がいますが、その運用方法なども変わってくるでしょう。安全面も強化されると思います。

佐藤:月面はある区画内で、電力や水などをオフグリッドで利用することとなります。例えば地球上の災害現場などでの建築や建設のヒントを得ることができます。水や排せつ物をその区域だけで使い、コモンズとしての資源利用も同様です。地上での建設ロボットについては、ゼネコン各社と連携しオープンな規格や仕様を検討しており、建築ロボットが月面でも実現できたらと考えています。それもコモンズともいえるかもしれません。

田中:月面でのレゴリスを利用した3Dプリンティング技術による建設などが進めば、地上でもその地の岩や金属などを利用した地産地消の建築につながります。

佐藤:月面のLunar Tower建築に必要な材料をロケット1機ですべてを運べるように考えるように、地上の建築物もトラック1台ですべてを運べるような材料設計・パッキング手法が考えられるかもしれません。このような革新的パッキング技術は、地上の輸送コストの低減につながる可能性もあります。

地上活動へのフィードバック(Credit:竹中工務店)

― 月面都市では、設計標準はどのように作るんでしょうか。

佐藤:月面での作業において、各社、各国でバラバラな設計基準だと、月面で作業者が作業するのにも、人が月面に暮らすにもそれぞれの基準・やり方に合わせねばならず、非常に非効率になってしまうので、コモンズとしての設計標準が必要になってきます。

田中:月面都市のためには、誰かがコモンズとしての設計標準を作らないといけません。1社単独ではなく、リファレンス可能で、オープンソースにして、色んな人が改良して、広がっていけばいいなと考えています。
地上ではゼネコン各社の建設現場で働く人は、別の色々な企業から来ていて、各社横断的な設計標準を作ることは、月だけでなく、地上でも有効です。また、月面は境界線がないので、コモンズを前提で新しい社会をつくることができます。新しいイデオロギーや新しい社会のルールができる可能性があり、それらが地上に逆輸入され、社会の発展に大きく寄与する可能性も十分にあります。

月面活動の動向と展望

― 月面活動の動向や潮流で気になっているところはありますか。

佐藤:ispaceが掲げるムーンバレー構想は2040年に1000人の居住を目指しており、そこは非常に注目しています。将来、何らかの形でこの構想と関わったり、交わる点が出てくると考えています。

田中:トヨタのルナクルーザーは、車内が与圧空間となっていて、宇宙服を脱いで生活ができます。タイヤがついている月面居住スペース、ある意味、最初の月面建築物とも考えられるので、こちらも非常に注視しています。その生活空間、宇宙飛行士の住み方、生活も非常に気になります。

佐藤:月面都市は1社単独で成し得られるものではありません。様々な企業や組織と協力が不可欠です。ゼネコンとして地上でも多様な企業をインテグレートするハブのような経験を担っており、宇宙においてもコモンズとしての月面都市を構築するハブとしての役割を担っていきたいです。

田中:同業他社や異業種とも連携して、一致団結して月面都市を実現させていきたいですね。皆さん一緒に歩んでいきましょう!

月の竪穴からそびえ立つLunar Towerと地球 (Credit:竹中工務店)

聞き手・文:IISEソートリーダーシップ推進部 佐野智
JAXAに長年勤務し社会課題解決に向けた新規宇宙事業創出に尽力。内閣府(衛星を利用した社会実装プログラムを推進)を経て現職。博士(理学)。