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5才からはじめるプリンセス入門⑧|第七章 王子と、どう仲良くなるか(あるいは、ならないか)

引っ越して、3ヶ月。

5才のあなたは、毎朝、
王子と同じ食卓で、ごはんを食べることに、なっています。

これは、相手国が決めた、「親睦のための儀式」です。

毎朝、毎朝、6才の王子と5才のあなたが
長いテーブルの両端に座って、ごはんを食べる。

距離、3メートル

会話、ゼロ

これが、3ヶ月、続いています。

毎朝、毎朝です。

3メートル先の王子は、いつもうつむいてごはんを食べています。

たぶん、6才の王子も、つらいのです。

知らない国から来た知らない女の子と、毎朝、無言で、ごはんを食べる。

6才には、けっこうつらいです。

ある朝、5才のあなたは、ふと気づきます。

王子のお皿に、ピーマンが残っています

ここで、第四章を、思い出してください。

「ピーマン、きらい?」

第一戦で、あなたが王子に投げた、初対面の刃でした。

王子は、あのとき、「今は食べられる」をつきました。

5才のあなたは、そのとき、こう判断しました。

「見栄を張る子」

そして、3ヶ月後。

王子のお皿には、ピーマンが、残っています

つまり王子は3ヶ月間、嘘をつき続けて、食べたふりをしてきたわけです。

毎朝、毎朝、です。

「食べられる」と言った手前、残せない
でも、食べたくない。 だから、こっそり、隠してきた

5才のあなたは、それを、今朝、初めて気づきました


5才のあなたが、ここで、やるべきこと

選択肢を、並べます。

選択肢①:見て見ぬふり  無難。3メートルの距離を、保つ。ただし、関係は、進まない。

選択肢②:「ピーマン、残してますね」と指摘  最悪手。王子の見栄を、潰す。人間関係、終わり。

選択肢③:お目付役に、報告  論外。5才のあなたの、人格が問われる。

選択肢④:自分のお皿のピーマンを、王子の方へ滑らせる  ……これは、ちょっと、おもしろいですね。

選択肢⑤:自分の口で、王子のピーマンを食べに行く  やりすぎです。

正解は、選択肢④……の、改造版です。

5才のプリンセスが、本当に、やること

5才のあなたは、朝食の途中で、こう言います。

おにいさま、わたくし、ピーマン、ちょっと、苦手で

ここで、王子は、驚きます。

なぜか。

プリンセスが、嫌いなものを、自分から告白したからです。

3ヶ月、距離3メートルで、無言で、ごはんを食べてきた相手が、いきなり、弱みを見せた

しかも、それは、王子自身が、3ヶ月、隠し続けてきた弱みと、同じ

王子の頭の中で、何が起きるか。

「え、この子も、ピーマン、嫌いなのか」
「じゃあ、ぼくも、残していいのか」
「いや、でも、ぼくは、『食べられる』って言ってしまった」
「……でも、この子が、こう言ってくれたなら」

5才のあなたは、続けます。

だから、王子さまも、もしお嫌でしたら、わたくしのお皿に入れてくださいませ。わたくし、内緒でこっそり、お庭の隅に埋めますから

これを、にっこり笑って、言います。

第四章の「だまって微笑む」、覚えていますね。

あれの、応用編です。

今回は、だまらずに、微笑む

しかも、自分の弱みを先に出してから、相手に逃げ道を用意する

王子は、ここで、人生で初めて、

「ぼくの弱みを、利用しないで、守ってくれる人」

に、出会います。

これは、6才の王子にとって、衝撃です。

王子は、これまで、

  • 王さま(お父さま):弱みを見せたら、叱られる

  • お后さま(お母さま):弱みを見せたら、心配される

  • 大臣たち:弱みを見せたら、利用される

  • 兵士たち:弱みを見せたら、軽んじられる

という世界で、6年間、生きてきました。

「弱みを見せても、なんでもない人」は、初めてです。

王子は、ここで、5才のあなたを、人生で初めて、味方だと認識します

ピーマンが、武器ではなく、通貨になる瞬間

第四章で、ピーマンは、情報の刃でした。

「ピーマン、きらい?」で、相手の混乱を、引き出した。

しかし、第七章で、ピーマンは、信頼の通貨になります。

「わたくしも、苦手なんです」で、相手の信頼を、買った。

同じピーマンが、章をまたいで、機能を変える

これが、5才のプリンセスの、長期戦略です。

大事なこと

ここで、5才のあなたに、伝えておきたいことがあります。

「弱みを先に見せる」というのは
本当の弱みを見せることではありません。

5才のあなたは、ピーマンが、実は、けっこう食べられます(5才のあなたは、好き嫌いを、もう克服しています。第五章で書いた「嫌いな野菜も笑顔で食べる練習」、覚えていますか)。

でも、ここでは、「ちょっと、苦手」と、嘘をつきます

自分の弱みを、演出します。

なぜか。

王子の弱み(本物)と、対等になるためです。

5才のあなたが、本当は強いことを、王子に見せると、王子は、怯えます。

王子の弱みと、自分の「演出された弱み」を、対等に並べる。

これが、プリンセスの、信頼構築術です。

5才には、ちょっと、高度ですね。

でも、これが、できるかどうかで、政略結婚のこの先50年が、決まります。


(ちなみに、この本を読んでいる29才で結婚したばかりのあなた。

新婚で、毎晩、夫婦で、会話に困っていませんか。

「今日、どうだった?」「うん、まあ」で、終わっていませんか。

これ、5才のプリンセスから見ると、距離3メートルの食卓と、同じです。

明日、こう言ってみてください。

「今日ね、わたし、上司に怒られちゃって、ちょっとしょんぼりしてるの」

これ、ピーマン作戦と、同じです。

弱みを、先に、見せる。

ただし、本当の致命傷ではなく、ちょっとした失敗でいい。

5分後、相手は、自分の今日の失敗も、しゃべり始めます

これで、夫婦の会話、復活します。

5才から学べる、けっこう、実用的なやつです。)


3ヶ月後の食卓

5才のあなたが、「わたくし、ピーマン、ちょっと、苦手で」と言ってから、3ヶ月。

食卓の様子は、こうなっています。

距離、3メートル(変わらず)。

会話、毎朝、3往復くらい

「おはようございます、おにいさま」 「おはよう」
「今日のスープ、おいしいですね」 「うん」
「お庭の鳥が、今朝、3羽、来ました」 「……ふうん」

劇的な変化は、ありません。

でも、王子は、毎朝、5才のあなたの顔を、見るようになりました

3ヶ月前、ずっと、うつむいていた王子が、
今は、顔を上げて、5才のあなたを見ています

これは、大進歩です。

そして、6ヶ月後。

王子は、ある日、5才のあなたに、こう言います。

「……あの、ね」

「はい?」

ぼくも、実は、苦手なものが、ある

5才のあなたは、にっこり笑って、こう答えます。

存じております

王子は、目を丸くします。

「え、なんで」

「初対面のときに、おにいさまが『今は食べられる』とおっしゃったの、
覚えております」

「あれが、お言葉だけだったことも、そのときから、なんとなく、わかっておりました」

ここで、王子は、初めて、5才のプリンセスの、本当の強さを、知ります。

初対面から半年、全部、見抜いていて、
それでも、自分から弱みを見せた
プリンセスの、配慮の深さを、知ります。

そして、王子は、ここで、5才のあなたを、心から、尊敬します


第七章、まとめ

  1. 王子の弱みは、指摘しない

  2. 自分の弱みを、演出する

  3. ピーマンは、通貨になる

  4. 弱みは、対等に並べる

  5. 知っていても、初対面から、ずっと、黙っていた

5才には、けっこう、深い回ですね。

でも、ここまで読んでいる5才のあなたは、もう、
プリンセスじゃありません。

未来の女王です。


(この本を読んでいる、46才で長年連れ添ったパートナーと、なんとなく距離ができているあなた。

相手の弱みを、実は、ぜんぶ、知っていませんか。

何年も、何十年も、見てきたから、ぜんぶ、わかる。

でも、相手は、まだ、隠しているつもりでいる。

それを、指摘していませんか。

「あなた、本当は、こうでしょう」 「わたしには、わかってるから」

これ、46才のあなたが、5才のプリンセスに、負けている瞬間です。

5才のプリンセスは、初対面から、ずっと、黙っていました。

46才のあなたが、何十年、知っていて、黙ることが、できないわけがありません。

そして、相手が、自分から「実は……」と言ってきたとき、

「存じております」

と、にっこり笑って、答えてください。

46才のあなたと、相手の関係は、そこから、もう一度、始まります。)


イチゴ、その後

ところで、ジャム瓶のイチゴは、まだ、瓶の中ですね。

引っ越して、半年経ちました。

ジャム瓶のイチゴは、半年前の鮮やかな赤ではなくなっています。
赤黒く沈んで、シロップが重くなって、光が少し、鈍くなっています。

でも、まだ、食べないでください。

イチゴ瓶は、「本当の試練の日」のために、
瓶の中でじっと、待っています。

その日は、まだ、来ません。

王子からの、お返し

ところで。

5才のプリンセスが、ピーマンを埋葬し続け、
王子の弱みを半年間黙り続けた、そのご褒美として、

ある朝、王子のお皿に、こっそり、何かが、のっていました。

そして、それが、5才のあなたのお皿に、移されています

王子は、目を合わせません。

うつむいたまま、ごはんを食べています。

でも、5才のあなたのお皿には、何かがのっています。

それは、ピーマンではありません。

最後のひと切れの、イチゴです。

5才のあなたは、目を、丸くします。

王子の国では、朝食に、イチゴはのりません(第六章の冒頭、覚えていますか)。

朝食に、イチゴが、のりません。

それなのに、今朝、王子のお皿にイチゴがのっていました

王子が、こっそり誰かに頼んで用意させたのです。

5才のプリンセスのために、です。

そして、王子は、それを、
自分のお皿に出させた上で、5才のあなたに、移したのです。

なぜか。

直接「あげる」と言うのは、6才の王子には、まだ、恥ずかしいからです。

5才のあなたは、お皿のイチゴを、見ます。

そして、王子を、見ます。

王子は、まだ、うつむいています。

でも、耳が、真っ赤です。

5才のあなたは、にっこり笑って、こう言います。

おにいさま、わたくし、イチゴが、大好きです

王子は、何も言いません。

でも、ごはんを食べる手が、少しだけ、速くなりました。


第七章、本当のまとめ

ピーマンと、イチゴ。

5才のプリンセスは、ピーマンを、埋葬しました。
6才の王子は、イチゴを、贈りました。

これが、半年かけて、二人が辿り着いた、最初の通信です。

距離、3メートルは、変わりません。

会話、毎朝3往復は、変わりません。

でも、お皿の上で、ピーマンとイチゴが、行ったり来たりしています。

これで、いいんです。

5才と6才の信頼関係は、お皿の上で、育ちます。

言葉は、まだ、いりません。

次の章では、お目付役のおばあさんが、ある日、5才のあなたに、編み物を教え始めます

「お姫さま、ねこの形のミトンを、編んでみましょう」

なぜ、突然、編み物なのか。

そこには、お目付役の、ちょっと、かわいい思惑が、隠されています。

ジャム瓶は、まだ、棚の奥で待っていますよ。

お皿の上のイチゴは、食べていいやつです(王子からの贈り物ですから)。

でも、ジャム瓶のイチゴは、まだ、そのときではありません。

では、次の章で、会いましょう。

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