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『ヒロイン失格 天女編87』 完成、最悪のヒーローここに爆誕!

 どうして、いるのだろう?
 どうして、ここにいるのだろう?
 此処は、キミのいる場所でじゃあないはずだ。

 赤い夕暮れは、僕が一人で泣くための場所なんだ。キミにはもっと明るい場所があるだろう? こんな寂しい場所にいなくたっていいじゃないか?

トクン、トクン、トクン。

 徐々に大きくなってゆく心音が指先にまで伝わる。体内を血液が激しく循環し始める。

 キミは今日、慎二に会ったんだろ?
 慎二の告白を受けたんだろ?
 赤い包み紙を渡したんだろ?

 慎二と一緒に帰宅したんじゃないのか?
 想いは結ばれたんじゃないのか?
 なんでこんなところにいるんだよ?
 どうして僕を呼び止めたりするんだよ?
 胸の中でチリっと火花が散った。

「んだよ……お前、まだ帰ってなかったのかよ」
「……え?」

 驚き戸惑うキミの顔。
 しまった。
 違うっ。
 こんなこと言うつもりじゃなかったのに……。

 イライラが募る。
 ひどく居心地が悪い。
 頭のなかでガチガチと硬い石のぶつかり合う音がする。

「どけよ、邪魔」

 心に反して突き放すような言葉が再び口から出てしまう。

スッ

 キミの顔つきが変わる。その様子を見届けながら、何故か僕の心は静かに高揚していく。

「そ、そんな言い方しなくてもいいじゃない! 私、京くんに用事があったから残ってたのに!」

 学級委員長が問題児を糾弾するかのような言い方だと思った。頭の中のガチガチがだんだん激しくなってゆく。

 蓮華、オマエ、そういうつもりかよ……。慎二と上手くいって気分がいいのかよ……。あの手紙の作者が実は僕だと聞いて、僕のことを揶揄いにでも来たのか? そうなんだろ? バカにしに来たんだろ? いいよ、そっちがその気ならコッチだって容赦しない。

「はぁ? 僕はお前に用事なんかないよ」

 これ以上僕に近づくなという意思表示をぶつける。僕の心は何故か止まらず、徐々に高揚していく。クラスの中心にいるキミに拒絶の意思を示すことが少なからず気持ちいい。

「っ! なんでそんな言い方するかなぁ」

 キミの発する言葉の韻に苛立ちが含まれる。徐々に攻撃性が増してゆく。いいさ。

「なんでって何だよ? そっちが勝手に待ってただけだろっ」

 当たり前の事実を突きつけてやる。僕を待っていたのはキミだ。僕に何かしらの用事があったことは明らかだ。それを知ってなお突き放す。ああ、心地いい。

「勝手にって、勝手に待ってたら悪いのっ? 用事があって待ってたら悪いのっ? 私が京くんに話しかけたら何か悪いコトでもあるのっ?」

 ねぇよ、そんなもん。
 何でそんな突っかかってくんだよ?
 ほっといてくれりゃいいだろ。

「悪い悪いって何だよっオマエっ!」

ガチガチ、ガチガチ

 頭の中で石がぶつかり合う音が鳴り止まない。
 くそ!
 鬱陶しい!

「そっそんなっ……」

 キミの瞳が大きく見開かれた。
 その中に怒りの色が見て取れる。

 何を怒ってんだ? コイツは。まだ全然怒るトコじゃないだろう? バカか? コイツ。こんな程度で怒るのは慣れてない証拠だ。今までバカにされたことがないんだろ? イジメられたこともないんだろ? 自分が世界の中心だとでも思っているんだろ?

クソっ!

 腹の底からムカムカしてくる!

「なによっっ! もっと普通に『何?』って聞いてくれてもいいでしょっ!」

 普通に?
「何って」聞けって?
 はぁ?
 バカか?

 コイツは、自分の問いかけには誰もが素直に応じてくれるとでも思ってんのか?

 あぁ、ガチガチガチガチさぁっ、さっきからウルセェんだよっっ! なんでそんなに僕にくってかかる? なんでそんなに怒ってるんだ?!

 キミのひときわ大きく、熱を帯て僅かに潤んだ瞳を睨み付ける。それからキミの口元がニィとわずかに吊り上がる。

「それとも何~? 京くん、アレなのぉ~」

 キミは厭らしい笑みを浮かべて、僕の全身を値踏みするかのように上から下まで流し見る。それから、汚いものでも見るかのような目つきで、次の言葉を吐き出した。

「バレンタインなのに誰からもチョコ貰えなかったのぉ?」

 ……
 そうか……そうかよ。
 そういうことかよ。
 わかったよ。

 徐々に全身が熱くなる。血液がたぎってゆく。

 キミは知っているんだな。僕が、キミのことを好きだということを。

 当たり前か、クラスの男子全員がキミのことを好きなんだ。僕がその一人であると思われても不思議じゃない。キミはそのことを知っていて、今、こうして、キミの気持ちに沿わない僕を笑いものにしているんだ。

 ハハ、そりゃそうだ。月に住む天女様にしてみれば、僕なんか踏み殺されても見えやしない。

 僕の目頭が急速に熱くなってゆく。先ほどからガチガチと五月蝿かった音は、今、明確な怒りとなって僕の脳幹を支配した。

「それでなんかふて腐れて怒ってんのぉ?」

 そうだよ。

 だからふて腐れてんだよ。悪かったな。

「京くん、格好わる~い。なんかぁ、子供みたぁい、あははは」

 ……
 やめろよ、蓮華。
 ……

「アレだよね~そんなんだから、リレーの選手にも選ばれないしぃ、先生にも怒られるしぃ、友達もあんまいないんでしょぅ?」

 ……そうだよ。だから選ばれないんだよ、僕は。クラスリレーの選手にも、学級委員にも、キミに釣り合う男子にも。

「ほぉ~んと、格好悪い自分を棚にあげて人を責めるなんてサイっテー」

 ああ、本当に僕は最低だ。そんなこと、いまさら言わなくてもいいだろ。毎日、クラスの皆に散々言われているのをキミだって知っているだろう? ハハハ。

 最低の僕は、最低だから、キミの言葉が理解できない。そんな綺麗なカオして、当たり前のコトをいうから、理解できない。

 やめろよ。そんな無理して天女の言葉を使うなよ。キミだって、芋虫の仲間なんだろ? 本当は空を飛べない幼虫なんだろ?


 知ってるぞ。


 僕は知ってるぞ。キミの秘密を知っているんだぞ!

「知ってる~? 京くん。クラスの女子が、バレンタインでチョコ渡したく“ない”男子の一番が京くん、キミなんだよ? 皆言ってるよぉ。天川京一って、チビでハニワみたいな顔してるって! アハハっ! ハニワだって~ダッサ。アハハ」

 ……。

 ハハハ。ホント、ダサ。

 ハニワかぁ……。

 もっと格好いい男に生まれたかったなぁ。もっと女の子にもてる男に生まれたかったなぁ。

「モテナイね? キミ」

ぷつん

 頭の奥の奥にある本能の制御線が切れるような音がした。


ドカンっっっ!!!!!!!!!!!


 僕の利き腕は、僕の意思の元、寸分の違いなく、キミの釣りあがった口元を打ち抜いた。

ハハハ……

 やったよ、とうとう。これで僕はお母さんとの約束を破った。


「京一、強い男になりなさい」


 強い男は、けして女の子を殴らない。僕はそう思っている。でもキミを殴った。拳にキミの唾液が付着した。キミの前歯にぶつかったのだろう、皮が破れ、少しだけヒリヒリとする。

 僕は涙を流さず泣くコツを知っている。

 蓮華の口元って柔らかいんだな。どこか遠くから僕を眺める僕の意識が、これまで無理やり狭い部屋に押し込め閉じ込めていた僕の誇りを握りつぶした。

「しねっブスッ! オマエが寄ると“おしっこ”クセェんだよっ! いつも威張ってるけど知ってんだぞっ! オマエ寝るときまぁだオムツいるんだってなっ? おばちゃんが買ってるの見たモンね! 汚ったねぇー、パンツぬげよっ、黄色い染みがついてんだろ、ブスっ!」

 止まらない。
 止めるつもりもない。
 僕はキミを傷つける言葉を知っている。

「……え? なに……それ」

 キミの時間がピタリと止まる。小五月蝿い音がようやく止まる。ああ静かになった。僕の世界だ。

ストン。

 キミの右手から手提げ袋が抜け落ちた。見覚えのある袋だ。慎二に渡した赤い包み紙の入っていた袋だ。その袋を見た瞬間、僕の中で、不安と焦燥と怒りと苛立ちがごちゃ混ぜになって、卑屈な心に麻薬のような恍惚が混じり込んだ。

「お前、知らねーのかっ? 普通は寝るときも学校行くときも同じパンツ履くンだぞっ!」

 ハハッ!
 そうだっ。
 蓮華、オマエはオシッコ臭いんだっ!

「知ってるか? クラスの女子が時々お前のそばに行くとオシッコ臭いって言ってんの」

 蓮華、オマエはまだオシッコが我慢できない子供なんだっ! オムツの必用なガキなんだっ! 何を僕の前で威張っているんだっ! 芋虫がっ! あぁ気持ちいい。あぁ本当に気持ちいい。

「やっぱ学校にもオムツ履いてきたほうがいいんじゃねーのクラス委員長さんはさぁ」

 そうだ、おまえはオムツをはいて学校に来い。じゃないと臭いんだ。オマエの椅子に染み付いたオシッコの臭いが臭いんだ。

「だいたい女のクセに背がデケェんだよっ! オマエほんとは男なんだろっ? しょんべん男女! 気持ち悪ぃんだよっ」

ダンっっっっっ!

 キミは唇を強く強く血が出るほどに噛み締めたまま、下を向いて走って去った。キミの背中が遠くに消える。これが最後の別れだ。もう再びは笑顔で会話することもない。これが最後。キミに本当の気持ちを伝える最後のときだ。

「二度と話しかけんなっ! ブスッ!!」

 最後の言葉をキミの背中に突き刺した。足元に乱れ崩された 無駄に装飾された赤い箱。今日は何の日だったろう。

 雪解けの歩道 乾いた風 赤い夕暮れ僕は泣いていたろうか、それとも薄ら笑いだったか。ヒーローの仮面破れ 怯えた己が顔を出す。

 僕は次の日から市内にあるバスケットボールの少年チームに入部した。慎二と二人で。これが慎二に提示した僕の条件だった。

キミは笑わなくなった。キミの翼を奪ったものは キミを護るべき筈の僕。

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「ヒーロー、京一のステータス」

1、覚醒までに消費した時間 
          :9か月間を消費
2,ヒロインの残り時間 
      :5.5年マイナス9か月間

3,ヒロイン?それとも母親?:
(母)★★★★★★★★★★★0(蓮華)

4,卑屈さ :レベルMAX10へを上昇
5,嫉妬心 :レベルMAX10へ上昇

6,新たに取得したスキル 
        :ヒロインを殴れる心

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↓ 連載の格納先

↓ 大元


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