見出し画像

『第4幕 自律編13』 強くなりたきゃストリートへ出ろ!(後半)

コーチ「天川、お前準決勝のある月曜は大会会場に来なくていい」
京一「え!」

 京一はびっくりした。


ストリート バスケ


ザワザワ……。

 その他のメンバーにも動揺が広がる。

 まさか自分が不要? 京一は突然不安になった。

コーチ「ばーか、心配すんな。お前はうちのエースだ。それに変わりはない。でな」

ニヤリ。

 いたずらっ子のような目だ。もちろんコーチのものである。

コーチ「お前、駅前広場のクレーコートで、若い連中が夕方にバスケの3 on 3やってるの知ってるよな?」

京一「え? はい……」

 京一は駅前広場を思い浮かべた。確かに半面のバスケコートがある。セメントの上にペイントされたクレーコートだ。

 そこで若い奴らが3 on 3のゲームをやっている。遊びのレベルだ。それがどうしたというのだろう? 京一は不思議な気持ちでコーチの次の言葉を待った。

コーチ「お前、準決勝当日、試合の時間帯はそこに行ってこい。そしてその辺の連中のチームに飛び入りで加えてもらって、ひと勝負して来い」

京一「は、はい?」

 返事は「ハイ」のみの従順だった京一が、思わず聞き返した。京一だけじゃない。慎二も驚く。

慎二「えーっ! マジっすかコーチ?」
コーチ「ああ、マジよ」

慎二「でも、あそこ……、あのコートで試合やってる連中、ちょっとガラ悪いっすよね?」
コーチ「ん? それがどうかしたか?」

慎二「は、はぁ」

 コーチの意図を測りかねる表情で、慎二は視線を京一へとスライドさせる。不安そうな顔を覗き込んでいるのだ。

京一「う……え、いきなり、飛び込みっすか?」

 京一は口をもごもごさせながら、狼狽える。コーチの指示には元気よく「ハイ」と返事していたが、予想外の展開に、思わず素の自分が出てしまったのだ。

 京一だって、あの辺でガラの悪い若い連中が3 on 3で遊んでいることは知っている。たまに試合中の少年同士で喧嘩があったりもする。警察が踏み込んだこともある。

 オープンな環境でバスケができること自体は良いし、少なからずあの場所でプレーしてみたい気持ちもあった。だがあの場所へ行ったことは一度も無い。踏み込めばカツアゲされて終わるだけだからだ。駅前コートにはそういう連中がたむろしている。

京一「……」

 そこに一人で行けと? しかも飛び込みで? 何をどうすれば入り込めるのか?

京一「あ、あのコーチ、どうやればその3 on 3に混じっていけるんでしょうか?」

 自信無さげに尋ねる。あるいはコーチの知り合いがいて、コートに行けば仲間に加えてもらえるとか、段取りが組まれていることを少しだけ期待した。

 当ては外れた。

コーチ「まあ、その辺はその場に実際に行って様子を見ながら臨機応変に対応して、うまく入り込め」

京一「え……」

 簡単に言うが、これはとても難しい課題である。思春期の中学生が、ガラの悪い連中がたむろする場所に一人で乗り込み、ストリートバスケ(3on3)で勝負を挑む。

 きっとそこは彼らの縄張りであろう。捉えようによっては、殴り込みと思われてしまうかもしれない。京一は大層困った顔をする。

コーチ「オイ天川、そんな顔するな。これはコーチ命令だぞ。そこで3 on 3を戦ってこい。ストリートファイトだ。勝ってこいとは言ってない。ただゲームに入って勝負をしてこい。勝敗は問わん」

 コーチはとにかく、3 on 3のゲームに入り込み戦ってこい、と言っているようだ。段取りも手筈も一切整っていない。まるで思い付きのような指示だ。

 京一はとても困ったが、コーチの指示である。何より自分の実力を高く買ってくれているコーチだ。従わない選択肢はない。どうすればいいかはまったく思い浮かばないのだけれど……。

京一「ハイ! コーチ。準決勝の日は、大会会場にはいかず、駅前に行ってきます。そして、3 on 3に何とか入り込んで勝負してきます」

 きっぱりと宣言した。

高瀬、寺田「……すげぇ天川」

 二人の声が小さくハモった。

慎二「がんばれ、京一」

 コーチには聞こえないような小さな声で慎二は京一を応援した。

 なぜコーチがこんな無茶ぶりをしてきたのか、京一はまったく理解できなかった。でも、やるしかない。そもそも大切な準決勝を欠場してまで、3 on 3をやってこいと指示したのだ。ただ事ではないはずだ。

 ならば何とかするしかない。覚悟を決めよう。そう思った。

ギュッ……。

 京一の体は強張った。

 不自然に力が入る。今なら100%シュートを外すだろう。

 コーチはこの話をここまでで切り上げた。あとは京一次第といったところだ。次に準決勝を戦う5人とその他の部員に向けて、細かく戦術の説明をしていった。京一もその場に残り、コーチの話に耳を傾けた。しかし、駅前コートのことを繰り返し想像してしまい、話はまったく頭に入ってこなかった。

 この日、京一は終始練習に集中できなかった。やる気がないわけではなく、ただ月曜日のことが気になって仕方がなかった。コーチはそんな京一の様子を特に咎めることはなかった。


──次回、 


↓ 連載の格納先

↓ 第3幕の格納先

↓ 第2幕の格納先

↓ 第1幕の格納先

↓ 大元



いいなと思ったら応援しよう!