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【短編小説】未来へ続くノート

―一人の気づきは、誰かの希望になる―

七月中旬。

セント・ファルシオ女学院の図書室には、静かな時間が流れていた。

窓の外では、雨上がりの青空がゆっくり広がっている。

テーブルには一冊の分厚いノート。

表紙には、小さな文字で書かれていた。

「未来へ続くノート」

ページを開くと、この一か月、生徒たちが考え、学び、感じたことが一つひとつ記されていた。


最初のページを開いたのは朝霧ヒビキだった。

「災害が起きたあと、本当に困るのは日常の小さなこと。」

眼鏡。

入れ歯。

携帯トイレ。

ランタン。

「守るっていうのは、命だけじゃない。」

「その人らしい生活を守ることなんだ。」

ヒビキは静かにページを閉じた。


次に読んだのは花守マヨ

能登半島で舞うトキ。

復興を願う人たち。

避難所で歯科医師が笑顔を取り戻した高齢者。

熊と人が共に生きる森。

そこには、

自然も人も切り離せないという言葉が並んでいた。

「人を助けることと。」

「自然を守ること。」

「本当は同じなんだね。」


夢路シオリは、別のページをめくる。

映画。

文学。

詩。

歴史。

文化。

保存されてきたフィルム。

書き続けられてきた物語。

「文化って。」

「過去をしまう箱じゃない。」

「未来へ渡す橋なんだ。」

シオリは優しく微笑んだ。


稲穂マコトは資料のページを眺めていた。

再審。

証拠開示。

原発。

リニア。

公共事業。

数字の裏側にある人の暮らし。

「データだけじゃ見えないものがある。」

「でも。」

「データをきちんと見れば。」

「隠されたものも見えてくる。」


午後。

第1から第5クインテットまでの代表が図書室へ集まった。

喜里島ハル。

星見アオイ。

天音エリ。

街原ネコ。

朝霧ヒビキ。

自然と五人が円になって座る。


「六月から七月。」

ハルが口を開く。

「私たち、本当にいろんなことを学んだね。」

アオイが頷く。

「映画も。」

「歴史も。」

「芸術も。」

「政治も。」

「全部、人の暮らしにつながってた。」


ネコが窓の外を見る。

「一人で立つ勇気も。」

「誰かとつながる勇気も。」

「どっちも必要だった。」

エリが笑う。

「そして。」

「伝えること。」

「誰かが知らなかったことを。」

「次の人へ届けること。」


ヒビキはノートの最後のページを開いた。

そこは白紙だった。

「最後のページ。」

「誰が書く?」

みんなが顔を見合わせる。

ハルがペンを持った。

ゆっくり書き始める。


『未来は、誰かが用意してくれるものではない。』

アオイが続ける。

『暮らしを大切に思う人が、一日一日つくっていくもの。』

エリ。

『知ること。』

ネコ。

『対話すること。』

マヨ。

『助け合うこと。』

マコト。

『考え続けること。』

シオリ。

『歴史を忘れないこと。』

ユメ。

『誰にも居場所があること。』

ユキ。

『誰の尊厳も失われないこと。』

ヒビキ。

『違う声が重なって、未来の歌になること。』

最後にハルが締めくくった。

『それが、私たちの願い。』


夕暮れ。

図書室を出た少女たちは校庭へ向かった。

吹奏楽部の演奏。

運動部の掛け声。

図書館へ急ぐ生徒。

笑い合う友達。

何気ない放課後。

誰かの日常。

そのすべてが、

守りたい未来だった。


「戦わなくても。」

ネコがぽつりと言う。

「世界は少しずつ変えられるのかな。」

ハルは迷わず答えた。

「うん。」

「本を読むことも。」

「誰かの話を聞くことも。」

「困っている人に声をかけることも。」

「災害に備えることも。」

「差別を見過ごさないことも。」

「全部。」

「未来を変える一歩なんだ。」


夕日が校舎を赤く染める。

五つのクインテット、二十五人の少女たちは、それぞれ違う夢を持ち、違う個性を持ちながら、同じ時代を生きていた。

六月から七月にかけて出会った数え切れない出来事は、彼女たちに一つのことを教えてくれた。

社会は、遠い誰かが動かすものではない。

今日を生きる一人ひとりの小さな行動が、明日の社会を形づくる。

その思いを胸に、少女たちはまた新しい一日へ歩き出す。

物語は終わらない。

未来へ続くノートには、これからも新しいページが書き足されていくのだから。

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