さあ、ゴッホといっしょに出かけよう!『ゴッホとひまわり』
『ゴッホとひまわり』はオランダの画家フィンセント・ファン・ゴッホがアルルの黄色い家に住みながら絵を描いていた頃のおはなしです。
オランダのグラフィックノベル作家バーバラ・ストックが、同じくゴッホを題材にしたグラフィックノベル『ゴッホ最後の3年』(邦訳・花伝社)に続いて制作した、自身はじめての絵本です。この2冊はどちらもアムステルダムのゴッホ美術館と共同で制作されました。

グラフィックノベル『ゴッホ最後の3年』は、わたしの学生時代からの夢だった翻訳デビュー作です。そして今回、絵本『ゴッホとひまわり』で、あこがれだった絵本の翻訳をはじめて担当させていただきました。2度も夢を叶えてくださった作者のバーバラさんと、日本の版元になってくださった月と文社の藤川明日香さんには心から感謝しています。
絵本の翻訳にあこがれていたと書きましたが、絵本の翻訳については、あこがれの気持ちと同じぐらい恐怖心も持っていました。わたしがオランダ語の翻訳者になりたいと思い始めた学生時代、日本ではマイナーなオランダ文学の中でも先輩翻訳者のみなさんのご尽力によって、当時から絵本や児童書の紹介はわりと進んでいました。先輩方が苦労して道を切り開いてきたところに、自分が入り込んでいく勇気があるか?ということが常に頭にありましたし、絵本の翻訳は訳者のセンスがものすごく問われる分野であって、自分にそのセンスがあるか?ということもずっと考えていました。
しかし、ここにきて、わたしの翻訳者デビューの夢を叶えてくれたバーバラさんがはじめての絵本を出したのです。出版からしばらくたってオランダの版元に問い合わせたら版権も空いているとのこと。
これは日本に紹介しないわけにはいかないのでは…?そして『ゴッホ最後の3年』の訳者をやらせていただいた、わたしの番なのか…?
漠然と絵本の翻訳をやってみたかった学生時代とちがって、子どもが生まれてから何年も毎日ずっと読み聞かせをしてきた今なら、自分の中にも絵本の文体が多少育っているのではないか。オランダの版元が大手じゃないところもなんだか親近感。
といういくつもの理由で自分を納得させた後は、意を決して日本の出版社さんを探し回りました。そうすると、ありがたいことに、月と文社さんが手を挙げてくださったのです。しかも、月と文社さんにとってはじめての翻訳もの。この数年の円安で、とうぶん翻訳ものはやらないとおっしゃる出版社さんも多い中で、『ゴッホとひまわり』を気に入って、あえて飛び込んでくださいました。外国の出版社との版権交渉はスムーズにいかないことも多いのですが、今回も「あれ、最初に対応してくっださった方と言うことが違うんだけど!?」みたいなことが起き、契約締結までたどり着けるのか、せっかく作品を気に入ってくださって、はじめて翻訳ものに挑戦してくださる月と文社さんにご迷惑をかけるのではないかとヤキモキしました。
はじめて翻訳出版を手掛けていただくにあたって、わたしのほうでも翻訳出版の仕組みを改めて勉強しました。ちょうどクラウドファンディングでお世話になっていたサウザンコミックスの原正人さんにはずいぶんと色々なことを教えていただいて、これはもうコンサル料をお支払いしなければならないのではないかと思うほど、惜しみなくお知恵を分けてくださいました。

さて、肝心の絵本の内容ですが、ゴッホがアルルの黄色い家から絵のテーマを探しに散歩にでかけるおはなしです。絵本の表紙にも描かれている有名なゴッホのひまわりの絵。よく見ると、枯れて花びらが落ちてしまったり、くたびれて下を向いているひまわりが混ざっています。どうしてゴッホはそんなひまわりを描いたのでしょうか。なんとなく見たことのある有名なゴッホの絵に込められた想い、ゴッホのものの見方を、ゴッホといっしょに散歩しながら同じ目線で体験することのできる作品になっています。おはなしの最後に、小さな読者にむけたあとがきも書かせていただきました。わたしはミッフィーが好きで(月と文社さんの『こじらせ男子とお茶をする』ふうに言えば、ミッフィー好きこじらせ女子)自然と人生の方向が決まったので、この絵本を読んだ子どもたちが、ゴッホやバーバラさん、オランダ、絵など好きなものを見つけるきっかけになってくれたらうれしいなあ、そうしたら、わたしをオランダに導いてくれたブルーナさんへの恩返しにも、少しはなるのではないかと思っています。

紙の値段があがってしまって大変…というお話も最近業界のあちこちから聞きますが、中の紙は厚く、カバーもとてもしっかりとした作りになっていて、長く手元に置いて楽しんでいただける仕上がりです。日本語版は原書より少し色も明るめに出ていて、明るいアルルの日差しのイメージにぴったりです。どのページを開いても、バーバラさんのイラストがかわいくてすてきで、そのときの気分でひらいたページを飾っておきたくなります。裏表紙の一文は編集の藤川さんが選んでくださった本文からの引用です。
もし みんなが かんぺきだったら
せかいは つまらないものに
なってしまいますね
頭の中ではわかってはいることでも、あらためてそう言われると肩の力を抜いて生きようと、ほっとするセリフです。訳文の練り上げ作業も藤川さんがいっしょに考えてくださって心強かったです!

グラフィックノベル版もぜひ読んでください!
最後に、日本ではゴッホという名前で親しまれていますが、ゴッホの本名はフィンセント・ファン・ゴッホ、苗字を正しく表記するならファン・ゴッホということになります。ただし今回は子どもの読者の親しみやすさの点から、これまで多く使われてきたゴッホという呼び名を本作でも踏襲することにしました。
この絵本をとおして、子どもたちが(そして、大人たちも)ゴッホの絵に親しんでくれることを願っています。

バーバラ・ストック さく かわの なつみ やく
