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日本の宇宙インフラを支える南の砦、沖縄 ~衛星運用・光通信・地上局サービスが拓く宇宙ビジネスの現在地~

3月上旬。凍えるような東京の寒さを背に、沖縄に降り立った瞬間、暖かい空気と南の島の香りに包まれます。青い海と白い砂浜、まぶしい日差し。誰もが思い描く沖縄の風景です。

観光名所「万座毛」:すぐ近くに宇宙アンテナ

しかし、今回の目的はリゾートではありません。
国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)、国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)、そして民間企業のパスコ。沖縄に点在する拠点を訪ね、最前線の技術者の方々と対話し、私自身が肌で感じた「宇宙インフラの現在地」をお届けします。

宇宙産業は、2040年に100兆円規模といわれる巨大市場です。
宇宙開発というと、ロケットや衛星を思い浮かべますが、それらを支えているのは地上のアンテナや通信ネットワークです。これらが24時間365日、宇宙と地上を結びつけています。沖縄は、その重要な結節点の一つです。

●なぜ沖縄なのか?

宇宙インフラは「サイトダイバーシティ」という考え方があります。衛星を複数の地点から通信することで、通信機会を最大化し、安定した運用を実現するものです。

また、沖縄は、日本列島の最南端に位置し、赤道にも近く、以下のように衛星追跡ネットワークの「南の砦」として重要な役割を担っています。

●衛星追跡の「南の砦」@JAXA

恩納村の深い森の中、山を登り、ハイビスカスが咲く小道を先に進むと、突如シーサーが現れます。ここがJAXA沖縄宇宙通信所です。1968年に誕生したこの施設は、日本列島の最南端という立地を活かし、重要な役割を担っています。

沖縄宇宙通信所の入口

森を見渡すと、いくつものアンテナが空を見上げています。これらで人工衛星の追跡と管制が行われています。特に興味深いのが「XY軸アンテナ」です。大型で複雑な構造ですが、真上を通過する衛星もスムーズに追尾できます。あらゆる信号も捉えようとする追跡管制官たちの技術の結晶です。

真上を通過する衛星も追跡しやすいXY軸アンテナ Credit: JAXA

JAXA沖縄宇宙通信所では、「だいち2号」や「いぶき」「しずく」などの地球観測衛星や、「あらせ」「ひので」などの科学衛星が運用されています。内閣府の準天頂衛星「みちびき」のアンテナも設置されています。衛星は宇宙を飛んでいますが、その運用の大半は地上で行われているのです。

展示室では、糸川英夫博士のペンシルロケットから始まる日本の宇宙開発の軌跡、日本で初めての実験用放送衛星BS(ゆり)の実物大エンジニアリングモデルなどが並びます。これらを眺めていると、日本の宇宙開発が、60年以上にわたり、多くの人の情熱と執念によって築かれてきたことが伝わってきます。

宇宙開発の軌跡

●宇宙通信の最前線@NICT

青い海が広がる万座毛から車を数分走らせると、NICT沖縄電磁波技術センターがあります。ここで、注目されるのが光衛星通信です。屋外に、1m光学望遠鏡が整備されています。

NICT光学望遠鏡

「これを使って、36,000km離れたJAXAの光データ中継衛星と双方向の光リンクを成立させました。」説明してくださったNICTの高橋靖宏氏は、この運用を担当しており、この技術の可能性を熱く語ります。

光データ中継衛星に搭載された「LUCAS」は、JAXA・NECで開発した光衛星間通信システムで、2025年、世界最速の光通信により超大容量ミッションデータの地上伝送に世界で初めて成功しました [1]。

光データ中継システムの概要 (JAXAプレスリリースより)

光通信は、通常の衛星通信の電波に比べて、はるかに大容量のデータを送ることができます。これは単なる通信技術の進化ではありません。衛星が観測した膨大なデータを、ほぼリアルタイムで地上に届けることができるようになるのです。気候変動、災害、農業。宇宙からのデータが新しい地球の未来を拓きます。

沖縄電磁波技術センターでは、衛星通信だけでなく、大気や海洋観測技術の開発も行っています。例えば降雨レーダーです。

屋上に設置される降雨レーダー

「フェーズドアレイ気象レーダーの技術を使えば、“雨が降りそう”ではなく、“まもなく降る”というレベルで天気を予測できます。」説明するNICT灘井章嗣技術センター長の言葉には、技術を社会に役立てるという強い自負が滲んでいました。私たちがスマホで何気なく見る雨雲レーダーの裏側には、凄まじい努力と技術開発の積み重ねがあることを思い知らされます。

●日常の中の宇宙@パスコ

沖縄南部の糸満市。レンタカーで走っていると、不思議な風景に出会います。コンビニの看板と、宅急便の看板。その間に、巨大な白い球体(レドーム)が鎮座しています。これが空間情報企業、パスコの衛星地上局です。

パスコ衛星地上局@沖縄

生活圏の中に、突如現れる「宇宙」。この非日常感こそが、宇宙が国家プロジェクトから、私たちの生活に溶け込んでいる象徴です。

パスコ担当者は「雇用創出も重要な役割」といい、地元の方を中心に約200名が働いています。

ここでは、NECとの観測衛星「ASNARO-1」の運用[2]など、衛星・ロケット事業者に幅広いサービスを提供するほか、航空機測量データの解析などが行われています。衛星データは、災害時の被害状況の把握や、農作物の生育管理、森林管理、都市計画などに活用されます。

衛星「ASNARO-1」のイメージ

宇宙データは宇宙のためにあるのではなく、地球のため、そして生活者のためにあるのです。

さらに、沖縄の民間宇宙インフラは拡大しています。2025年にはスカパーJSATが宜野座村に衛星通信アンテナを設置しました。近年、宇宙ビジネスに参入するスタートアップが急増していますが、衛星管制設備を持つことは簡単ではありません。そのため、地上局サービスの重要性が高まっているのです。

▼スカパーJSAT、衛星の監視制御サービス 宇宙ビジネス参入を支援

●宇宙という社会インフラ

沖縄は、日本の宇宙インフラを支える「南の砦」です。
私たちは、宇宙というとロケットや衛星に目を奪われがちですが、その運用やデータ解析、生活に届ける膨大なプロセスの多くは「地上」で行われています。

沖縄の強い日差しの中で見た、青い海と白いアンテナのコントラスト。それは未知の宇宙への憧れではなく、国の経済と安全、そして私たちの生活を支える「社会のインフラ」でした。

帰路、オリオンビールのシャツ一枚で降り立った羽田は、思いのほか寒く感じました(7℃)。
でも大丈夫です。
私の胸には、沖縄の暖かい風と、技術者たちの熱量がまだ残っていました。

その熱量が、日本の宇宙の未来を動かしているのかもしれません。

情熱あふれるガジュマルの木

謝辞:このような貴重な機会をスペースICT推進フォーラム第4回見学会としてアレンジくださったフォーラム事務局、ならびに関係者の皆様に深く感謝申し上げます。ありがとうございました。

文:IISEソートリーダーシップ推進部 佐野智
JAXAに長年勤務し社会課題解決に向けた新規宇宙事業創出に尽力。内閣府(衛星を利用した社会実装プログラムを推進)を経て現職。博士(理学)。

参考文献

[1] 光衛星間システム「LUCAS」
[2] 「ASNARO-1」が国産光学衛星初の稼働10年を達成 | 日本電気株式会社のプレスリリース