ネスレはなぜ、規制対応をブランドの言葉で語れたのか
こんにちは!日本コロムビアグループの公式note編集部です。
CEOセオPodcastを“思考モデルAI”で読み解くシリーズ、本日の記事です!
今日のテーマ:ネスレは、外圧を自分たちの物語に変えた
今回取り上げるのは、本日7月8日配信の最新回です。
2026年7月8日 #101【ネスレの合成着色料廃止の本音。規制の波をブランドストーリーに昇華させる巧妙なマーケティング】
全世界で人工着色料を排除するというネスレの宣言の裏には、避けられない規制の波を先回りする巧妙な戦略が隠されている 。売上18兆円のメガ企業がいかにして事実をナラティブなストーリーへと昇華させたのかを徹底解剖する 。科学、法律、世論の3つの視点から、ルールを味方につける生存戦略のリアル 。
ネスレの人工着色料撤廃の発表は、健康対応のニュースとして読まれやすいものでした。
ロイターによると、ネスレは2026年末までに全世界の製品から人工着色料を除く方針を示し、米国ではすでにポートフォリオから人工着色料を取り除いたとされています。
CEOセオさんが注目していたのは、人工着色料をなくすという判断そのものよりも、その発表が「どのタイミングで」「どの言葉で」「どの規模感で」出されたのか、という点でした。
同じ対応でも、規制や世論に押されて動いたように見える場合もあれば、企業が先に選び取った姿勢として伝わる場合もあります。
今回のネスレの発表は、その見え方のつくり方まで含めて読むと、食品ニュースにとどまらない経営判断として見えてきます。
やらされる変化を、選んだ改革に見せる
ネスレの発表文で前に出ていた理由は、消費者ニーズでした。
ロイターの取材でネスレの技術責任者は、消費者が人工的な原材料を好まず、よりシンプルなレシピを求めていると説明しています。あわせて、天然代替品の探索、生産テスト、保存性の確認などに長年取り組んできたことも語っています。
これだけを見ると、消費者の声に応えるための成分変更として読めます。
ただ、CEOセオさんが見ていたのは、その理由をいま前に出すことの意味でした。音声の中で印象的だったのは、「どうせやらなきゃいけないことを、あたかも消費者を守る、世論の流れに沿ってやっているという見せ方をしている」という趣旨の指摘です。
ポイントは、ネスレの発表を「成分変更」ではなく、「見え方の設計」として読んでいるところにあります。
米国では、FDAが2025年1月にFD&C Red No. 3の食品・経口薬への使用許可を取り消す方針を示し、食品メーカーには2027年1月までの対応期間が設けられました。人工着色料をめぐる空気は、企業が無視しにくいところまで来ていたわけです。
その状況で「規制に合わせます」と言えば、受け身の対応に見えます。必要なコストを払い、ルール変更に従う会社として受け取られやすい。
ネスレはそこをずらしました。
米国で先に対応を進め、研究開発や代替素材の準備を整えたうえで、「全世界でやります」と打ち出す。外から迫ってくる対応を、自分たちが選んだ改革として語る。
発表は、事実を知らせるだけのものではありません。どの背景を前に出し、どの言葉で語るかによって、同じ取り組みの受け取られ方は変わります。CEOセオさんが見ていたのは、まさにその部分でした。
消費者は「健康」だけで買っていない
天然か合成か、という二分法だけでは市場は読めません。
消費者は、健康によさそうなものを求めます。けれど同時に、昔から知っている味、見た目、色、食べたときの気分も求めます。特に食品では、成分の変更がそのまま商品体験の変更につながることがあります。
象徴的なのが、米国のシリアル「Trix」の事例です。
General Millsは2015年にシリアルから人工着色料・人工香料を取り除く方針を示し、Trixも天然由来の色に変えました。ところが、従来の鮮やかな色を好む消費者から反発があり、2017年には人工着色料入りの「Classic Trix」を復活させ、併売することになりました。
Trixの例を見ると、「人工的なものは避けたい」という声だけでは、実際の購買は読み切れません。
アンケートでは人工的な原材料を避けたいと答える人でも、棚の前に立つと、記憶の中にある色を選ぶことがあります。子ども向けのお菓子やシリアルでは、色そのものが体験の一部です。青や赤や緑の強い発色は、商品を見つける楽しさや、食べる前の期待感と結びついています。
一方で、人工保存料や着色料を取り除いても、見た目の変化が小さいカテゴリーもあります。マクドナルドは2016年にチキンマックナゲットから人工保存料を取り除き、同時期にバンズから高果糖コーンシロップを外すなど、メニュー改革を進めました。
肉やパンのようなカテゴリーでは、色の変化が商品体験を大きく壊しにくい。だから、同じ「人工的な原材料を減らす」取り組みでも、受け入れられ方は変わります。
健康イメージが強くなれば必ず売れる、というほど消費者はまっすぐではありません。そこを見落とすと、改革のつもりが、長く育ててきた商品体験を傷つけることもあります。
CEOセオさんがネスレの発表を高く見ていたのは、早く動いたからというより、この難しさを踏まえたうえで、大きなメッセージに仕立てていたからではないでしょうか。
ネスレの強みは、商品を束で見られること
天然色素への切り替えは、言葉の印象ほど簡単ではありません。
一般に、天然由来の色素は発色の安定性、保存性、供給量、コストの面で扱いが難しくなります。音声の中でも、天然色素は合成着色料に比べてコストが高く、pHや温度、酸化、退色の影響を受けやすいという話が出ていました。
イメージ改善の裏側では、原材料費や製造ラインの調整が発生します。味や色が少し変わる。棚に並んだときの印象も変わる。場合によっては、消費者が「前のほうがよかった」と感じる。
本来、全商品で簡単に宣言できる話ではありません。
ここで効いてくるのが、ネスレのポートフォリオです。
ネスレはコーヒー、菓子、乳製品、ペットケア、栄養関連商品など、幅広いカテゴリーを持っています。すべての商品が強い色で勝負しているわけではありません。色の変更が大きな痛みになる商品もあれば、ほとんど影響しない商品もあります。
この幅があるから、局地的な負担を企業全体のブランドイメージで受け止めやすい。
たとえば、カラフルなシリアルだけで勝負している会社なら、色を変えることは商品そのものを変えることに近くなります。けれど、多カテゴリーで展開している企業なら、色の重要度が低い商品群も含めて、大きなメッセージを出せます。
ネスレは「世界で人工着色料を使わない」という旗を立てました。個別の商品ごとに見れば、難易度にはかなり差があるはずです。それでも企業全体として語ることで、消費者には一つの姿勢として届く。
ここに、ポートフォリオを持つ会社ならではの判断があります。
市場の声より早く、政策の風向きを見る
CEOセオさんが次に見ていたのは、消費者の声よりも少し手前にある政策の動きでした。
市場調査を見ることは大事です。消費者が何を買っているか。どんな言葉に反応しているか。どのカテゴリーが伸びているか。それは企業にとって欠かせない情報です。
ただ、市場の声だけを見ていると、遅れる場面があります。
法律や行政の方向性は、ある日突然、企業の前に現れるわけではありません。多くの場合、その前に議論があり、世論があり、業界団体の動きがあり、海外の先行事例があります。
食品で言えば、添加物、栄養表示、超加工食品、学校給食、子ども向け商品などは、政策の影響を受けやすい領域です。
CEOセオさんは、音声の終盤で「科学、法律・政治、世論」の3つを見ながらビジネスを設計する重要性に触れていました。
この3つは、いつも同じ速度では動きません。
科学的な評価がまだ割れていても、世論が先に動くことがあります。法律が追いつく前に、企業が自主的に対応を始めることもあります。逆に、消費者の関心が薄くても、行政の方向性によって一気に対応が必要になることもあります。
今回の人工着色料の話は、健康リスクを細かく判定する記事として読むより、科学・法律・世論のズレを企業がどう扱ったかを見るほうが、経営判断としての学びがあります。
規制はコストになります。けれど、先に動ければ、同じコストが「私たちはもう対応しています」という信用に変わることもある。
ネスレは、その変換がうまかったのだと思います。
いずれ来る変化を、どの言葉で始めるか
ネスレほど大きな会社でなければ、同じ規模の研究開発や全世界展開はできません。
それでも、「いずれ来る変化を先に見つける」という考え方は、多くの事業に置き換えられます。後から慌てて対応すれば、どうしても義務の色が強くなる。早い段階で動ければ、誰のために、何を変えるのかを自分たちの言葉で説明できます。
食品であれば、添加物、栄養表示、アレルギー対応。美容であれば、成分規制や包装資材。教育であれば、AI利用や個人情報の扱い。
業界は違っても、規制・世論・技術が交わる場所には、先に手をつけられるテーマがあります。
そこで問うべきなのは、「対応しなければいけないか」だけではありません。
今なら、どの言葉で説明できるか。誰のための変更として出せるか。どの商品から始めれば、体験を壊さずに済むか。どのタイミングなら、遅れた対応ではなく、自分たちの姿勢として伝わるか。
ネスレの発表が考える材料になるのは、ここです。
今回の発表でネスレが前に出したのは、規制対応ではなく、消費者が求めるシンプルさでした。全世界という規模を掲げることで、個別商品の変更を、企業全体の姿勢に変えて見せた。
同じ事実でも、どの順番で語るかによって、企業の立ち位置は変わります。
変化の主語を誰が取るのか
ネスレが人工着色料をやめること自体は、これから多くの企業が向き合う流れの中にあります。実際、Kraft Heinzも米国ポートフォリオからFD&Cカラーを2027年末までに取り除く方針を発表しています。
その中でネスレは、米国での対応を進めたうえで、全世界へ広げるという言い方を選びました。
CEOセオさんの視点で読むと、強い会社は変化を読むだけで終わりません。読んだ変化を、どの言葉で自社の判断として出すかまで考えています。
今回のネスレの発表は、成分を変える話である前に、変化の主語を取りにいく判断でした。
いずれ対応が必要になるなら、その変化を誰の言葉で始めるのか。
この問いは、ネスレだけでなく、これから外圧と向き合う多くの事業に残るものだと思います。
編集後記:先に動くことと、先に語ること
今回のネスレの発表を見ていて考えさせられるのは、「早く動くこと」と「早く語ること」は、似ているようで少し違うという点です。
準備を先に進めていても、それがただの社内対応として見えてしまえば、外からは分かりません。反対に、まだ十分な準備がないまま大きく語れば、言葉だけが先に立ってしまいます。
ネスレがうまかったのは、米国での対応や研究開発の蓄積を背景にしながら、発表の言葉を「消費者が求めるシンプルさ」に寄せたところでした。規制の影を完全に消すのではなく、前に出す理由を選んだ。ここに、ブランドを持つ企業の判断が表れているように感じます。
私たちの仕事でも、外からの変化に対応する場面は必ずあります。そのとき、ただ間に合わせるのか。準備していたこととして語れるのか。あるいは、誰のための変更なのかまで説明できるのか。
ニュースを読むときに残したいのは、企業の発表を疑う視線ではなく、その発表がどんな順番で組み立てられているかを見る視線なのかもしれません。
(文:日本コロムビアグループ note編集部)

