【帰り道が、静かになった日】
最近、
帰りの車のなかが、
とても静かだ。
明らかに、
頭のなかに余白ができている。
前なら、
明日の予定。
患者さんのこと。
次にやること。
気づけば、
仕事が、
頭の中のほとんどを占めていた。
でも今は違う。
とても静かだ。
……
あぁ、いつぶりだろう。
ゆっくり息を吸う。
窓の外に目を向ける。
夕日がきれいだな。
旅で夫と見た、
あの景色に少し似ている。
そんなふうに、
目の前の景色から、
自然と気持ちが動く。
そういえば最近、
「私は、これからどう生きていきたいんだろう。」
そんなことを考えながら帰る時間が、
少し好きになっていた。
――――――――――
退職までに、
何を託そう。
そう思って、
久しぶりにノートを開いた。
ページをめくる。
在宅マニュアル。
オンコールの仕組み。
在宅会議。
地域との連携。
一つ、また一つ。
ページをめくるたびに、
私が歩いてきた日々が、
そこにあった。
静かに、
ページをめくり続ける。
利用者さんが、
安心して家で暮らせるように。
スタッフが、
迷わず動けるように。
地域から、
安心して任せてもらえるように。
仕組みだけじゃなかった。
そこには、
私が大切にしてきた思いも、
一緒に残っていた。
そんな思いで、
一つずつ、
積み重ねてきた。
ただ、それだけだった。
ページを閉じようとして、
ふと、
手が止まった。
――――――――――
あれ。
私は、
退職までに、
託そうと思っていた。
でも、
違った。
託すって、
最後の日にすることじゃなかった。
一つ作るたびに。
一つ伝えるたびに。
一つ任せるたびに。
私は少しずつ、
託してきたんだ。
――――――――――
だからだったんだ。
帰る車の中で、
頭の中が静かなことも。
大きく深呼吸が、
できるようになったことも。
夕日を見て、
「あぁ、きれいだな。」
そんなふうに、
景色に心が動くことも。
「私は、これからどう生きていきたいんだろう。」
そんなことを考えながら帰る時間が、
少し好きになっていたことも。
全部、
ここにつながっていた。
あの日の迷いも、
今なら意味がわかる。
特別なことを、
してきたつもりはなかった。
ただ、
その日、その日に、
必要だと思ったことを、
積み重ねてきただけだった。
その積み重ねが、
いつの間にか、
誰かに託せるものになっていた。
だから今、
心の奥から、
清々しい気持ちが、
静かに沸いている。
【今回の(私の)教訓】
託すことは、 最後の日にすることではなく、 毎日の積み重ねの中にある。
