和歌・短歌・俳句の日英翻訳(3)東(ひむがし)の 野に 陽炎(かぎろい)の 立つ見えて 返り見すれば 月傾(かた)ぶきぬ
万葉集第一の歌人といわれた柿本人麻呂の名歌です。
原文は
「東野炎立所見而反見爲者月西渡」。
いまの読み方は江戸時代の賀茂真淵によるもの。
それ以前は別の読み方がなされていたようです。
意味は、斉藤茂吉の『万葉秀歌』によると
「(阿騎野に宿をとった翌朝、)日の出の前の東天に
すでに暁の光がみなぎり、それが雪の降った阿騎野にも映って見える。
その時、西の方をふりかえると、もう月が落ちかかっている」
というものです。
さて英訳です。
すでに述べたように万葉集には優れた英訳がいくつもあります。
そのなかからひとつだけご紹介します。
On the eastern plain,
the purple dawn is glowing.
While looking back
I see the moon declining to the west.
[Tr. Nippon Gakujutsu Shinkokai, loc. cit.]
こんな素晴らしい訳をされたら
私なんぞは手も足も出せません。
脱帽のみです。
dawnは曙光のこと。
そこにpurpleという語がついていることで
夜明け前の幻想的な大気の様子が見事にあらわされています。
glowは光や輝きを放つことですが、
直接的に光や熱を放つshineとは違って、
熱を伴わない光源からの光あるいは反射光のイメージです。
英語には、glowやshineのほかにも
「光を放つ」という意味を内包する語がたくさんあります。
gleam,glitter, glint, glare, shimmer, sparkle, twinkle, glistenなど。
それぞれの語が少しずつ異なるイメージを持っています。
Whileなしで、 looking backはlooking backだけでもよいのですが、
While(~するうちに、同時に)をつけることで、
同時に進行しているイメージがさらにふくらみます。
see the moon decliningは
「the moonが、”decline"
(下に傾く、ゆっくり落ちる)していくのがみえる」。
declining。
いいですねえ。
fallingやdroppingじゃあ、いけません。月がストンと落ちすぎです。
sinkingやgoing downなら、意味的には使えないことはないのでしょうが、
うーん、違うよなあ…。
☆☆☆
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