まさかこんなに跡形もなく消されてしまうなんて〜私は偽装工作のプロ〜
汚れた存在よ、震え上がるがいい。
私はお前の存在を許さない。
いかにしぶとく抵抗してもムダだ。
どれほど広がり、どれほどしがみついても、
すべては無になる。
どうしてだ。
いつも通りひっそりしがみついていただけなのに。いきなりまさか跡形もなく消されてしまうなんて。
こんなことが起こるなんて思ってもみなかった。
私には一つ特技がある。混色が得意なのだ。
なにか一つこの見本とおりに色を作りなさい、
と見本と赤、黄、青のきれいな三原色と
白黒の絵の具を渡されたら見本通りの色が作れる。
よほど蛍光色とかなら難しいかもしれないが。
昔は自分が簡単にできるから、
人はみんなできるものなのだろうと思っていた。
実は誰でもではないらしい。
意外と珍しいみたいだ。
美術教師になって
「先生、この色ができません!」
と言われたらちょっと絵の具を足して混ぜてみる。
できる。
「先生すごい!」
「フッフッフ。私は偽装工作のプロだからな!」
見ればもう少し何色を足せば目指す色になるか
分かるのだ。
さて、美術の授業以外でその才能が役立つ瞬間が
ごく稀にある。

それはDIYの時だ。自宅のドアの持ち手がだんだん汚くなってくる。拭いてもきれいにならないし、アルコールを使ったら塗料自体がはがれてくる。
では、同じ色を作って塗ればいい。
金色の塗料と同じ色にするには金色、銀色、銅色とバランスをとるために少しだけ緑を入れた。

金、銀、銅と緑を混ぜて作る。



ものすごく稀にしか使わないし、
だからなんだと言われそうな小さな特技。
でも、こういうところが汚いよりは見た目が綺麗なほうがいい。完璧とはいえない塗装だがちょっと気分がいい。
汚れよ、お前の存在を跡形もなく消してやったぜ。
しぶとかったが私の偽装工作の前には
もうなんの痕跡も残っていない。
もし、また汚れが化けて出ても
必ず塗りつぶしてやる。
ちくしょう、
ひっそりとドアの持ち手に
しがみついていただけなのに。
もうどこからも見えない存在になってしまった。
まさかこんなに跡形もなく塗りつぶされるとは…。
まったく犯罪性はないが、
偽装工作に成功して満足である。
