【短編小説】「光は、誰かの隣で灯る」
―希望は、遠くにあるものではなく、自分たちの手の中に―
七月二十日。
夏休みに入ったセント・ファルシオ女学院。
放課後ではない静かな校舎には、文化祭の準備をする生徒たちの姿だけがあった。
音楽室では、天城ナホがマイクの調整をしている。
その隣では、天音エリがスピーカーをつなぎ、青峰ルナはペンライトの点灯確認をしていた。
「これで全部そろったかな?」
ルナが笑う。
「うん。」
エリもうなずく。
「今年の文化祭ライブは、みんなで歌える曲にしたいんだ。」
そこへ、朝霧ヒビキと喜里島ハルが入ってきた。
「準備、順調?」
ハルが尋ねる。
ナホは譜面を見せながら答えた。
「歌の練習は順調だけど……。」
少し言葉を止める。
「実は昨日、駅前でライブのチラシを配っていたら、高校生くらいの子に話しかけられたの。」
「『こういうイベントに行ってみたいけど、一人だと少し怖い』って。」
ヒビキが静かにうなずく。
「その気持ち、分かる。」
「私も一年生の頃は、人前で歌うなんて考えられなかった。」
エリは窓の外を見つめた。
「でも、不思議なんだよね。」
「最初の一歩を踏み出す人って、いつも特別に強い人じゃない。」
「『少し話を聞いてみようかな』とか。」
「『一度だけ行ってみようかな』とか。」
「そんな小さなきっかけなんだ。」
午後。
文化祭実行委員会との合同打ち合わせが始まった。
テーマは、
『みんなでつくる文化祭』。
一年生から三年生まで、たくさんの意見が飛び交う。
「展示を増やしたい!」
「ダンスもやりたい!」
「地域の人にも来てもらえたらいいな。」
意見はさまざまだった。
一つにまとまるまで時間はかかったが、誰も途中で席を立たなかった。
最後には、みんなが納得できる形にまとまっていた。
帰り道。
五人は商店街を歩いていた。
駅前広場では、小さな音楽イベントが開かれている。
アコースティックギターを弾く青年。
手拍子をする子どもたち。
仕事帰りの人たちも立ち止まって聴いていた。
ナホが言う。
「すごい演奏じゃなくても。」
「誰かが歌い始めると。」
「自然に人が集まるんだね。」
ルナは笑顔で答える。
「歌も光も同じ。」
「一つだけだと小さいけど。」
「集まると景色が変わる。」
その日の夕方。
学校の屋上で、文化祭ライブのリハーサルが始まった。
まだ観客はいない。
ステージも完成していない。
それでも五人は並んで立った。
エリがマイクを持つ。
「今日は誰かに聴かせるためじゃなくて。」
「私たち自身のために歌おう。」
静かな前奏が流れる。
ヒビキが歌い始める。
ナホが重ねる。
ルナがハーモニーを添え、
ハルが手拍子を打ち、
最後にエリが優しく声を重ねた。
夕焼けの空へ歌声が広がっていく。
歌い終わると、しばらく誰も話さなかった。
校庭では部活動を終えた生徒たちが帰っていく。
その中の一年生が、屋上を見上げて手を振った。
「先輩ー! すてきでした!」
五人も笑顔で手を振り返す。
ナホが小さく笑う。
「聴いてくれる人がいた。」
エリもうなずいた。
「それだけで十分うれしい。」
帰る前、ルナがバッグから五本のペンライトを取り出した。
赤。
青。
緑。
黄色。
紫。
一本ずつ手渡していく。
「文化祭の日まで預かって。」
「え?」
ハルが首をかしげる。
ルナは少し照れながら言った。
「これは応援の光。」
「誰かを照らすだけじゃない。」
「自分も、『一人じゃない』って思い出すための光だから。」
五人はペンライトを点けてみた。
夕暮れの屋上に、小さな五つの光が浮かぶ。
どれも色は違う。
でも、並ぶと温かな一つの景色になった。
ハルはその光を見つめながら静かに言った。
「未来って。」
「誰か一人が照らすものじゃないんだね。」
ヒビキが続ける。
「みんなが、それぞれの光を持っている。」
ナホは笑顔でうなずく。
「だから、一人では小さくても。」
エリが言葉をつなぐ。
「重なれば、暗い夜でも進む道が見える。」
ルナは夜空を見上げた。
「希望って。」
「待っていたら現れるものじゃない。」
「誰かと手を取り合って、自分たちで灯していくものなんだ。」
夏の夜風が校舎を吹き抜ける。
五つのペンライトは、静かに揺れながら、それぞれの色を放っていた。
その光は決して強くはない。
けれど、誰かの隣にあることで勇気を与え、誰かの不安を和らげ、次の一歩を踏み出す力になる。
詩奏少女隊の少女たちは、その小さな光を胸に抱きながら歩き続ける。
一人ひとりの願いは違っていても、互いを尊重し、支え合い、ともに未来をつくろうとする思いは同じだった。
そして、その無数の小さな光は、やがて夜空を照らす星座のように結ばれ、新しい希望の景色を描いていくのだった。
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