「俺なんかと付き合ってくれるわけない」告白前夜の、長い長い独り言
午後11時47分 - 序章:眠れない夜の始まり
布団に入って、もう2時間が経つ。
天井の木目が、暗闇の中でぼんやりと見える。数えてみると、節目が全部で23個。いや、24個か。目を凝らしても、よく分からない。
明日は、彼女との3回目のデート。
いや、正確に言えば、もう今日だ。あと8時間13分後には、駅の改札前で待ち合わせをしている。
「彼女」なんて言ったけど、まだ正式に付き合ってるわけじゃない。マッチングアプリで知り合って、2回デートして、毎日LINEして。でも、まだ「友達以上恋人未満」っていう、一番中途半端な関係。
今日こそ、告白しようと思ってる。
...本当にできるのか?
寝返りを打つ。右向き、左向き、仰向け、うつ伏せ。どの体勢でも、心臓がドクドクとうるさい。
スマホを手に取る。時刻は11時52分。LINEを開くと、彼女(美咲さん)との最後のやり取りが表示される。
美咲「明日楽しみにしてます😊」 僕「僕も楽しみです!おやすみなさい」 美咲「おやすみなさい💤」
既読は21時34分。あれから2時間以上、僕は何をしていたんだろう。
ああ、そうだ。告白の言葉を考えていたんだ。
メモアプリを開く。そこには、僕が考えた告白の言葉が、20パターンくらい書かれている。
午前0時15分 - 告白シミュレーション地獄
パターン1:直球型 「美咲さんのことが好きです。付き合ってください」
シンプルでいい。でも、シンプルすぎる?もっと気持ちを込めた方がいいかな。
パターン2:理由説明型 「美咲さんといると、すごく楽しくて、自然体でいられて、もっと一緒にいたいと思って...だから、付き合ってください」
長い。途中で噛みそう。却下。
パターン3:質問型 「僕と付き合ってもらえませんか?」
弱気すぎる。自信なさそう。これじゃダメだ。
パターン4:遠回し型 「美咲さんは、僕のことをどう思ってますか?」
は?何これ。中学生か。即却下。
パターン5:...
もう、どれもしっくりこない。
そもそも、どのタイミングで言えばいいんだ?
映画を見終わった後?暗い映画館から出てきて、いきなり「好きです」は重すぎる。
ディナーの最中?食事中に告白されても、相手は困るだろう。
帰り道?でも、断られたら、その後の駅までの道のりが地獄じゃないか。
ダメだ。考えれば考えるほど、分からなくなる。
午前0時43分 - 過去の失敗がフラッシュバック
目を閉じると、過去の失敗が次々と蘇ってくる。
高校2年生の時。クラスの女子に告白して、見事に振られた。
「ごめん、健太くんは友達としてしか見れない」
定番の断り文句。でも、その後が最悪だった。次の日から、クラス中にその話が広まって、僕は「振られた健太」として有名になった。
大学1年生の時。サークルの先輩に告白しようとして、言葉が出なかった。
「あの...先輩...」 「ん?どうした?」 「いえ...なんでもないです」
結局、何も言えずに終わった。その後、先輩に彼氏ができたことを知った。
社会人3年目の時。合コンで知り合った女性に、勇気を出してデートに誘った。
「今度、食事でも...」 「あー、ごめん。最近忙しくて」
それっきり、連絡は途絶えた。
失敗、失敗、失敗。
僕の恋愛史は、失敗の歴史だ。
なんで今回は上手くいくと思えるんだ?
美咲さんは、今までの女性とは違う?本当に?それは僕の都合のいい解釈じゃないのか?
午前1時21分 - 美咲さんとの出会いを振り返る
でも、美咲さんは本当に違う気がする。
マッチングアプリでマッチした時のことを思い出す。
プロフィール写真は、カフェで本を読んでる姿。作り込んだ自撮りじゃなく、友達に撮ってもらったような自然な写真。笑顔が素敵だった。
趣味の欄には「読書、カフェ巡り、料理」。僕と共通点がある。
最初のメッセージ、何を送ったっけ。
「はじめまして!プロフィール拝見しました。僕も本が好きで、最近は〇〇を読みました。美咲さんのおすすめの本があれば教えてください」
今思えば、普通すぎるメッセージ。でも、美咲さんは丁寧に返信してくれた。
「健太さん、はじめまして!〇〇読まれたんですね。私も好きです!最近のおすすめは...」
そこから、本の話で盛り上がった。1日に10通以上、メッセージのやり取りをした。
1週間後、勇気を出してデートに誘った。
「もしよければ、今度おすすめのカフェに一緒に行きませんか?」
返信が来るまでの30分間、スマホを100回はチェックした。
「いいですね!行きましょう😊」
嬉しすぎて、部屋で小さくガッツポーズした。
午前1時55分 - 1回目のデートの思い出
1回目のデートは、2週間前の土曜日。
待ち合わせの30分前に着いて、近くのコンビニで時間を潰した。手汗がひどくて、ハンカチが手放せなかった。
「健太さん!」
振り返ると、美咲さんが立っていた。白いワンピースに、薄いピンクのカーディガン。プロフィール写真より、ずっと可愛かった。
「あ、美咲さん。今日はよろしくお願いします」
カチコチに緊張して、ロボットみたいな挨拶。
でも、美咲さんは優しく笑ってくれた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。緊張してます?」
「バレました?」
「私も緊張してるから、お互い様です」
その一言で、少し肩の力が抜けた。
カフェでは、本の話、仕事の話、趣味の話。話題が尽きることはなかった。
美咲さんは、出版社で編集の仕事をしている。本が好きで、その仕事に就いたらしい。
「健太さんのお仕事も面白そうですね。プログラミングって、全然分からない世界だから」
「いやいや、地味な仕事ですよ。一日中パソコンと睨めっこです」
「でも、何もないところから、動くものを作るんですよね?それってすごいと思います」
褒められて、顔が熱くなった。
3時間があっという間に過ぎた。
帰り道、駅まで一緒に歩いた。
「今日は楽しかったです」と美咲さん。
「僕も楽しかったです。また...会ってもらえますか?」
「はい、ぜひ」
その笑顔を見て、心の中で「よっしゃ!」と叫んだ。
午前2時28分 - 2回目のデートと確信
2回目のデートは、先週の日曜日。水族館に行った。
美咲さんの提案だった。
「水族館、好きなんです。魚を見てると癒されて」
イルカショーで、美咲さんが子供みたいにはしゃいでいた。水しぶきがかかって、「きゃー!」って声を上げる姿が、めちゃくちゃ可愛かった。
クラゲの水槽の前で、30分くらい二人で眺めていた。
「クラゲって、不思議ですよね。何も考えてなさそうで、でも生きてる」
「僕も時々、クラゲになりたいって思います」
「分かります!ただフワフワ浮いてるだけでいいなんて、最高ですよね」
そんな、どうでもいい会話が心地よかった。
お昼は、水族館のレストランで。
「健太さんって、意外と大食いなんですね」
「あ、すみません。みっともないですよね」
「ううん、たくさん食べる人、好きです」
好き、という言葉にドキッとした。
帰りの電車で、美咲さんが少し寄りかかってきた。
「ちょっと疲れちゃった」
「大丈夫ですか?」
「うん、楽しい疲れ」
その横顔を見て、確信した。
僕は、この人のことが本当に好きだ。
午前3時02分 - 不安の波が押し寄せる
でも、美咲さんは僕のことをどう思ってるんだろう。
デートに応じてくれてるし、毎日LINEもしてくれる。でも、それは友達としてかもしれない。
美咲さんは、優しい人だ。誰にでも優しい。僕にだけ特別なわけじゃない。
それに、美咲さんみたいな人が、僕みたいな冴えない男を選ぶ理由がない。
美咲さん:可愛い、明るい、仕事もできる、友達も多い(多分) 僕:ブサイク、根暗、コミュ障、友達少ない
釣り合わない。明らかに釣り合わない。
告白したら、今の関係も壊れるかもしれない。友達としても会えなくなるかもしれない。
それなら、このままでいいんじゃないか?
いや、ダメだ。このままじゃ、前に進めない。
でも、振られたら...
思考がグルグル回る。同じことを何度も考えて、答えが出ない。
午前3時41分 - 友人からのアドバイスを思い出す
昨日、唯一の親友である大学時代の友人、タカシに相談した時のことを思い出す。
「3回目のデートで告白しようと思うんだけど」
「おお、ついにか!で、何を悩んでるんだ?」
「振られたらどうしよう」
「振られたら振られたで、次行けばいいじゃん」
「簡単に言うなよ。俺にとっては、人生で一番の大勝負なんだ」
「分かるよ。でもさ、健太」
タカシは、ビールを一口飲んで続けた。
「告白しないで後悔するより、告白して振られる方がマシだろ?」
「それは...そうだけど」
「俺の経験から言うとさ、女性って、3回もデートに応じてくれるなら、少なくとも嫌いじゃないよ」
「本当か?」
「まあ、100%じゃないけどな。でも、可能性は十分ある」
「どうやって告白すればいい?」
「そんなの、『好きです、付き合ってください』でいいんだよ。シンプルが一番」
「それだけ?」
「それだけ。大事なのは、言葉じゃなくて気持ちだから」
タカシの言葉を思い出して、少し勇気が湧いてくる。
そうだ、シンプルでいい。気持ちを伝えるだけだ。
午前4時15分 - 妄想と現実の狭間で
もし、美咲さんがOKしてくれたら。
手を繋いで歩ける。 「彼氏」として隣にいられる。 誕生日を一緒に祝える。 クリスマスも二人で過ごせる。
妄想が膨らむ。
いや、気が早すぎる。まだ告白もしてないのに。
でも、想像するだけなら自由だ。
美咲さんと付き合ったら、どんなデートをしよう。
本屋デート。お互いのおすすめ本を紹介し合う。 料理デート。美咲さんの手料理を食べてみたい。 旅行デート。温泉とか行きたいな。いや、それは付き合ってすぐは早いか。
妄想が暴走する。
結婚とか...いや、それは本当に気が早すぎる。
でも、美咲さんとなら、ずっと一緒にいられる気がする。
ああ、ダメだ。期待しすぎると、振られた時のダメージが大きい。
冷静になれ。冷静に。
午前4時52分 - 決意と恐怖の間で揺れる
外が少し明るくなってきた。
鳥の鳴き声が聞こえる。チュンチュンという、スズメの声。
もう朝か。結局、一睡もできなかった。
でも、不思議と眠くない。アドレナリンが出てるのか、頭は冴えている。
告白、するしかない。
このまま何も言わずに帰ったら、絶対に後悔する。
「あの時、告白していれば」って、一生思い続けることになる。
それは嫌だ。
振られても、少なくとも自分の気持ちは伝えられる。
美咲さんなら、たとえ断るにしても、優しく断ってくれるはず。
「ごめんなさい、健太さんのことは好きだけど、恋愛対象としては見れなくて...でも、友達としてはこれからも仲良くしてください」
みたいな感じで。
...想像したら、胸が痛くなった。
でも、それでもいい。ちゃんと気持ちを伝えて、ちゃんと答えをもらう。それが大人の恋愛だ。
よし、決めた。
今日、告白する。
午前5時30分 - 朝日とともに訪れた覚悟
カーテンを開ける。
朝日が部屋に差し込んでくる。眩しい。
新しい一日の始まり。そして、僕の人生の転機になるかもしれない一日。
シャワーを浴びる。冷たい水で、眠気と不安を洗い流す。
鏡を見る。寝不足で少しやつれた顔。でも、目には決意が宿っている(と思いたい)。
「今日、告白するぞ」
鏡の中の自分に向かって、声に出して言ってみる。
うん、できる。きっとできる。
朝食を作る。といっても、トーストと目玉焼きとコーヒーだけ。
緊張で食欲はないけど、何か食べないと体がもたない。
テレビをつける。朝のニュース。でも、内容は全然頭に入ってこない。
時計を見る。6時15分。
待ち合わせまで、あと3時間45分。
長いような、短いような。
午前7時 - 準備と最終確認
服を選ぶ。
1回目のデートは、紺のシャツにベージュのチノパン。 2回目は、白シャツにジーンズ。
今日は何を着よう。
クローゼットの前で30分悩む。
結局、グレーのニットに黒のパンツ。シンプルだけど、小綺麗に見える(はず)。
髪をセットする。いつもより丁寧に。
でも、緊張で手が震えて、なかなか上手くいかない。
財布の中身を確認。現金とカード。デートの費用は足りるか。映画代、食事代、もしかしたらお茶代も。
告白が成功したら、ちょっといいところでお祝いしたい。
いや、また妄想してる。
スマホの充電を確認。100%。
美咲さんとのLINEを見返す。
昨日の夜のやり取り。他愛のない会話。でも、その一つ一つが愛おしい。
もし振られたら、このやり取りも、ただの思い出になってしまうのか。
いや、ネガティブに考えるな。
深呼吸。吸って、吐いて。吸って、吐いて。
午前8時30分 - 家を出る時間
玄関で靴を履く。
いつもの靴だけど、今日は特別な意味を持っている気がする。
この靴で、美咲さんのところへ向かう。そして、人生を変えるかもしれない言葉を伝える。
鍵をかける。振り返ると、いつもと同じ部屋。
でも、次にここに帰ってくる時、僕は変わっているかもしれない。
彼氏になっているかもしれないし、振られて傷心しているかもしれない。
どちらにしても、今の僕とは違う僕になっている。
マンションを出る。
空は快晴。雲一つない青空。
いい天気だ。告白日和(そんなものがあるなら)。
駅へ向かって歩き始める。
一歩、また一歩。
美咲さんに会いに行く。そして、想いを伝えに行く。
心臓が早鐘を打っている。手のひらに汗が滲む。
でも、足は止まらない。
もう後戻りはできない。いや、したくない。
午前9時45分 - 電車の中での最後の葛藤
電車に乗る。
休日の朝だから、そんなに混んでいない。座席に座れた。
でも、落ち着かない。
スマホでニュースを見ようとするけど、文字が頭に入ってこない。
音楽を聴こうとするけど、歌詞が告白の言葉と混ざって、わけが分からなくなる。
結局、ただ窓の外を眺める。
流れていく景色。いつもと同じ風景のはずなのに、今日は違って見える。
もしかしたら、これが「彼氏」として見る最初の景色になるかもしれない。
あるいは、振られた後の、世界が灰色に見える景色になるかもしれない。
隣の席に、カップルが座った。
仲良さそうに話している。手を繋いでいる。
羨ましい。僕も、美咲さんとあんな風になりたい。
でも、そのためには、まず告白しないと。
「次は〇〇駅、〇〇駅」
アナウンスが流れる。もうすぐ到着だ。
立ち上がる。足が少し震えている。
大丈夫、大丈夫。深呼吸。
美咲さんの笑顔を思い出す。優しい声を思い出す。
きっと、大丈夫。
午前10時 - 運命の瞬間へ
改札を出る。
待ち合わせ場所は、いつもの北口の時計台の前。
時計を見る。10時ちょうど。ぴったりだ。
周りを見渡す。まだ美咲さんの姿は見えない。
ちょっと早く着きすぎたか。
いや、これでいい。心を落ち着ける時間ができる。
ベンチに座る。
もう一度、告白の言葉を確認する。
「美咲さん、僕、美咲さんのことが好きです。付き合ってください」
シンプルに、真っ直ぐに。これでいく。
「健太さん!」
顔を上げると、美咲さんが手を振りながら近づいてくる。
今日は水色のワンピース。髪を少し巻いている。可愛い。本当に可愛い。
「おはようございます」
立ち上がって挨拶する。声が少し震えていないか心配だ。
「おはようございます!今日もいい天気ですね」
美咲さんの笑顔は、朝日よりも眩しい。
「本当ですね。絶好のデート日和です」
デート、という言葉を使ってみる。美咲さんは、特に反応を示さない。普通に受け入れている。
これは、いい兆候...なのか?
「今日は映画の後、どこか行きたいところありますか?」
美咲さんが聞いてくる。
「美咲さんの行きたいところならどこでも」
「じゃあ、映画の後のお楽しみということで」
いたずらっぽく笑う美咲さん。
ああ、やっぱり好きだ。
今日、絶対に伝える。
この想いを、真っ直ぐに、美咲さんに届ける。
「じゃあ、行きましょうか」
美咲さんが歩き始める。
僕も、その隣を歩く。
あと数時間後、僕はこの想いを言葉にする。
その結果がどうであれ、後悔はしない。
だって、美咲さんのことが、本当に、本当に好きなんだから。
一歩、また一歩。
美咲さんと並んで歩く。
この時間が、ずっと続けばいいのに。
でも、それじゃダメだ。
前に進まなきゃ。
勇気を出して、一歩踏み出さなきゃ。
もうすぐ映画館に着く。
そして、映画が終わったら...
深呼吸。
大丈夫、きっと大丈夫。
僕の長い長い独り言は、ここで終わり。
これからは、二人の物語が始まる。
そう信じて、僕は歩き続ける。
美咲さんの隣で、まだ恋人ではない距離を保ちながら。
でも、心の中では、もう決めている。
今日、必ず伝える。
「好きです」と。
その言葉が、僕たちの未来を変えることを信じて。
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