【歯科開業サバイバルシリーズ:第1回】融資1億円の甘い罠と、勤務医時代の「売上の錯覚」
こんにちは。歯科衛生士の杉元信代です。
このたび、メンバーシップ限定の新しい連載コンテンツとして『歯科開業・経営サバイバルシリーズ』をスタートします。
(ほかのコンテンツの合間に更新していきますね)
これから開業を考えているドクターはもちろん、すでに開業しているものの「なぜか毎月資金繰りが苦しい」「スタッフマネジメントの沼から抜け出せない」と胃を痛めている院長先生にとっても、今すぐ自院の経営を総点検するための教科書となる内容です。
── なぜ、私がこのシリーズを書こうと思ったのか。
私はこれまで数多くの「開業の現場」と、その後に生まれる「人間関係と数字のアレコレ」を見てきました。
その中で、あまりにも多くのドクターが、開業コンサルタントやディーラーが作った「バラ色の事業計画書」を真に受け、身の丈に合わないハコ(設備)を作り、思うように人材を確保できず、なんならオープン直後にスタッフが全員辞め、数千万の借金を抱えて途方に暮れる姿を見てきました。
悲しいかな、世の中にある「開業ノウハウ本」や「セミナー」は、成功事例という名の綺麗事しか語りません。
なぜなら、彼らは先生方に「開業してもらい、機材を買ってもらうこと」がビジネスだからです。
でも、私のスタンスは違います。
「開業はゴールではなく、過酷な経営のスタート」だと思っているからです。
最初に甘い幻想をパキッとへし折っておかないと、先生の人生が破滅します。だからこそ、耳に痛い「冷徹な現実」と、そこから生き残るための「残酷で温かい仕組み」を、包み隠さずすべてここに集約することに決めました。
記念すべき第1回は、すべてのボタンの掛け違いの始まりである「お金と売上の錯覚」についてです。
1. 【親の時代の常識はゴミ箱へ】激減した「バリバリ稼げる年数」のリアル
本題に入る前に、まず先生方の脳内にある「昭和・平成初期の開業医のイメージ」を完全に破壊させてください。
昔は、コツコツと真面目に真摯な態度で仕事をしていれば、それだけで自然と患者が集まり、いい家が買え、外車に乗れ、子供を何不自由なくまた歯学部に入れることができました。それが当たり前の時代があったのは事実です。
もし先生の親御さんが歯科医師であれば、悪気なくこう言うでしょう。
「若いうちに苦労してでも、早く自分の城を持ちなさい」と。
残念ながら、もう時代は変わってしまっています。
今の歯科開業は、昔と比べて必要なお金(初期投資額)が数倍から十倍近くにまで膨れ上がっています。
ユニット、CT、内装、そして採用コスト……すべてが異次元のインフレを起こしています。
それに伴って、開業する年齢も昔と比べて大幅に上がっています。
昔は20代後半で開業する先生もザラにいましたし、遅くとも30代前半にはみんな自分の医院を持っていました。
しかし現代は、莫大な初期投資に対する自己資金の壁もあり、35歳を過ぎ、40代になってからようやく開業に踏み切るドクターがどんどん増えています。
これが何を意味するか分かりますか?
「院長として、バリバリ稼いで借金を返し、資産を形成できる現役の年数」が、昔のドクターと比べて圧倒的に短くなっているということです。
昔なら30歳で開業して65歳まで35年間かけてゆっくり返済し、資産を作れました。しかし、今40歳で開業したら、残された時間は20〜25年しかありません。その短いスパンの中で、昔の何倍もの巨額の借金を背負い、高確率で発生するスタッフ離職のヘドロと戦いながら、確実に黒字化させなければならない。
今の開業は、昔のような「コツコツやれば報われるお仕事」ではありません。一歩間違えれば一瞬で人生が詰む、極めてシビアな「高リスク・短期決戦のビジネス」なのです。
2. 銀行とディーラーの「カモ」になるな
そんな焦りと生存本能を抱えたドクターの元へ、地元の銀行の担当者が、ニコニコしながら「先生なら1億円でも2億円でも融資しますよ!」とすり寄ってきます。
繰り返し言いますが、彼らが優しいのは先生の技術や人柄を認めたからではありません。「歯科医師免許」という、自己破産しても一生剥がれない最強のカタ(担保)に笑顔で群がっているだけです。
同じように、開業案件は材料・機械ディーラーにとっても最大の「ドル箱」です。彼らは最新のユニット、マイクロスコープ、セレックを「今やこれらは必須ですよ」と勧めてきます。彼らの仕事は「物を売ること」であって、先生の医院が3年後にキャッシュショートして潰れようが、知ったことではないのです。
彼らが持ってくるバラ色のシミュレーションを鵜呑みにしてはいけません。あれは「優秀なスタッフが最初から確保できていて、オペレーションが完璧に回っている」という、現代の採用市場ではあり得ない前提の上に描かれた、ただの絵に描いた餅です。
3. 開業を舐めるな:ギリギリまで勤務先を辞めないドクターの末路
自己資金が少ないドクターにありがちなのが、「開業直前まで勤務医として給与をもらっておこう」というセコい計算です。
先述した通り、今の開業は短期決戦の総力戦です。内装のチェック、スタッフの面接、マニュアル作成、各種申請手続き、そして何よりスタッフの教育……やるべきことは山積みなのに、準備期間の数ヶ月をケチる。
「まぁ、オープンしてからやりながら覚えればいいや」という、その開業を舐め腐ったマインドこそが、オープン初日の大パニックと、その後に続くスタッフ全員離職という大事件を引き寄せるのです。
4. 借金1億円で脳がバグる「謎の車買い替え現象」
お金を借りたあと、多くのドクターの脳のストッパーが外れます。それは「これから15年かけて、血を吐きながら返していく借金」であるにもかかわらず、自分の実力だと錯覚するのです。
この院長の自己満足の極みとして現れるのが、「なぜか開業直前に高級車を買い替える」という意味不明な行動です。
「これから院長になるんだから、ハクをつけないと」
「節税になるから」とディーラーや税理士にそそくされ、謎のローンをさらに増やす。
その手元の数百万円の現金が、わずか3ヶ月後に自分の首を絞めることになるとも知らずに、完全に金銭感覚が麻痺しているのです。
✂️ ここからは、『歯科医院の経営と現場をつなぐ研究室』限定記事です✂️
銀行とディーラーの「カモリスト」から脱出するための冷徹な現実を話します。 金利2.0%のリアルな返済額、「内覧会バブル」で現場が即日崩壊するメカニズム、そして手元に3ヶ月分の現金を残さなければ黒字倒産するカラクリを、具体的な数字を交えて解説します。綺麗事は一切言いませんので、覚悟のある先生だけ、この先へ進んでください。
「うちも大変だったんだよ~でも今は安定しているよ~」という先生方は、コーヒーでも片手にごゆるりとどうぞ。
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