北海道の秘境・野付半島、野生動物にあう(女二人で野付半島 その1)
2025年9月、北海道在住の人もなかなか行けない道東の秘境・野付半島を、naokoとsatomi二人で旅した記録です。
🔵 一度見たら忘れられない、不思議な形の野付半島
「何も無いこの世の果てみたいなところで、何にも考えずぼーっとしたい」
私satomiは、2025年9月11日の誕生日を、短時間だけ行ったことのある道東の野付半島で、ゆっくりぼーっと過ごしたいと思いました。
運転に慣れているnaokoが、
「私も野付半島に行って、夕焼けと野生動物たちを撮りたい」
と言ってくれて、この二人旅が実現したのです。
野付半島は知床半島の南にある、曲がりくねった海老のような独特な形の全長二八キロメートルの日本一長大な砂嘴(さし)、オホーツク海にくちばしのように突き出た半島です。

堆積した砂でできているので、刻々と姿を変え、数百年前と現在では形が違う不思議な半島です。
短いところでは左右の幅が数十メートルしかありません。
半島中央部から先には人家はなく、あるのは漁業関係の建物だけなのです。
北方領土の国後島にもっとも近いのも、この野付半島です。
根室海峡に突き出した長大な砂嘴は、知床半島の土砂が海流に削られ堆積したもの。
根室海峡は羅臼沖では二千メートルもの深さがありますが、標津(しべつ)沖では数百メートルしかなく、夏に根室海峡に出没するマッコウクジラも、羅臼沖でUターンするといいます。
土砂が削られて流れつき、流氷で植物性プランクトンも漂着します。
植物プランクトンを食べて生きる動物性プランクトンも、野付半島沖や野付湾には多く、魚介類も豊富に収獲されるのです。
野付半島に野生動物や野鳥が多いのは、豊かな漁業資源に恵まれている地だからでしょう。

️
🔵 野付半島が秘境と呼ばれるわけ
野付半島は、タンチョウ、オオワシなどの天然記念物に指定されている鳥たちや、キタキツネ、エゾシカたちが闊歩する野生動物の王国です。
でも、地平線・水平線が広がる見晴らしのいい土地のためか森がないためか、ヒグマがいないので、安心して旅ができます。
標津あたりまではヒグマの姿を見るけれど、ヒグマは野付半島の砂嘴の入り口で引き返すのだといいます。
知床半島よりも観光客が圧倒的に少ないのは、アクセスが非常に悪いからではないでしょうか。
バスの乗り入れも一年のうちほんのわずかな期間に限定され、宿もバス停もお店も、コンビニはもちろん自動販売機さえ無い。
野付半島は動物や野鳥にとっては天国ですが、人間にとっては無い無いづくしの半島なのです。
こんな野付半島を三〇キロ延々と歩く観光客は、まあ、いないでしょう。車かオートバイが無いとほぼ入れない、憧れの土地なのでした。
この時、私はようやく運転できるようになって、ホヤホヤ湯気が立ちそうな状態でした。
一五年前に横浜で免許を取ったきりのペーパードライバーで、数週間前にペーパードライバー教習に行って、アクセルとブレーキの位置を思い出したところ。
バックも満足にできず、駐車場には停められないという、超初心者だったので、naokoがいてくれたから、この旅が実現しました。
私たちの今夜と明日の宿は、野付半島の付け根にある「のつけのつけね」という小さな素泊まりの宿で、ここより先に宿泊施設は一軒もありません。
「のつけのつけね」を出ると、裏は大きな湿地帯です。
宿の裏に、天然記念物に指定されているタンチョウのカップルが歩いていたのには、驚きました。

「のつけのつけね」のオーナーさんは親切で、いろいろアドバイスをくれました。
「一応網戸がついていますが、けっして窓は開けないでくださいね。
ヌカカという網目をすり抜けてしまうくらい小さな蚊が入ってきますので。ヌカカに噛まれると一週間は腫れたままになってしまいますよ」
絶対窓は開けるまい、と強く思いました。
チェックインを終えて、虫防止スプレーを全身に振りかけ、私たちはすぐに、野付半島の先端へ向けてドライブを開始しました。
我が身でヌカカの恐ろしさを実際に体験するのは、まだまだ先のことです(笑)。
🔵 無数の野鳥が飛び交う王国
とりあえず、半島の奥にある野付半島ネイチャーセンターを目指して走り出しました。

電信柱がポツンポツンと道路に立ち、電線がつながっています。ここに住む人はいないのですが、漁業を営む人たちの船小屋や倉庫、事務所などがあちこちに点在しているのです。
すれ違う車も後続車もほとんど無く、オホーツク海と野付湾に挟まれてほぼ真っ直ぐな一本道が続いています。
左側のオホーツク海には道から少し距離を置いて防波堤が立ち、右側の波がほとんど立たない野付湾に沿って、広い湿地帯があります。
野付半島はオジロワシやタンチョウ、オオワシなど二三〇種類以上の野鳥が観察できるバードウォッチングのポイントとして有名で、日本だけでなく特に冬は世界中からバードウォッチャーが集まる場所、多い時期には二万羽が羽を休める渡り鳥の中継地だといいます。

鳥たちが、左側にも右側にもパラパラと飛んでいる姿が見えます。
湿地帯にとまっている鳥を撮影し、拡大してみたらイヌワシのようです。
わあ、と野鳥好きのnaokoは早速歓声をあげました。

「運転していると、写真を撮る余裕がないよ」
「見晴らしのいいこの道なら、私も運転できそうだから代わろうか」
こうして、ペーパードライバー歴一五年、再開して運転五回目という超初心者の私が運転することになりました。
「写真を撮りたいから、ゆっくり運転してね」
とnaoko。
後続車が来ないのを幸い、自転車とも変わらない時速二〇キロくらいの低スピードで、私はこわごわとのろのろ運転を続けます。
風景を味わう余裕なんてありませんが、刻々と空の色が、薄いオレンジ、ブルーと、微妙な色彩に変化しているのはわかりました。
時折、小さな鳥がわざわざ車の行手を遮るように道の真ん中に飛び降りてきます。
車が近づくと砂を撒くようにパアッと逃げていくのですが、時折動作がのろい鳥もいます。
「簡単に轢かれてしまうほど野鳥たちは鈍臭くないから、大丈夫よ」
naokoは笑うけれど、私はよけきれないのではないかと、気が気ではありません。
🔵 噂の「おねだりキツネ」が出没
そろそろキタキツネかエゾシカが出てこないかな、そんなことを話していた私たち。
車の行手を遮るように、道路の真ん中で寝そべっていたキタキツネが目に入ったので、車を止めました。
キタキツネは、カメラを構えると野生の身振りでサッと起き、こちらの様子を伺いつつ、ソロソロと近づいてきました。
これが「のつけのつけね」のオーナーが話してくれた「おねだりキツネ」でしょう。

「おねだりキツネというあだ名のキツネが、いつもだいたい決まった場所にいるよ。
道の真ん中に寝そべったりして、車で行き交う観光客の注意を引いて、エサをもらおうという魂胆なんだよね。
スナック菓子やパンを投げ与える観光客もいて、餌つけされてるキツネはだいたい疥癬(かいせん)を持ってます。
人間が美味しいと思う食べ物は、脂分や塩分が濃くて、人間はなんともなくても野生動物のからだが変になってしまうんだよね。
絶対、食べ物をやってはダメですよ」
そのキタキツネは、上目遣いで怯えたような媚びたような微妙な表情をしていました。何かあったら、すぐ逃げるぞという気配が野生です。
写真は撮るけれど、食べ物はやらないで通り過ぎます。
キタキツネを見ると嬉しくなって、もっと近づいてほしいと餌付けしてしまう人の気持ちが、十分わかりました。
でも、野生動物にとって、人間の餌付けは命取りにもなりかねないと、オーナーの言葉を肝に銘じながら、さらに進みます。
🔵 北方領土の国後島が目の前に
海の向こうに、知床半島と北方領土の国後島を一望できる「第二しべつ展望パーキング」に着いたころは、次第に夕闇が迫っていました。
パーキングの向こうの砂浜はオホーツク海に面しており、左側後方には知床半島、横にたなびく雲の上に知床連山が顔を出していました。
右側には国後島が平べったく横たわって、知床半島への距離と国後島の距離はほとんど同じように見えます。
北方領土が思いがけず、すぐ近くにあります。目の前にある島が異国ロシアの実効支配下にあるとは。

「もう少し、半島の先に進もうよ」
まだまだ序の口で、野付半島の先は長い。カルガモっぽいけどちょっと違う鳥たち、あ、キツネが今草むらに入って行ったよ。その度に車を停め、外に出て海と空と動物たちを眺めます。
カルガモに似た鳥は、関東ではなかなかなお目にかかれないカワアイサではないか、とnaokoは言います。
ここで憩っている鳥たちは、本州ではなかなかお目にかかれない鳥たちなのでしょう。
naokoは、望遠レンズを付けた大きなカメラを構えながら、夕暮れに近づいていく微妙な色彩の空をバックに、周りの鳥たちの様子や野生動物がいないか、左右を注意深く見つめています。
ふっと何気なく今来た道を振り向き、私たちは息を呑みました。
突然、夕焼けが始まって、湿地帯を挟んだ向こう側の山の空が、凄絶と言いたいくらいに、真っ赤に焼けていたのです。
「突然、前触れなく夕焼けが始まることもあるんだね」
naokoは撮影に集中し、無言になりました。

「これ以上はもう撮れないかな」
とnaokoが言い、方向転換してすっかり暗くなった一本道を戻ることにした。野付半島を出るまで、車とは全くすれ違いませんでした。
標津の町で入った小料理屋で、ノンアルコールビールと美味しいお寿司を食べて、夜道を野付半島へ引き返しました。
流氷で流れ着くプランクトンを食べて、グルタミン酸が多いと言われるこのあたりのホタテ貝は、旨味が濃いと評判です。
「野付半島って、日本とは思えない凄い場所だね。
あちこち行かないで、野付半島だけに焦点を当てて、ゆっくりできて良かった」
今日見た光景を噛みしめながら食べた、ぷりぷりした弾力のあるホタテは、分厚くて甘くたいそう新鮮でした。
#北海道 #野付半島 #道東 #野生動物 #野鳥 #秘境 #キタキツネ
野付半島の旅 その2はこちら⬇️
