見出し画像

逃げたいと思う心  すべてから背を向けて生きていた日々


はじめに:午前3時、部屋の隅で膝を抱えながら

また今日も、現実から逃げてしまった。

朝のアラームが鳴った時、布団から出られなかった。仕事に行かなければいけないのは分かっている。でも、体が動かない。心が拒否している。

「今日も休もう」

そう決めて、会社に体調不良の連絡を入れた。もう今月で5回目の欠勤。上司の呆れた声が、電話越しに聞こえた。

「健太くん、ちょっと多すぎるんじゃない?一度、病院で診てもらった方がいいよ」

「はい...すみません」

電話を切った後、また布団に潜り込んだ。

夕方になって起きて、コンビニ弁当で夕食を済ませて、今、部屋の隅で膝を抱えている。

25歳。社会人3年目。でも、僕は何から何まで逃げ続けている。

仕事から、人間関係から、責任から、そして自分自身から。

就職という現実からの逃避

大学を卒業して就職した時、僕は「これで人生が始まる」と思っていた。

でも、現実は甘くなかった。

入社して3ヶ月。研修が終わって配属された部署は、営業だった。

「健太くん、君は人当たりがいいから、営業に向いてると思うよ」

人事の人にそう言われたけど、完全に見当違いだった。僕は人と話すのが苦手で、電話をかけるのも嫌で、断られるのが怖くて仕方ない。

最初の営業同行で、先輩の話を聞いていると、胃が痛くなった。

「お客さんに断られても、めげちゃダメ。100件断られても、1件成約すればいい」

100件断られる?そんなの、耐えられない。

一人で営業に行くようになって、僕の逃避は始まった。

アポを取るための電話をかけるのが怖くて、1時間も電話の前で座っていることがある。やっと勇気を出してかけても、「結構です」と即座に断られる。

飛び込み営業なんて、地獄だった。インターホンを押すまでに10分かかる。押しても、「営業お断り」と言われて終わり。

だんだん、営業に行くふりをして、公園のベンチに座っているようになった。

「今日は5件回りました」

嘘の報告をする。上司は忙しくて、詳しくチェックしない。

でも、成果は出ない。当然だ。営業していないんだから。


人間関係という壁からの逃走

職場の人間関係も、僕には重荷だった。

同期は5人いたけど、みんな僕より優秀だった。積極的で、明るくて、上司とも上手くやっている。

飲み会に誘われても、断ることが多くなった。

「健太、今度みんなでカラオケ行かない?」

「あ...その日は用事があって」

嘘だった。用事なんてない。ただ、みんなと一緒にいるのが苦痛だった。

話についていけない。笑うタイミングが分からない。場を盛り上げることもできない。

だんだん、誘われなくなった。

昼食も、一人で食べるようになった。社員食堂ではなく、近くの公園で、コンビニで買った弁当を食べる。

一人でいる方が楽だった。でも、寂しかった。

矛盾している。人といるのも嫌だし、一人でいるのも辛い。


家族からの期待という重圧

実家からは、定期的に電話がかかってきた。

「健太、仕事はどう?」

母親の期待に満ちた声。

「うん、まあまあかな」

「そう。頑張ってるのね。お父さんも喜んでるのよ」

父は、僕が大学を卒業して就職した時、本当に嬉しそうだった。

「やっと一人前になったな」

その言葉が、今では重い。

一人前?僕が?

営業の成果も出せない、同僚ともうまくやれない、毎月何回も休む。こんな僕が一人前?

でも、本当のことは言えない。

「実は仕事がうまくいかなくて、毎日逃げてばかりです」

なんて、言えるわけがない。

だから、嘘をつく。順調だと言う。頑張ってると言う。

嘘をつくたびに、自分が情けなくなる。


恋愛という未知の領域からの撤退

職場に、気になる女性がいた。

経理部の山田さん。同い年で、いつも笑顔で、誰にでも優しい。

廊下ですれ違う時、「お疲れ様です」と言ってくれる。その笑顔に、ドキドキした。

でも、それ以上のアプローチはできなかった。

話しかける勇気がない。誘う勇気もない。そもそも、何を話せばいいのか分からない。

同期の田中が、山田さんと仲良くなっているのを見ると、嫉妬した。

「山田さんと、今度映画見に行くんだ」

田中の報告を聞いて、胸が苦しくなった。

でも、何もしない。できない。

恋愛なんて、僕には無理だ。こんな情けない男を、誰が好きになってくれる?

だから、最初から諦める。挑戦しなければ、傷つかない。


友人関係の自然消滅

大学時代の友人とも、だんだん疎遠になった。

最初は、みんなで集まることもあった。就職の報告をし合ったり、愚痴を言い合ったり。

でも、僕だけが取り残されていく感じがした。

「俺の会社、残業多くてさ」 「うちは給料安いけど、やりがいはあるよ」 「転職も考えてるんだ」

みんな、それぞれに悩みはあるけれど、前向きに頑張っている。

僕だけが、逃げてばかり。

だんだん、集まりに参加するのが億劫になった。

「今度の土曜、みんなで飲まない?」

LINEで誘われても、既読スルー。

最初は、「健太、大丈夫?」と心配してくれた。

でも、何度もスルーしていると、誘われなくなった。

グループLINEからも、自然と外された。

一人になった。でも、それは僕が選んだことだった。


部屋という名の避難所

仕事から帰ると、部屋に引きこもった。

6畳のワンルーム。狭いけれど、ここだけが僕の安全地帯だった。

誰にも会わない。誰とも話さない。電話にも出ない。

ネットサーフィンをしたり、ゲームをしたり、動画を見たり。

時間だけが過ぎていく。

でも、何も生産的なことはしない。資格の勉強もしない。転職活動もしない。趣味も特にない。

ただ、時間を消費しているだけ。

コンビニ以外、外に出ることもなくなった。それも、深夜の人がいない時間を狙って。

昼夜逆転の生活。朝起きられないから、また会社を休む。悪循環。


自分自身からの逃避

一番逃げたかったのは、自分自身からだった。

鏡を見るのが嫌だった。そこに映るのは、情けない男。何の取り柄もない、価値のない人間。

「俺は何をやってるんだろう」

毎日、自問自答していた。でも、答えは出ない。

やりたいことも分からない。得意なことも分からない。将来の夢もない。

ただ、毎日をやり過ごしているだけ。

アルコールに逃げることもあった。コンビニで買った缶ビールを、一人で飲む。

酔っている間は、現実を忘れられる。でも、翌朝起きると、何も変わっていない。

むしろ、罪悪感が増している。


会社からの最後通告

ついに、その日がやってきた。

上司に呼び出された。

「健太くん、ちょっと話がある」

会議室で、人事の人と上司が待っていた。

「最近の君の勤務態度について、話したい」

今月の欠勤日数、営業成績、同僚からの評価。すべてが最低レベルだった。

「このままでは、会社にいてもらうのは難しい」

クビ。そう言われているのと同じだった。

「1ヶ月の猶予を与える。その間に、改善が見られなければ...」

頭が真っ白になった。

会議室を出た後、僕はそのまま会社を出た。

もう、戻る気はなかった。


実家への逃避行

その夜、僕は実家に電話した。

「お母さん?俺、健太」

「あら、健太。どうしたの?こんな時間に」

「実は...会社を辞めることになった」

沈黙。

「どうして?」

「うまくいかなくて...」

詳しい事情は説明できなかった。

「とりあえず、実家に帰ってもいい?」

「もちろんよ。いつでもお帰り」

母親の優しい声に、涙が出そうになった。

翌日、荷物をまとめて実家に帰った。

両親は、何も聞かなかった。ただ、「お疲れ様」と言ってくれた。

でも、それが余計に辛かった。


実家での引きこもり生活

実家に帰っても、状況は変わらなかった。

自分の部屋に引きこもって、一日中何もしない。

母親が、食事を運んでくれる。

「健太、ちゃんと食べなさい」

「ありがとう」

申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

父親は、何も言わなかった。でも、時々、失望したような目で僕を見ているのが分かった。

近所の人に会うのが嫌で、外出も最小限にした。

「健太くん、お仕事はどう?」

そう聞かれるのが怖かった。


転機:カウンセリングとの出会い

実家に帰って3ヶ月。

母親が、そっと資料を置いていった。

「心療内科のパンフレット」

「健太、一度相談してみない?」

最初は拒否した。

「俺は病気じゃない」

でも、母親は諦めなかった。

「病気じゃなくても、話を聞いてもらうだけでも」

結局、母親に付き添われて、クリニックに行った。

カウンセラーは、50代の優しそうな女性だった。

「今日は、どんなお話を聞かせてもらえますか?」

最初は、何も話せなかった。

でも、少しずつ、今までのことを話した。

仕事のこと、人間関係のこと、逃げてきたこと。

カウンセラーは、否定しなかった。

「辛かったですね」

その一言で、涙が止まらなくなった。


少しずつ、逃げることをやめていく

カウンセリングを続けて、少しずつ変化が現れた。

「逃げることは、悪いことじゃない」

カウンセラーの言葉。

「でも、ずっと逃げ続けることはできない。いつかは、向き合う時が来る」

向き合う。自分と、現実と。

最初は、小さなことから始めた。

朝、決まった時間に起きる。散歩に出かける。図書館で本を読む。

少しずつ、外の世界との接点を増やしていく。

そして、アルバイトを始めることにした。

コンビニの夜勤。人との接触は最小限で済む。

最初は緊張したけれど、意外にできた。

小さな成功体験。それが、自信に繋がった。


逃げることから、向き合うことへ

あれから2年が経った。

今は、小さなIT企業で働いている。営業ではなく、プログラマーとして。

人との接触は少ないけれど、自分に合っている仕事だと思う。

逃げたい気持ちは、完全には消えていない。

困難にぶつかった時、人間関係で悩んだ時、今でも「逃げたい」と思うことがある。

でも、逃げる前に、一度立ち止まって考えるようになった。

「本当に逃げるべきことなのか」 「向き合えることなのか」 「誰かに相談できることなのか」

逃げることが正しい選択の時もある。でも、向き合うことで解決できることもある。

その判断ができるようになったのは、大きな成長だと思う。

もし今、すべてから逃げたいと思っている人がいたら、伝えたい。

逃げることを責める必要はない。でも、ずっと逃げ続けることもできない。

いつかは、向き合う時が来る。

その時まで、少しずつでいいから、準備をしていこう。

一人で抱え込まずに、誰かに相談しよう。

小さな一歩から始めよう。

僕も、まだ完璧じゃない。これからも、逃げたくなることがあるかもしれない。

でも、少しずつ、前に進んでいく。

逃げることから、向き合うことへ。

それが、僕の成長の軌跡だ。

#逃げたい気持ち #引きこもり #社会人1年目 #営業の恐怖 #人間関係の悩み #実家帰り #カウンセリング #小さな一歩 #非モテ卒 #恋愛逆転ストーリー

いいなと思ったら応援しよう!