見出し画像

私、ポカホンタスに及びませんが、お呼びですか?

これは…ポカホンタスの圧勝でしょうね。


鏡にうつる自分の姿を見て、私、そう思ったの。


日本でいうところの、標準体型。父親ゆずりの、色白の肌。白髪はないけれど、まぁまぁボサボサの黒髪ロング

決して大きくはない、二重の目眼鏡をかけているから、目が余計に小さく見える。

頬骨の高さには、線状降水帯のように広がるシミ。化粧をすれば、隠れるのかしら。いつもスッピンだから、今さら隠そうとも思わないけれど。

着ているのは、ちょっとくたびれた、ワッフル生地の長袖トップス。色あせてきたレギンスパンツに、まだ新しいボーダーの靴下。

私のファッションは、スティーブ・ジョブズ流をちょっとゆるくした感じ
クローゼットには同じ形のトップスと同じ形のレギンスパンツ、同じような靴下が並んでいるの。

だから、昨日でも今日でも明日でも、私のオシャレ度は変わらない


「ポカホンタスねぇ…」

そんなことをつぶやきながら、リビングのソファから立ち上がって寝室に向かったのは、つい数分前のこと。

今日は珍しく下の子がお昼寝しているから、私もベッドで横になりたい気分。

でも、寝室に行った目的は、ベッドではないのよ。

寝室にある、姿見。

姿見の正面に立って、頭のてっぺんからつま先まで、自分を見つめる。

ん~、どう見ても、私はポカホンタスではないわね。

もっともっとイケてない、おばさんね。


あれは、2月の頭ごろだったかしら。Threadsを見ていたら、こんな感じの投稿が流れてきたの。

国際結婚している女は、
ポカホンタスみたいなブスばかり

「あらっ?」と思ってクリックしてからは、アルゴリズムの思うつぼ。
今は落ち着いたけれど、当時はタイムラインのあちらこちらで、ポカホンタスの文字がおどっていた。

私はドイツ人と国際結婚していて、幼児2人の子持ち。つまり私は、ブスだと批判されている側の人間ね。

XやThreadsっていうのは、誰かの表の顔や裏の顔、あとは生成されたアレコレなんかが、入れ替わり立ち替わり流れてくる、現代版の流しそうめんみたいなものだと私は思ってる。

どんどん流れてくるけれど、どんな経緯で流されているのかも分からないし、そもそも本物が流れているのかも、最近は分からない。

だから私、タイムラインに流れてくる内容を、普段は真に受けないようにしているの。

でも、単純接触効果だかザイアンスの法則だか知らないけれど、何度も何度も「ポカホンタス」という単語を目にしたら、何となく気になってきちゃったのよ。

それで、自分がポカホンタスかどうか、確かめたくなったというわけ。


「ポカホンタス」と言いたくなる気持ちも、分からなくはない。SNS、特にInstagramなんかは、究極の陽の世界だと私は思っているから。

・ブスなのに、かっこいい外国人をゲットできてズルい
・ブスなのに、旦那の遺伝子のおかげで子どもの顔が可愛くなって、ムカつく
・外国人と結婚しただけで、外国でオシャレな生活を送れて、モヤモヤする

たぶんだけれど、そんなところかしら。

隣の芝生は、青く見えるもの。陰と陽でいう「陽」の部分が、まぶしく輝いて見えるというわけ。

でも、ものごとには光と影があると、私は思っている。


国際結婚してかれこれ10年近く
になるけれど、「あなた、一体全体どこから湧いてきたの?」って小一時間問い詰めたくなるぐらい、次から次へと、厄介なことがやってくるのよ。

結婚してしばらくは日本に住んでいたけれど、夫の名字に変えたから、とにかく不便だった。

まず、どこに電話しても名字を聞き取ってもらえなかった。元々電話が嫌いだったのに、さらに嫌いになったわね。

もちろん、店頭に並んでいるようなシャチハタは買えない。印鑑も全てオーダーメイド。

新姓で仕事をすれば、会う人会う人から「あっ純日本人だったんですね。ハーフかと思っていました」とか言われたわ。
そのたびに私は、「そうなんですよ。夫が外国人でして」って説明しないといけなかった。

でも、そんなのはまだ序の口。

本当に大変になったのは、夫の母国、ドイツで子育てを始めてから。


わが家の場合、上の子は日本で生まれた。上の子が幼稚園に入る少し前にドイツに引っ越して、下の子はドイツで生まれた。
だから私は、ドイツでも日本でも、子育てをしたことがある。

ドイツでの子育てと日本での子育ては、全然ちがう。
ドイツでの子育ては、何というか、「もう十分、お腹いっぱいなんですが…」感がすごいのよ。

私が思うに、異国での子育てで一番大変なのは、語学ではないわね。

こっちの人の「当たり前」が、感覚として分からないこと、それが一番大変。


たとえば、ドイツの幼稚園では、午前中にお弁当の時間がある。

私の子どもが通う幼稚園では、9時半ごろがお弁当の時間。
お弁当の時間になると、子どもたちは家から持ってきたお弁当を食べる。

子どもが幼稚園に入園したとき、「朝、子どものお弁当を用意する」という1つのタスクだけで、いくつもの「?」が、頭の中を飛び交ったの。

・9時半にお弁当…?じゃあ、朝ごはんを食べないで幼稚園に行くの…?それとも、何か食べてから出発するの…?

・そもそもお昼に給食があるんだけど、どれぐらいのサイズのお弁当箱を買えばいいの…?

・ドイツの幼稚園児のお弁当メニューって、いったい何…?

なぜだと思う?

自分が子どものころに、同じ経験をしていないから。

いくらさかのぼっても、9時半とか10時のお弁当の時間に家から持ってきたお弁当を食べて、そのあとお昼に給食を食べた記憶が、出てこないのよ。

高校生のころ、休み時間に早弁をして、お昼に購買でパンを買った記憶はある。でも、私が探しているのは、それじゃない。

仮に私の頭の中身を洗いざらい確認できたとしても、探している記憶は見つからないはず。そもそも、入っていないんだから。

私がいるのは、未知の世界。

ドイツ生まれドイツ育ちの人にとっては何でもないことが、私の目には、得体のしれないものにうつるのよ。

だから、こっちの人から見ると「えっ、そんなの当たり前でしょ?」っていうポイントで、頭を抱えて真剣に悩むことになる。


そうねぇ、場所を日本に移すと、イメージしやすいかもしれないわね。

日本に住んでいたとき、私が熱を出して寝込んだことがあった。次の日にちょっと食欲が出てきて、無性に鍋焼きうどんが食べたくなったのね。

それでドイツ人の夫に、「鍋焼きうどんなら、食べられそう」って言ってみた

そうしたら、何が出てきたと思う?

油たっぷりの、焼うどんが出てきたの。


私、普段から声が小さいから、「鍋焼きうどん」の「鍋」が、夫にはっきり聞こえなかったんだと思う。

でも、たとえはっきり聞こえなかったとしても、たぶんいま私の話を聞いてくださっている方々の99%は、鍋焼きうどんを用意してくれるでしょうね。

だって、身体が温まって消化にも良いおかゆとかアツアツのうどんって、病人食の定番だから。

でも、ドイツ人の夫には、その感覚がなかった。だから、焼うどんになっちゃった。

笑っちゃうでしょ?

でも、それと同じようなことを至極真面目にやっちゃうヤバい人になるリスクを抱えながら、私は暮らしている。


あのね、私、子どもが生まれてからときどきこんな風に思ってた。

「子育てって、攻略に何十年かかるか分からない、魔物みたいなものじゃない?」って。

それで、ドイツに来て何ヶ月か経ったときに、気づいちゃったのよね。

私の目の前にいる魔物は、ドイツの環境に適応した亜種になっている。

通常個体でも私、満身創痍だったんだけれどね…。どうすればいいのかしらね。


『葬送のフリーレン』の世界だったら、フリーレン達がクヴァールにしたように、攻略の目処が立つまで封印できる。

でも、それは無理だわね。クヴァールみたいに80年も封印したら、子どもたちが寿命を迎えている可能性の方が高いんじゃない?

ちなみに、クヴァールのもとになったドイツ語の"Qual"って、「苦悩」とか「苦悶」っていう意味。
もう本当に、フリーレン達が封印したくなる気持ちが、手に取るように分かる。


今夜バーかどこかに行って朝まで語り明かせるぐらい、他にも色々あるのよ。語りたいけど、今回はやめておくわね。

全部ひっくるめてまとめると、もうなんか、アレなのよ。

ここにいるポカホンタス女の生き様は、全然インスタ映えしませんよ?


人は見た目が9割

一昔前に流行った、そんな言葉がある。文字の通りに解釈する人が多いのだとすれば、外見を磨かない私は、マズい人のように見えているのかもしれないわね。

実は私、ドイツだとけっこうモテるんだけれどね。「美」っていうのは、なかなか奥が深いのよ。

去年、幼稚園のお迎え前に公園でひとやすみしていたら、ナンパされたことがあるわね。
わが家は婚外恋愛NGだから丁重にお断りしたら、「君みたいな美人がたくさんいるなら、日本に行かないといけないなぁ」って、そのおじさん言ってたわ。

おじさんありがとう。うん、是非日本に行ってみて。おじさんがイメージしている「美人」にどれぐらい出会えるかは、分からないけれどね。

まぁ、もし外見を笑われたとしても、私が次の日からオシャレに目覚めることは、たぶんない。

少なくとも今は、外から見えない部分の方が、私にとって大事な気がしているから。


…あら、もうこんな時間。少し喋りすぎたわね。
下の子を起こして、幼稚園のお迎えに行かなくちゃ。

ではまたいつか。ごきげんよう。




#創作大賞2026
#エッセイ部門

いいなと思ったら応援しよう!

水越なつめ 応援いただきありがとうございます📚

この記事が参加している募集