『第4幕 自律編17』 恐怖!カツアゲ現場(後半)
中学生1「あっっ、天川君っ!」
京一「うぇぇっ?!」
凄い声が出てしまう。あろうことか、小突かれていた中学生のうちの一人が突然京一の名前を叫んだのだ。
ドクン! ドクン! ドクン!
心臓がドクドクと激しく脈打つ。振り返れば、二人組が縋るような表情でこちらを見つめているではないか。
京一「げっ……げぇっ……」
再び変な声が出る。よくよく見たら、京一と同じ中学校、しかも同級生だ。
京一「嘘……だろ?」
そう呟いてはみるものの、目の前にはただ事実が横たわる。馴染みはないが、二人とも学校で見かけたことがある。たしか卓球部だったはずだ。バスケにはほど遠い運動部である。
なんで卓球部の二人がこんなヤバい場所にいて、こんなことになっているのか? 二人とも既に泣いているじゃないか。未だ現在進行形で涙がポロポロ出ている。視力の良い京一は、二人の細部まで見えてしまう。嫌なタイミングに来てしまった。
京一「……」
金髪の男「あぁん? 誰だテメェ」
目つきの悪い金髪が京一を睨みつけてくる。さらに金髪の両隣に立つ仲間二人も同様だ。京一はダッシュで逃げ出そうと思った。卓球部の二人には申し訳ないが今なら逃げ切れる。
金髪の友達1「あっ! 俺、あいつ知ってるぜ」
京一「いぃっ?!」
再び知りたくない事実を告げられる。自分は彼らを知らないが、彼らは何故か自分のことを知っている。非対称な情報格差である。
嫌だ。嫌すぎる。
金髪の男「あぁん? 誰だよテメェ、芳の知り合いか?」
仲間の一人は“芳”という名前なのだろう。彼(芳)は頭をおしゃれ坊主に刈りこんでいる。後頭部に直接タトゥを彫り込んでおり、鋭角的なデザインが施されていた。
危険度マックスだ。
金髪の友達2「伸悦、あいつ芳の弟を負かしたヤツだぜ」
金髪「あぁ? 芳の弟を負かしただとぉ?」
金髪は“伸悦”というらしい。それが名字なのか、名前なのかは分からない。
ジャリッ、ジャリッ
金属の擦れ合う音をさせながら男が京一に向かって来る。
「いやいや、全く身に覚えがありません!」
京一はそう叫びたかったが、口がパクパクするだけで言葉にならなかった。
怖い。足がすくんで、声が出せない。
京一はひたすら首をぶんぶん横に振る。身に覚えがないことを全力で伝えようとした。すると程なくして、誤解が解ける。
金髪の友達2「たしかこの前、バスケの県大会で、アイツがいる幹中にボコられただろ? 芳の弟」
3人の中で最も体格の良い男がヘラヘラ笑う。張り出した胸筋が着ているシャツをパンパンに膨れあがらせている。何かしらの格闘技をやっていそうだ。殴られたら骨折程度じゃ済みそうにない……。
芳「あ、そうそう思い出したぜ。ダブルスコアでやられたってよ。アイツすっげー泣いてたな。幹中の天川って奴に手も足も出なかったって、ハハハ」
伸悦「へえ~芳の弟がまったく相手にならなかったのか? おもしれーじゃん。おいテメェ天川つったか? ちょっとこっちに来いよ」
嫌です。
そう言いたいのに口が思うように動かない。
京一「うご……ゴホッ! ゴホッ! ゴホっ!」
うっかり唾が気道に入り、むせ込んでしまう。暫くその場で咳き込む。咳が止まれば、「滅相も無い」と言って逃げるつもりだ。
とてもじゃないが、フェンスの中に入ろうとは思えない。だって入ったら二度と出られない。きっと死ぬまで。
同級生1「天川君っっっ! 待って! 助けてぇぇぇっっっ!」
卓球部の一人が大声で叫ぶ。
京一「……」
この場所から逃げ出そうとした京一の足がピタリと止まる。正義感からではない。同級生のキンキンした悲鳴にびっくりしたのだ。
伸悦「アレ~? 天川、おまえバッシュ持ってんじゃん? その気じゃねーかよ。何だおまえ、俺らに喧嘩売るつもりでここに来たのか? おもしれーじゃん。来いよ。そのケンカ買ってやるよ」
金髪がドスの聞いた声で凄む。

──次回、
奪われて痛くねぇモノを賭けるな
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