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「俺なんかと付き合ってくれるわけない」  告白前夜の、長い長い独り言

はじめに:マッチングアプリで奇跡は起きたけれど

初デートは成功した。2回目のデートも楽しく過ごせた。3回目、4回目と回を重ねるごとに、僕たちの距離は確実に縮まっていった。

LINEのやり取りは毎日続き、電話で話す夜も増えた。週末は一緒に過ごすことが当たり前になりつつあった。客観的に見れば、これは明らかに「いい感じ」の関係だった。

でも、僕の心の中には、巨大な不安の塊が、日に日に大きくなっていました。

「このまま、ただの友達で終わるんじゃないか」
「彼女は、僕のことをどう思っているんだろう」
「告白なんかしたら、今の関係も壊れてしまうんじゃないか」

そして何より、心の奥底でこう囁く声がありました。

「俺なんかと付き合ってくれるわけがない」

外見を変え、会話ができるようになり、デートを重ねても、この根深い自信のなさだけは、簡単には消えてくれませんでした。

今日は、彼女に告白する前の、あの苦悩に満ちた日々について、正直に話してみようと思います。自信のない僕が、どれだけ悩み、迷い、そして最後にどうやって一歩を踏み出したのか。その全てを。


4回目のデート:幸せの絶頂と、不安の始まり

4回目のデートは、初夏の爽やかな日曜日でした。彼女の希望で、少し遠出をして海辺の町へ。電車で2時間、隣り合って座り、他愛のない話をしながら過ごす時間が、僕には夢のように幸せでした。

海辺のカフェでランチを食べ、砂浜を散歩し、アイスクリームを分け合った。夕方には展望台に登り、オレンジ色に染まる海を二人で眺めた。

「きれいだね」

彼女がそう呟いた時、僕は彼女の横顔を見つめていました。夕日に照らされた彼女の顔は、この世のものとは思えないほど美しく見えました。

「本当に、きれいだ」

僕がそう答えた時、彼女は僕の方を向いて、少し照れたように笑いました。きっと、僕が海じゃなくて彼女を見ていたことに気づいたのでしょう。

その瞬間、僕の心臓は爆発しそうなほど高鳴りました。今だ。今しかない。告白するなら、この瞬間しかない。

でも、僕の口から出た言葉は、

「そろそろ帰ろうか。電車、混む前に」

という、なんとも情けない提案でした。

彼女は少し残念そうな顔をしましたが、「そうだね」と頷いてくれました。

帰りの電車の中、僕は自己嫌悪に苛まれていました。なぜ、あの完璧なタイミングで告白できなかったのか。なぜ、また逃げてしまったのか。

隣で彼女は、疲れたのか、僕の肩に頭を預けて眠っていました。その重みと温もりを感じながら、僕は心の中で何度も何度も自分を責めていました。


自信のなさの根源:僕が抱えていた7つの不安

なぜ、僕はあれほどまでに自信が持てなかったのか。今振り返ると、僕の心を支配していた不安は、大きく7つに分類できます。

1. 外見への根深いコンプレックス

確かに、身だしなみは改善しました。清潔感も身につけました。でも、鏡を見るたび、僕の目に映るのは「イケメンではない普通の男」でした。

彼女の周りには、きっともっとかっこいい男性がたくさんいるはず。職場にも、友人関係にも、SNSで繋がっている人の中にも。そんな選択肢がある中で、なぜ彼女が僕を選ぶ理由があるだろうか。

2. 恋愛経験の圧倒的な少なさ

29歳にして、まともな恋愛経験はほぼゼロ。学生時代の淡い片思いと、社会人になってからの数回の失敗。それが僕の恋愛履歴の全てでした。

一方、彼女は普通に恋愛を経験してきた人。元カレの存在も、さりげない会話の中で察することができました。そんな彼女にとって、恋愛初心者の僕なんて、物足りないに決まっている。

3. 経済力の不安

IT企業のエンジニアとして、収入は平均的。でも、将来を考えた時、本当に彼女を幸せにできるだけの経済力があるだろうか。

デート代も、正直きつい時がありました。でも、「割り勘にしよう」と言い出す勇気もなく、無理をして払い続けていました。こんな状態で、付き合うなんて言えるのか。

4. コミュニケーション能力への不安

確かに、以前よりは話せるようになりました。でも、それは彼女が優しく、話しやすい雰囲気を作ってくれているから。もし付き合って、日常的に一緒にいるようになったら、僕の会話力の無さが露呈してしまうのではないか。

沈黙が怖い。面白い話ができない。彼女を楽しませ続ける自信がない。

5. 「非モテ」の呪縛

「非モテ」という言葉は使わなくなったけれど、その感覚は心の奥底に残っていました。29年間モテなかった人間が、急にモテるようになるわけがない。きっと、何か裏があるはずだ。

彼女は優しいから、僕に同情してくれているだけかもしれない。可哀想だから、付き合ってあげているのかもしれない。そんな被害妄想が、頭から離れませんでした。

6. 彼女の気持ちが読めない不安

女性の気持ちは複雑だと聞きます。表面上は楽しそうにしていても、本心は違うかもしれない。僕と一緒にいて、本当に楽しいのだろうか。

デートの後、「楽しかった」と言ってくれるけど、それは社交辞令かもしれない。LINEの返信が少し遅い時は、「もう飽きられたのかも」と不安になる。

7. 失敗への恐怖

そして、最も大きな不安は、告白して振られることへの恐怖でした。今の関係は、確かに曖昧です。でも、少なくとも彼女と一緒に時間を過ごせている。

告白して振られたら、この幸せな時間も全て失ってしまう。それなら、このまま曖昧な関係を続けた方がいいのではないか。


5回目のデート前夜:眠れない夜の独り言

5回目のデートを翌日に控えた金曜日の夜。僕は全く眠れませんでした。

ベッドに横になり、天井を見つめながら、頭の中で何度も何度もシミュレーションを繰り返していました。

「明日こそ、告白しよう」
「いや、まだ早いかもしれない」
「でも、このままじゃ友達止まりだ」
「振られたらどうしよう」
「そもそも、俺なんかが告白する資格があるのか」

枕元に置いたスマホを手に取り、彼女とのLINEのやり取りを最初から読み返しました。初めてマッチングした時のメッセージ。ぎこちない会話。デートの約束。少しずつ距離が縮まっていく過程。

「ここまで来れただけでも、奇跡だよな」

独り言を呟きながら、僕は過去の自分を思い出していました。鏡の前で泣いていた自分。黒い服しか着られなかった自分。コンビニで「ありがとう」も言えなかった自分。

あの頃と比べれば、確かに成長した。でも、本当に「彼氏」になれるほど成長したのだろうか。

時計を見ると、午前3時。あと6時間後には、彼女と会う約束をしている。

僕は、枕に顔を埋めて、小さく叫びました。

「どうすればいいんだよ...」


友人への相談:背中を押してくれた言葉

翌朝、寝不足でフラフラしながら、僕は久しぶりに大学時代の友人に電話をかけました。彼は、僕の数少ない友人の一人で、既に結婚して子供もいる、いわゆる「リア充」でした。

「おう、健太。珍しいな、どうした?」

「実は...相談があって」

僕は、彼女との関係、自分の不安、告白できない情けなさ、全てを正直に話しました。彼は、黙って最後まで聞いてくれました。

「なるほどな。で、健太はどうしたいんだ?」

「それは...付き合いたいに決まってる。でも...」

「でも、自信がない、と」

「うん...」

電話の向こうで、彼は少し笑ったような気配がしました。

「健太、お前さ、自分で自分を低く見すぎなんだよ。俺から見たら、お前、めちゃくちゃ変わったぞ。前は暗くて、話しかけづらい雰囲気だったけど、最近は明るくなったし、普通に会話できるようになったし」

「でも、それでも俺なんか...」

「また『俺なんか』か。いいか、健太。女性が男性と何回もデートするってことは、少なくとも嫌いじゃないってことだ。むしろ、好意を持ってる可能性の方が高い」

「本当に?」

「当たり前だろ。時間は有限なんだから、興味ない相手と何回も会うわけない。それに、お前が思ってるほど、女性は外見だけで男を選ばない。優しさとか、誠実さとか、一緒にいて楽しいかとか、そういうのを総合的に見てるんだ」

彼の言葉は、僕の凝り固まった思考を少しずつほぐしてくれました。

「でも、振られたら...」

「振られたら振られたで、次があるさ。でも、告白しなかったら、一生後悔するぞ。『あの時、勇気を出していれば』って」

「...」

「健太、完璧な人間なんていない。お前が思ってる『彼氏にふさわしい男』なんて、幻想だ。大切なのは、相手を大切に思う気持ちがあるかどうか。お前には、それがあるだろ?」

「ある...すごく、ある」

「なら、それを伝えればいい。シンプルな話だ」

電話を切った後、僕は深呼吸をしました。彼の言葉は正しい。僕は、自分で自分を否定しすぎていた。彼女が僕と過ごしてくれる時間、それ自体が、彼女の気持ちの表れなのかもしれない。


5回目のデート当日:決意と、それでも消えない不安

デートの待ち合わせ場所は、いつもの駅前。彼女は、薄いピンクのワンピースを着て現れました。春の終わりの陽気に、よく似合っている。

「おはよう。昨日はよく眠れた?」

彼女の問いかけに、僕は苦笑いを浮かべました。

「実は、あんまり...」

「あら、どうしたの?」

「いや、ちょっと考え事してて」

本当は「君への告白のことで一睡もできなかった」と言いたかったけど、そんな勇気はありませんでした。

その日は、美術館に行く予定でした。彼女が前から行きたがっていた企画展。静かな館内を、二人で作品を見ながら歩く。時々、感想を述べ合う。

普段なら、こういう静かな時間を楽しめるはずでした。でも、この日の僕は、全く作品に集中できませんでした。頭の中は、「いつ告白するか」「どう切り出すか」でいっぱい。

「健太くん、大丈夫?なんか上の空だよ」

彼女に心配されて、我に返りました。

「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」

「疲れてる?どこか座る?」

彼女の優しさが、逆に僕を苦しめました。こんなに優しい人を、僕なんかが独占していいのだろうか。もっとふさわしい人がいるんじゃないか。

美術館を出て、近くのカフェで休憩することになりました。窓際の席に座り、アイスコーヒーを注文。彼女は、いつものようにカフェラテ。

「今日の展示、よかったね」

彼女がそう言って微笑みました。僕は、正直ほとんど覚えていませんでしたが、「うん、よかった」と答えました。

沈黙が流れます。いつもなら、この沈黙も心地いいはずなのに、今日は重く感じられました。

「あの...」

ついに、僕は口を開きました。でも、続く言葉が出てこない。

「ん?どうしたの?」

彼女が小首を傾げて、僕を見つめています。その瞳があまりにもまっすぐで、僕は思わず目をそらしてしまいました。

「いや...なんでもない」

また、逃げてしまった。


夕暮れの公園:ついに訪れた、その瞬間

カフェを出た後、僕たちは近くの公園を散歩することにしました。夕方の公園は、犬の散歩をする人、ジョギングをする人、ベンチで本を読む人など、それぞれの時間を過ごす人たちで賑わっていました。

「あ、あそこのベンチ、空いてる」

彼女が指差した先に、大きな木の下のベンチがありました。僕たちは、そこに並んで座りました。

西の空が、少しずつオレンジ色に染まり始めていました。風が心地よく、木々の葉がさらさらと音を立てています。

「気持ちいいね」

彼女がそう言って、目を閉じました。その横顔を見ながら、僕は思いました。

今を逃したら、もう二度とチャンスは来ないかもしれない。

勇気を振り絞って、僕は口を開きました。

「あの...さっきから言おうと思ってたことがあって」

「うん」

彼女は目を開けて、僕の方を向きました。

「俺...その...」

言葉が詰まります。心臓が、胸を突き破りそうなほど激しく打っています。

「俺、君のことが...好きです」

ついに、言えました。でも、そこで言葉が止まってしまいました。本当は「付き合ってください」まで言うつもりだったのに。

彼女は、少し驚いたような顔をした後、頬を赤く染めました。

「...」

沈黙が流れます。1秒が1時間のように感じられました。

ダメだ。やっぱり、俺なんかじゃ...

そう思った瞬間、彼女が口を開きました。

「やっと言ってくれた」

え?

「実は、私も...健太くんのことが好き」


告白後の会話:不安の告白と、彼女の本音】

僕は、自分の耳を疑いました。彼女も、僕のことを好きだと言ってくれた。でも、すぐには信じられませんでした。

「本当に?でも、俺なんか...」

また出てしまった、「俺なんか」という言葉。彼女は、少し困ったような、でも優しい表情で言いました。

「健太くん、また『俺なんか』って言った。前にも言ったよね。その癖、やめてほしいな」

「ごめん...でも、本当に俺でいいの?もっと、かっこよくて、面白くて、お金持ちの人とか...」

彼女は、首を横に振りました。

「私が好きになったのは、そういう条件じゃないよ。健太くんの優しさとか、真面目さとか、一緒にいて落ち着くところとか...」

「でも、俺、恋愛経験もほとんどないし...」

「それがどうしたの?」

彼女の言葉は、きっぱりとしていました。

「私だって、そんなに経験豊富じゃないよ。それに、経験が多ければいいってものでもないでしょ?大切なのは、これからどう一緒に過ごしていくか、じゃない?」

僕は、彼女の言葉に、少しずつ心がほぐれていくのを感じました。

「実はね」

彼女が続けました。

「私も、すごく不安だった。健太くんが私のことをどう思ってるのか、全然分からなくて。デートは楽しそうにしてくれるけど、それ以上の関係になりたいのか、分からなかった」

「え、そうだったの?」

「うん。3回目のデートの後とか、『私、つまらない女なのかな』って落ち込んだりもした」

僕は驚きました。彼女も、不安を抱えていたなんて。

「だから、今日、健太くんが告白してくれて、本当に嬉しい。やっと、気持ちが通じ合えた気がする」


付き合うことへの不安:正直な気持ちの共有

「でも...」

僕は、まだ不安を拭いきれませんでした。

「俺、彼氏として、ちゃんとできるか分からない。デートプランとか、プレゼントとか、記念日とか...そういうの、全然分からないし」

彼女は、くすっと笑いました。

「そんなの、二人で考えればいいじゃない。完璧な彼氏なんて、求めてないよ」

「でも...」

「健太くん」

彼女は、真剣な表情で僕を見つめました。

「私が好きなのは、完璧な人じゃない。一生懸命で、優しくて、不器用だけど頑張ってる健太くんが好きなの。だから、そのままでいて」

その言葉を聞いて、僕の目に涙が浮かびました。そのままでいい。不完全な僕を、受け入れてくれる人がいる。

「俺も、君のことが本当に好きです。不器用だけど、精一杯頑張るから...付き合ってください」

今度は、最後まで言えました。

彼女は、満面の笑みで答えてくれました。

「はい。よろしくお願いします」


エピローグ:自信は後からついてくる

あの告白から、時間が経った今、振り返って思うことがあります。

自信は、最初から持っている必要はなかったんだと。

大切なのは、不安や恐怖を抱えながらも、一歩踏み出す勇気。完璧じゃない自分を、相手に見せる勇気。そして、相手の気持ちを信じる勇気。

僕は今でも、完璧な彼氏ではありません。デートプランで失敗することもあるし、彼女を不安にさせてしまうこともある。でも、その度に話し合い、一緒に解決策を見つけていく。

「俺なんか」という言葉は、完全には消えていません。でも、彼女といる時は、その声が小さくなります。なぜなら、彼女が僕を選んでくれたという事実が、何よりも強い支えになっているから。

自信がないから告白できない、ではなく、告白することで少しずつ自信がついてくる。そんな順番でもいいんだと、今は思います。

あの夕暮れの公園で、震える声で告白した自分に、もし会えるなら、こう言ってあげたい。

「大丈夫。君は愛される価値がある。勇気を出して、本当によかったね」

不完全な僕の、不完全な告白。でも、それが僕たちの物語の、本当の始まりだったのです。


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