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責任感とビジョン。十人十色のソートリーダーに、2つの共通項 ~社会起業家支援に奔走、taliki代表取締役CEOの中村多伽氏に聞く~

革新的な考えを世の中に提示し、「共感」によりステークホルダーを共創へ誘引することで、新しい顧客や市場を創造するマーケティング手法「ソートリーダーシップ(Thought Leadership)」。その重要性を多角的に考察するために、各専門家にインタビューする第八弾。今回は京都を拠点に置き、社会起業家の育成・支援を中心に、自治体や企業と協業しながら社会課題解決を推進しているtaliki 代表取締役CEOの中村多伽氏が登場。ソーシャルビジネスのマインドセットと「ソートリーダーシップ」の共通点などについて伺いました。


責任感と解像度の高いビジョンをいかに提示できるか

――「ソートリーダーシップ」について、中村さんはどのようなものとして捉えていますか。

中村 これまでいろんな会社のリーダーを見てきて、パーソナリティは本当に十人十色だと実感しています。ただし共通しているのは、責任感とビジョン。責任感については、性格が悪かろうが良かろうが、成果を出す人は自分がやり切るという「思い」がとても強いです。

taliki 代表取締役CEO 中村 多伽 氏

ビジョンは「見たい世界がある、つくりたい未来がある」こと。例えば、内向的な研究者がリーダーになれないかといえばそんなことはない。その人が探求したビジョンの解像度が高く、たくさんの人が助かりそう、まったく違う世界が開けそうだと感じられれば、いろんな人がついてくるようになる。そう考えると、責任感と解像度の高いビジョンをいかに提示できるかがソートリーダーシップの鍵といえるかもしれません。

――中村さんが創業したtalikiでは、社会課題の解決を目指す起業家や、新規事業の創出を支援しています。

中村 大学時代、1年生から3年生にかけてカンボジアで2つの小学校建設に携わり、その後、1年休学してニューヨークのビジネススクールに留学しました。留学時代は報道局でインターンを経験。それらの活動を経て、社会課題解決に関わるプレーヤーがもっと増えなくてはならないことを実感し、大学4年生のときにtalikiを創業しました。

――社会課題解決に関わるプレーヤーを増やしていくうえで、課題となっているものは何でしょうか?

中村 カンボジアと米国における2つの経験から、マクロを変えるためにはミクロのうねりをつくっていかねばならないことを学びました。

世の中にはたくさんのNPOや、世界を良くしたいと考える団体が存在します。ただ、ソーシャルビジネスにはボランティアで関わる方も多い分、経営のプロフェッショナルの割合が少ない。効果が見えるまでに時間がかかることもあり、資金が集められずに事業が停止する悪循環が続いています。

ですからプレーヤーを増やすことに加えて、プレーヤーがスケールしてグロースする仕組みを作ることが必要だと感じています。構造的な変革をしない限り、効果は最大化されません。その「思い」から、私自身はワンテーマにコミットするのではなく構造を変える側に行くべきだと決意し、現在の活動に至っています。

――日本におけるソーシャルビジネスの可能性をどう捉えていますか。

中村 創業2年目ぐらいで明確にわかったのは、ソーシャルビジネスが儲かるか儲からないかは、取り組んでいるテーマに依存するということです。今のトレンドでいえば脱炭素やヘルスケアは公共性も関心も高く、ビジネスとして立派に成立するでしょう。一方で移民・難民の人権問題、受刑者の人権問題、高齢障害者の支援など、現時点ではかなり事業化が難しい社会課題もあります。

どの領域を選ぶかによってアプローチは異なりますが、私たちは領域ごとの濃淡を踏まえたうえで、事業化が難しいとされているがまだアプローチ方法がありそうな中間層の可能性を拡張することに注力しています。難しいと思われるテーマでも、やり方次第ではスケールできる場合がある。この中間層にベストプラクティスが生まれればビジネスモデルが確立され、成功事例が多ければ多いほどソーシャルビジネスの成長可能性が一気に高まっていくはずです。

中心にあるのは「giverであれ」という姿勢

――社会起業家たちの「思い」は、事業化の支援を行う上でどのように影響していますか?

中村 最初のインキュベーションのフェーズではジャンルを問わず受け入れ、課題の検証や解決策の考案などを専門家と共に、課題意識を持つ人たちの事業の立ち上げの支援を行います。

社会起業家たちの「思い」が影響してくるのは、次の投資フェーズです。私たちも資金をお預かりし投資している立場であり、しかも何倍かに増やして返さなくてはならない。私たちが支援する初期のタイミングにおいて、やり方次第ではスケールできるかも、という中間層の事業が「伸びる/伸びない」の分岐点は、起業家が持つ志向性に大きく影響を受けます。

自分が見える範囲内の社会が幸せになれば十分という事業であれば、調達に困っていたとしても出資の対象にはなりにくい。他方、日本におけるマーケットは小さくとも、世界規模で考えると数十億人のマーケットがある課題に取り組む事業であれば当然、拡張の余地は高いですよね。

そこに「この数十億人が幸せになるまでは死ねないんです」という強い「思い」を持った起業家がいたら、私たちもその「思い」の実現に向けて支援したいですし、中間層でもこんなに成長するモデルがあるんだぞっていうのを証明できます。そういう起業家を選んで支援してtalikiが選び、世界に向けて発信していくイメージです。

支援したいと思う起業家たちからは、事業展開の手法、言葉の使い方、周りの人への接し方などを通じて「どれぐらいシリアスに課題を捉えているのか」「課題が解決された暁にはどれだけの人が幸せになるのか」が伝わってきます。talikiは自然とそうした「思い」を持つ人たちが集まるコミュニティになっています。

――「ソートリーダーシップ」では仲間づくりが重要です。社会起業家を支援する立場として、彼らに求める姿勢はどのようなものですか?

中村 中心にあるのは「giverであれ」という姿勢です。そもそも社会起業家は一般的な起業家とは異なり、「こんな世界を実現したくないか?」という「思い」に共感してもらうことが重要。利益が出るという形でのわかりやすいメリットを出しにくい場合があるからです。そのため、自分の「思い」で本当に人を集める力がないと、社会起業家としての成長が難しいという特性があります。

「giverであれ」とは、矢印が自分以外、誰かのために向いている状態のこと。giverの輪が広がれば、自分にも誰かからの矢印が向けられることになります。結果、giverであるが故に色んな人に助けられ、色んなリソースが集まってくるし、搾取ではないので社会全体が豊かになる。それを掲げているのもあり、参加している起業家たちはみんな優しいんです。ほかの起業家の手伝いをしたり、運営のことも気遣ってくれたり。そのサイクルが確立されているので、どんどんリソースが集まってきます。

――talikiでの活動を振り返って「これはソートリーダーシップである」とみられる事例はありますか。

中村 長く付き合いが続いている企業では、一担当者がソートリーダーシップ的な資質を備えています。そういう人は企業のビジョンを内面化して自分のウィル(Will/意思)を表現しているので、組織がやりたいことを自分のやりたいこととしてはっきり語ることができるし、仕事に責任感を持っています。

私の周りでその姿勢を体現しているのが元神戸市役所のSさん、そして京都リサーチパークのIさんです。Sさんは自身がgiverであり、人当たりも良く、各方面の部署や組織に橋渡ししてくれました。Iさんはtalikiの創業時から目をかけてくれた人。周りのリソースを動かすのはパワーが要るにもかかわらず、そんな苦労をしてまでパートナー企業の役に立ちたいと思えるのが本当に素晴らしくて。起業家を支援している私でさえ、どうすればそこまでできるのかと思うほどです。

インパクト投資 “も” したい大企業と、若い世代の「足切りライン」

――「ソートリーダーシップ」においてもソートの発信は欠かせません。どのように自らの「思い」を発信すれば、人は集まってくるのでしょうか。

中村 私自身に限っていえば発信はあまり得意ではありません。本当はSNSなどで、ガンガン発言してポジションを取るほうがいいと思っています。特にこの業界では、マーケティングが強いとすごく強いチームに見えますから。ただ、メディアへの取材対応やテレビ出演、ポッドキャストでの発信などには力を入れています。

▼「社会課題を解決する選択肢の提示と、選択をサポートできるような情報」を発信する自社メディア「taliki.org」の運営も行う

さまざまなイベントにも「20代女性」の枠で呼ばれることが増えました。ある意味、(まだまだ数が少ない)20代の若手女性起業家・投資家だからお声がけいただいている側面もあると解釈していますが、その中でもバリューを発揮できればいいので気にしていないです。

――活動拠点である京都とソーシャルビジネスにおける接点はありますか?

中村 ファンドは全国の起業家に投資をしていますし、事業連携も全国各地で展開しているので、京都を前面に出していくつもりはありません。ただ、日本の中で京都が最もソーシャルビジネスと相性が良いと感じています。なぜなら、長く続くこと、豊かな関係性を築くことに重きを置き、「早く大きくなること」だけを良しとしない価値観があるからです。

そうした背景もあり、2018年から京都を舞台に大型ソーシャルカンファレンスの「BEYOND」を継続的に開催してきました。2024年は10月19日と20日の2日間、1200人を動員する「BEYOND2024」を開く予定です(注:本取材は2024年10月初旬に実施)。

社会課題解決はNPOや行政だけではなく、多方面のステークホルダーを巻き込みながらゴールにたどり着くものです。そこでNPOのファンドレイズが盛んな米国の例にならい、いろんな人たちが枠組みを超えて、社会課題について同じ目標を持って考える場をつくりたいというアイデアから「BEYOND」を始めました。

当時の日本ではソーシャルカンファレンスはまったく馴染みがなく、NPOとVC(ベンチャーキャピタル)が同じ空間にいること自体が異様でした。でもこの1〜2年でだいぶ状況が変わり、インパクト投資VCもかなり増えてきました。私たちのスタンスは変わっていませんが、社会が変わってきた印象を受けます。

――「ソートリーダーシップ」においては、新たな兆しを捉えて市場創造に繋げていく必要があります。ソーシャルビジネスを取り巻く環境が変わってきている中で、事業会社の動きにも何か変化は起こっていますか?

中村 一般の事業会社から新規事業開発のテーマを社会課題解決に置きたいとの相談が多くなっていますが、メインストリームではありません。大企業でCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を持つところが増えたものの、「今年からはインパクト投資“も”していきたいから、ノウハウを教えてほしい」といったニーズがほとんどです。

本来は社会課題を解決するものが何かないと、事業は足元から崩れていくのではないかと思っています。気候変動問題などはまさにそうで、台風などが現に増えて経済に悪影響を及ぼしている。本当はそれを解決することが、事業そのものをより繁栄させるための最重要の活動になるはずなんです。ところが従来のビジネス観が根強く、どうしても儲かる/儲からないの二軸で考えてしまう。正直にいえば「社会課題解決はCSRみたいなもの」といった意識がまだまだ根強い。

時間がかかるのは仕方がありませんし、動き始めたのは確かです。talikiでも最近、日立社会情報サービスとの協創に向けた検討を発表したばかり。そもそも日立グループは公共性の高い事業を扱っているので、ソーシャルビジネスとビジョンを共有しやすい利点があります。これはインフラ系やエネルギー系の企業に共通しています。

――さらなる浸透に向けて足りないものは何でしょうか。

中村 いつの時代も新しい社会課題が出てきます。悩みのタネがそこにあるにもかかわらずビジネスとして成り立たないのは、取り組みに対するインセンティブがなかったから。例えば2000年代のエコブームでは社会の仕組みが追いついていませんでしたが、今は排出量取引や炭素税などの直接的なインセンティブが整備されています。こうしたインセンティブがあって初めて市場が形成されるわけです。

だからこそ得られるメリットを提示しなくてはならない。これは企業側に限らず、消費者側についても同じです。一方的に「サステナブルだから買ってね」と呼びかけても響きませんよね。talikiでは何社かアパレル企業を支援していますが、まずはほかに負けない機能性やかわいさを訴求することが大前提。そのうえで「サステナブルだから使っていて心地よい」「もっとこんな体験をしてみたい」と思わせる魅力が求められます。

服を着ている人たちが「今日はすごく環境負荷が高い素材を着ているな」と違和感を持つようになれば、リプレースされる可能性は高い。それでもダサかったら買ってもらえないので、手に取ってもらう工夫は必須です。

――若い世代へのSDGs教育も浸透してきました。その点も追い風だと思いますか。

中村 確かにそれは感じます。今の意思決定層はプラスアルファのアプローチで「儲かるから社会に良いことをしよう」という順番。主従でいうと従に社会課題があります。でも若い世代は「足切りライン」の基準として社会課題が明確にある。環境負荷が高かったり、労働力を搾取して作られたりした製品やサービスを選ばないことは、当然の基準になっていると思います。

――今後の展望についてはどう考えていますか。

中村 10年後には新たな課題が発生していることでしょう。そして儲かればいいという考え方も減ってくると思います。ゼロサムではなく、ステークホルダーを巻き込んでクリアな道筋を示し、みんなで成長していくマインドが社内にも起業家にも求められる時代が来ると考えています。それまでに私たちが解決した課題やビジネスの成功事例を、データやナレッジとして蓄積していきたいですね。

<取材を終えて>

企業のビジョンを自分のウィル(Will/意思)に。組織がやりたいことを自分のやりたいこととしてはっきり語ることができる。仕事に対する責任感とやりきる力。ソートリーダーに限らず、企業に勤める私たち一人ひとりに問いかけてくるテーマだと思います。
たくさんの起業家たちの姿を見てきた中村氏の言葉から改めて実感しました。外面だけ整えても人は集まってこない。特に若い世代は明確に「足切りライン」を引きます。この言葉は重いでしょう。
社会課題解決“も”やるのではなく、本来は新規事業でこそ社会課題解決に向かわないといけない。社会課題解決はCSRではない。終始和やかなインタビューでしたが、中村氏の強い意志と覚悟がこうした言葉やスタンス、眼差しなどから、滲んでいたように思います。早く大きくなろうとするのではなく、時間をかけてでも価値観を少しずつ変えながらビジネスにつなげていく。事実、「社会が変わってきた」と中村氏自身が語るように、大きな輪が広がりつつあります。

インタビュイー:taliki 代表取締役CEO 中村多伽氏

1995年生まれ、京都大学卒。大学在学中に国際協力団体の代表としてカンボジアに2校の学校建設を行なう。その後、ニューヨークのビジネススクールへ留学。現地報道局に勤務し、アシスタントプロデューサーとして2016年大統領選や国連総会の取材に携わる。それらの経験を通して「社会課題を解決するプレイヤーの支援」の必要性を感じ、帰国後の大学4年時に株式会社talikiを設立。社会起業家のインキュベーションや上場企業の事業開発・オープンイノベーション推進と並行し、2020年には社会課題解決ファンドを設立。投資活動も手がけている。

taliki https://www.taliki.co.jp/

企画・制作・編集:IISEソートリーダーシップHub(藤沢久美、鈴木章太郎、榛葉幸哉、石垣亜純)

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