山の中に隠されていた神秘的な空間、フラサッシ鍾乳洞
外の空気を遮断するための扉を三段階通り抜けながら、山の内部に入り込むひんやりとした200m強の通路を進むと、目の前に現れるのは巨大な洞窟。フラサッシ鍾乳洞と呼ばれるこの洞窟は、イタリア中部マルケ州、ブーツ型のイタリア半島のふくらはぎのふくらみからやや内陸に入った中央アペニン山脈にあります。

奥行き180m、幅120m、高さ200mとヨーロッパ最大級といわれる巨大な空洞で、ミラノの大聖堂がすっぽりと中に納まってしまうそう。その想像を超える迫力は、とても写真では伝えることができません。
この洞窟が発見されたのは、1971年、当時14歳だった少年が登山道を探検していた際に、冷たい空気が出てくる半月状の穴を岩盤にみつけたことがきっかけです。その後、少年から、その場を案内された洞窟探検グループの仲間たち(15歳から25歳と皆若い青年でした)が、岩を砕いて入口を広げ、地面のすぐ下に地下室のような空間があることを突き止めました。
数名が降下して内部に入り、地面に腹ばいになって80メートルほど進んだところで、岩の床は途切れ、巨大な空間へと落ち込んでいました。しかし、当時、ヘルメットにつけていたランプでは4~5メートル先しか照らすことができず、落差の大きさはわかりません。そこで彼らは石を投げ落とし、着地するまでの時間を数えました。
石が落下して音を立てるまでにかかった時間は5秒——つまり120メートルの深さ。
適切な道具を備え出直した彼らは、細い金属梯子をヘリコプターの梯子のようにつなぎ合わせ、120メートルの長さにして垂直に吊り下げました。
そして、準備が整うと、誰が最初に降りるかをくじ引きで決めました。当たったのは20歳の青年Maurizio Bolognini。彼は真っ暗闇の中、梯子を伝って45分かけて底に到達し、約150万年間、誰も踏み入ったことのない、この洞窟に足を着けた最初の人間となりました。
その後仲間たちも降り、探索と調査が始まりました。この探索は今でも続いており、特に山の中でもさらに深く低い部分の調査が進められています。

Di Frasassi - Opera propria, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=47957889
この山は標高約1000メートル、数平方キロに広がる広大な地下網を持っており、確認されている洞窟の総延長は非常に長いものです。そのうちの1キロだけ、現在、観光ルートで見学できます。

山の側面に設けられたトンネルから入り、ガイドの説明とともに、設置された通路を進みながら、ライトアップされた鍾乳洞を見学するのですが、最初に足を踏み入れた洞窟探検隊の若者たちは、わずかなライトを頼りに真っ暗な洞窟を探検していたのです。そして、地上に戻るためには、降りてきた120mの梯子を再び上らなければならなかったのです!
それゆえ、彼らは、迷わないために、天井から伸びる鍾乳石や、床から上へ成長する石筍の形の特徴から「ろうそくを持つ悪魔」や「小さな聖母像」「ナイアガラの滝」などの名前をつけ目印とし、未知の洞窟を探検しました。

「巨人」と名付けられたこの洞窟で最も巨大で古い石筍の高さは、約20メートルもあります。鍾乳石や石筍の成長は非常にゆっくりで、1年に約1ミリほど。人間にはほとんど認識できない速度です。この「巨人」がこの大きさになるまでにかかった年数は、12万5千年ほどと推定されています。人類が日本に来るよりもずっと前から、この山の中に隠された洞窟の中で、この石筍は年に1ミリずつ成長を続けているのです。

この洞窟内には40種以上の生物もいます。ほとんどが顕微鏡でしか見えない細菌類ですが、外から洞窟内に迷い込んでくるコウモリなどもいます。彼らは洞窟の上部にある狭い割れ目や通路を通ってここまで来てしまうことがありますが、残念ながらもう外へは戻れません。
また、何千年も前には、川から小さな両生類が洞窟に入り込み、この場所に定着しました。サラマンダーのような生き物で、洞窟の暗く寒い特殊な環境に適応するため、呼吸器官を持たず、皮膚呼吸をしたり、目が退化しほとんど見えないなど、身体の形も変化させました。


この青い水をみてふと思い出したのは、宮崎駿監督のアニメ「風の谷のナウシカ」でした。この水は、青くライトアップされているのだけれども、洞窟に隠された汚染されていない水のイメージが思い浮かびました。そして、近い将来、そのような水を探し求めるような日々が来るのではないかとゾクッとしました。
観光地化してしまった、このフラサッシ鍾乳洞。もちろん、私も観光客の一人として見学したのですが、真っ暗闇の中で静かにゆっくりと成長していた鍾乳石や石筍たちに、トンネルを通してどかどかと山の中にまで押し入り、勝手にライトアップをし、壮大さを一つも伝えられない写真をパシャパシャと取り、一人の人間として、申し訳ないという気持ちになりました。
私は、今、あるイタリア人男性に日本語を教えています。彼は、日本を旅したいと言っています。3か月間Duolingoで独学をした彼のノートを見せてもらいましたが、そこには、小さな字でぎっしりと日本語が書かれていました。ひらがなやカタカナだけではなく、漢字も練習しています。
彼が働く革工房の目の前には、中国人がお店を開いているそうです。その中国人と、イヤホンのような器具を使って、相手は中国語で、自分はイタリア語で会話を楽しんだといいます。
便利な器具が登場してもなお、日本語を習い、現地で日本人と交流する旅がしたいという彼。写真を撮り、SNSにアップするだけの観光客が多い中、このような旅人が日本に来てくれることをすごく嬉しく思います。そして、私も旅行をする時は、観光客ではなく、旅人になれるように努めています。
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