【ご案内】里海をブルーカーボンと環境DNAで考える勉強会開催(6/17PM@東京):ANEMONE.BIZ.BLUE ECONOMY
【ご案内】里海をブルーカーボンと環境DNAで考えるセミクローズドな勉強会を、2026年6月17日午後開催予定です(13:00-17:00)。ご関心がある皆様は、ぜひお越しください。
【お申し込み】
https://forms.gle/FoYBtNQCGLUnPX3s9
【場所】
室町三井ホール&カンファレンス RoomA
東京都中央区日本橋室町三丁目2番1号 COREDO室町テラス 3階
https://www.mitsui-mice.jp/nihonbashi/muromachi/access/
藻場再生とJブルークレジットそして、環境DNA
藻場・干潟は、水産動植物の産卵、幼稚仔魚の成育、餌場、水質浄化などの機能を持つ重要な沿岸生態系です。2023年に改訂された水産庁の「藻場・干潟ビジョン」では、海水温上昇を踏まえた海藻種の選定、広域モニタリング技術、多様な主体の参画、カーボンクレジットの活用などが重視されています。つまり、藻場再生は「海の生態系回復を測定し、証明し、企業・自治体・地域に価値として返す事業」です。
今回の勉強会では、JBEのJブルークレジットと、環境DNAのデータベース基盤ANEMONEを使って、どのように藻場の回復を科学的に計測するかを意見交換します。
JBEのJブルークレジットは、日本国内でブルーカーボンをクレジット化するうえで中心的な制度です。JBEは、藻場などのブルーカーボン生態系に取り込まれた二酸化炭素を、独立した第三者委員会によって審査し、Jブルークレジットとして認証・発行・管理しています。対象は、藻場などの沿岸・海洋生態系に吸収・貯留された二酸化炭素であり、将来予測ではなく、実際に実施された活動の成果が科学的に評価されます。
一方、ANEMONEは、環境DNAを活用して生物多様性を観測する全国規模の取り組みです。ANEMONEは「All Nippon eDNA Monitoring Network」の略称で、東北大学が運営し、生物多様性情報のインフラとして位置づけられています。東北大学のネイチャーポジティブ発展社会実現拠点では、ANEMONEデータベースを活用し、サプライチェーンにおける生物多様性の影響評価や、生物多様性を重視した経済戦略への貢献が掲げられています。
ANEMONEデータベースは今まで科学的用途のオープンデータベースでしたが、昨今の、ネイチャーポジティブビジネスの始まりを受けて、ビジネスのネイチャーポジティブ移行に向けた用途別の検討をはじめています。
今回の、「ANEMONE.BIZ.BLUE ECONOMY」は、まさに、その第一弾としての検討になります。
例えば、「この活動は、ある湾、ある港、ある漁場における藻場再生と生物多様性回復に資金/貢献などが提供され、その成果はJブルークレジットと環境DNAデータによって検証されています」といえるようなイメージを想定しています。ぜひ、ご関心がある方は、お越しください!
藻場再生の成果を科学的に測る、とは?
藻場とは、海藻や海草がまとまって生育する海の森です。海藻は、ワカメ、コンブ、アカモク、ホンダワラ類などのように、岩場などに付着して育つ植物に近い生物です。海草は、アマモなどのように、陸上植物が海に戻って進化したもので、砂泥地に根を張ります。厳密には海藻と海草は異なりますが、一般的な文脈では、どちらも沿岸の重要な生態系として扱われます。
藻場再生が注目される理由は、3つあります。
最初に、水産資源の回復です。藻場は、魚介類の産卵場や稚魚の隠れ場所になります。単に海藻が増えるだけではなく、魚、エビ、カニ、貝、ウニ、微小生物など、多くの生き物の生活基盤になります。漁業の視点では、藻場は「漁獲の前段階を支える生産基盤」です。
次に、地域の防災・水質・景観価値です。藻場や干潟は、水質の浄化、栄養塩の循環、波浪の緩和、海辺の景観形成などにも関わります。国土交通省も、藻場・干潟、自然共生型港湾構造物などを「ブルーインフラ」と位置づけ、カーボンニュートラルへの貢献と生物多様性の向上の両面から取り組みを進めています。
次に、気候変動や生物多様性の回復です。藻場は光合成によって二酸化炭素を吸収します。海藻や海草の一部は、堆積物として海底に残ったり、沖合や深海に運ばれたりすることで、炭素を長く隔離する可能性があります。日本の温室効果ガスインベントリで、海草藻場と海藻藻場を合わせた吸収量が世界で初めて報告されました。また、生物多様性とは、遺伝子の多様性、種の多様性、生態系の多様性を含む概念です。藻場が失われると、そこに依存していた生き物のネットワークが崩れます。逆に、藻場が戻ると、魚や底生生物、微生物を含む生態系のつながりが戻る可能性があります。
藻場再生を事業化する際、多くの人は最初にブルーカーボンを考えます。日本では、JBEのJブルークレジットがこの役割を担っています。JBEは、ブルーカーボン生態系に吸収・貯留された二酸化炭素を、Jブルークレジットとして認証・発行・管理しています。Jブルークレジットは、過去に実施された活動による吸収量を科学的に評価する制度です。JBEが公表している2025年度の認証案件を見ると、案件ごとの認証量は幅があります。たとえば、数トン規模の案件もあれば、数百トン、千トンを超える案件もあります。2025年度第3回の認証・発行では、33件のプロジェクトが認証されていますが、プロジェクトごとの認証量は0.2トンから1,303.2トンまで大きく異なります。2025年度の購入申込結果では、第2回認証・発行までを対象に、45件のプロジェクトに対して56件の購入申込があり、移転量は合計229.3トン、税抜総額は1,904万円、平均単価は1トン当たり83,035円でした。
一方で、前述のとおり、藻場の価値の多くが、炭素ではなく生態系機能にあります。しかし、これらの価値は、Jブルークレジットの二酸化炭素トン数には直接反映されません。
魚類の種数は増えたのか。稚魚や小型魚は増えたのか。藻場を食べ尽くす植食性魚類やウニだけが増えていないか。底生生物や甲殻類の構成は変わったのか。外来種や有害種の兆候はないか。かつてその地域で見られた生物群集に近づいているのか。これらは、従来の潜水調査や目視調査だけで把握しようとすると、コストが高く、専門家の負担も大きくなります。環境DNAは、これを補完する手段になります。
環境DNAとは、水や土の中に残された生き物由来のDNAのことです。魚や貝や海藻などの生き物は、皮膚、粘液、排泄物、細胞片などを環境中に残します。そのDNAを水や土から採取して分析することで、そこにどのような生き物がいた可能性があるかを調べることができます。東北大学の説明でも、環境DNAは、水や土壌中に存在する生物由来のDNAを解析することで、生息する生物種を調べる技術です。捕獲や目視調査に比べ、多地点・高頻度の調査に向く点が特徴です。すなわち、藻場再生の前後で、生物群集がどう変わったかを測る、近隣の対照地点と比べて、回復が本当に起きているかを確認する、などが期待できそうです。これにより、環境DNAは「分析技術」から「信頼をつくる社会インフラ」になりえます。
藻場が本当に再生しているのか?
藻場再生のへの取り組みは広がっているものの、肝心の藻場はどれくらい回復できたのでしょうか?幸い、黒潮蛇行が止み、全国の海水温が落ち着く方向にあるとされています。回復をANEMONEのデータベースを活用してみることはできるかどうかをここでは議論をします。
ANEMONEは、全国規模で環境DNA観測を進めてきた取り組みです。ANEMONEは2019年から全国沿岸で毎週水を汲む市民参加型観測を行い、約830名の市民ボランティアの協力によって、1,941地点、1,300種以上の魚類検出データを公開してきました。ANEMONEには、全国的なデータ蓄積、研究者ネットワーク、標準化の思想、市民参加の仕組み、国際的な展開可能性があります。一般的には、環境DNAを使う場合の標準化を、ANEMONEではガイドラインを作っているところが重要です。量、採水深度、地点数、季節、時間帯、天候、潮汐、保存方法を統一します。これがばらばらだと、年ごとの比較が難しくなります。
ANEMONE.BIZ.BLUE ECONOMYは、藻場再生によるブルーカーボン価値と生物多様性回復価値を、環境DNAと現地観測によって可視化し、Jブルークレジットとともに、生物多様性回復を確認し、自然資本レポートとして提供することで、里海づくりに貢献できないかを検討しようとしています。「プロジェクトでは、ANEMONE型の環境DNAモニタリングにより、魚類群集や藻場関連生物の変化を継続的に観測しています」みたいなことが、以下の3つの機能を通して、言えれば素敵です。
一つ目は、診断機能です。どの海域で藻場再生の可能性があるのか。既存の藻場はどこにあるのか。磯焼けはどの程度進んでいるのか。食害、生育基盤、濁り、水温、流れ、地域の管理体制はどうか。Jブルークレジット化に向いているか。生物多様性回復の効果が測れそうか。これを初期診断します。
二つ目は、モニタリング機能です。環境DNA、潜水・ROV調査、ドローンや衛星、写真測量、漁業者の観察記録、水温や濁度などのセンサーデータを組み合わせ、藻場の変化を継続的に追います。
三つ目は、認証機能です。JブルークレジットはJBEの制度に従って申請します。生物多様性については、ANEMONE型のデータに基づく独自の回復認証を設計します。この認証は、第三者委員会、専門家レビュー、データ公開ルールを組み込む必要があります。
ただし、海の自然再生を、測定可能で、検証可能で、企業が支援可能な経済活動に変えるプラットフォームを目指すのであれば、もしかしたら、環境DNAだけではなく、現地観測、藻場面積、被度、海藻・海草の健全性、魚類群集、底生生物、水温、濁度、食害圧などを組み合わせ、藻場再生によって生物多様性がどのように変化したかの評価も必要かもしれません。
「ANEMONE Blue Baseline」として、藻場再生予定地の生物多様性の初期状態を診断すために、環境DNA、現地観測、既存資料、漁業者ヒアリングを組み合わせ、再生前の基準値を作ります。MRVも重要です。MRVとは、測定し、報告し、第三者が検証する仕組みのことです。以後、MRVと書きます。ここでは、藻場の状態と生物多様性の変化を、年単位で追跡します。
その次に「ANEMONE Blue Recovery Certificate」です。これは、生物多様性回復の成果が一定基準を満たした場合に発行する証書です。
ただ、何がリカーバリーしたのでしょうか?
一つ目は、藻場そのものの回復です。藻場面積、被度、海藻・海草の種類、草丈や藻体の健全性、着生基盤、食害の程度、季節ごとの消長を見ます。
二つ目は、魚類群集の回復です。環境DNAを使い、魚類の種数、構成、藻場に関係する種、稚魚期に藻場を利用する種、捕食者と被食者のバランスなどを見ます。ANEMONEの強みは、魚類環境DNAの全国データと比較可能性にあります。
三つ目は、底生生物・機能群です。貝類、甲殻類、ゴカイ類、ウニ類など、海底や藻場の構造に関わる生き物を見ます。環境DNAだけでは限界がある場合、採泥調査、潜水観察、写真解析を補完的に使います。
四つ目は、圧力です。水温、濁度、栄養塩、食害生物の密度、流況、漂着ごみ、周辺開発、漁業圧などを見ます。生物多様性の変化は、藻場再生活動だけでなく、外部要因にも左右されるためです。
ただ、スコアは「地域類型ごと」に違いそうです。寒流系コンブ場。温帯ガラモ場。アマモ場。港湾内の人工基盤藻場。干潟・藻場複合域。地域類型ごとに、参照地点(その地域で望ましい状態に近い場所または再生対象地と似ているが再生活動を行っていない場所)を設定もする必要がありそうです。この両方を組み合わせることで、単なる年変動を回復と誤認するリスクを減らせそうです。
確認の方法
最低限、次の6つの要素を入れることで、共通の確認方法を設計できます。
第一に、追加性です。追加性とは、その事業がなければ起きなかった回復であることです。追加性を示すには、過去データ、地域ヒアリング、対照地点、活動内容、資金の使途を記録する必要があります。
第二に、ベースラインです。ベースラインとは、事業開始前の基準状態です。環境DNA、藻場面積、被度、魚類群集、水温、食害圧などを、事業開始前に記録します。これがないと、改善したかどうかを説明できません。
第三に、対照地点です。再生対象地だけを見ると、年変動を回復と誤認する可能性があります。近隣の類似地点を対照地点として観測し、再生活動の効果を推定します。
第四に、永続性です。藻場は一度戻っても、台風、食害、海水温上昇などで失われる可能性があります。したがって、生物多様性回復証書は、未来永劫の回復を保証するものではなく、「特定年度に確認された回復成果」として発行すべきです。
第五に、不確実性控除です。自然データには不確実性があります。環境DNAの検出、藻場面積の推定、季節変動には誤差があります。そのため、証書発行量は保守的にし、不確実性が高い場合は発行量を減らすべきです。
第六に、リーケージです。リーケージとは、ある場所で回復しても、別の場所に悪影響が移ることです。たとえば、ウニを除去した結果、その処理や漁場管理が別の問題を生む可能性があります。食害対策や生物除去は、地域の漁業管理と一体で設計する必要があります。
これらは、すでに、ブルーカーボンの申請時に一定行われているので、藻場の効果が具体的にどうだったかについて何を「追加的に検討すべきか」が議論されることが望まれると思われます。藻場再生の成功は、藻場面積の回復、藻場被度の改善、環境DNAで確認される魚類群集の変化、藻場依存種または藻場関連種の出現傾向、食害圧の低下などで見られるはずです。また、港湾・インフラ型。漁業共創型。地域ブランド型、それぞれでも違って曽木そうです。
勉強会ではこうしたことが議論されるのではないかと楽しみにしています!
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