見出し画像

灯りをともす専門家でありたい

「相談がない=問題がない」
そう思って安心している専門家は、実は一番危ういのかもしれません。

多くの人は、「助けて」と言えないまま不安を抱えています。
それは、問題がないのではなく、まだ言葉になっていないだけ。
心の中でモヤモヤしている“未完成の感情”が、形を持つまでの間に、
私たちはそっと手を差し出せるかどうかが問われているのです。

たとえば、企業の人事担当者がこんな風に言うことがあります。
「特に社員から相談は来ていません」
でも、少し話を深めていくと
「最近、表情が暗い社員が増えた気がするんですよね」
「小さなトラブルはあるけど、いちいち言うほどでもないかなと」
こんな言葉が出てくる。

ここにこそ、まだ言語化されていない不安が隠れています。
誰かが「どうされました?」と聞かなければ、永遠に顕在化しないまま、静かに組織を蝕んでいく。
その気づきの前に動ける人こそ、本当のプロだと思うんです。

私は社労士として、多くの企業と関わってきました。
中には「うちは大丈夫です」「特に問題ありません」と言いながら、
ある日突然、退職ドミノが起きる会社もあります。
共通しているのは、相談の静けさを、平穏と勘違いしていたこと。

沈黙は、安心の証ではなく、サインの消失なんです。
声を上げることを諦めた社員が増えると、職場は一見穏やかに見えて、実は冷えていく。
私はその「静けさ」に敏感でありたいと思っています。

相談されてから動くのは、ある意味で「反応的な仕事」です。
でも、価値はいつも、相手が気づく前に差し出すことから始まる。

「最近どうですか?」
「このテーマ、気になっていませんか?」
「こういうケース、今の時期に増えてるんですよ」

たった一言の声かけが、安心への灯りになることがあります。
相手の不安を掘り当てるのではなく、浮かび上がらせる。
そのきっかけをつくるのが、質問であり、関わり方の力です。

専門家とは、待つ人ではなく、灯す人。
不安という名の暗がりに、ひとつ火を灯す。
その光があるだけで、人は自分の中の輪郭を見つけられる。
そして、自ら言葉にして歩き出せるようになる。

「話してよかったです」と言われるのは、何かを解決したからではなく、
話せる空気をつくれたからなんです。

私が目指したいのは、「相談を受ける人」ではなく「相談が生まれる人」。
つまり、存在そのものが安心感であるような人です。
そのために必要なのは、正しさよりも、温度。
そして、先に寄り添う勇気です。

あなたのまわりにも、まだ言葉にならない不安を抱えている人がいるかもしれません。
今日、誰かに一言、声をかけてみてください。
もしかしたら、そのひとことで、心の中の灯りがともるかもしれません。

さて、あなたは誰の不安に、最初の灯りをともしますか?


有料マガジン『問いの地図』では、
こうした“気づきの前に動く力”をテーマに、
思考を深めるヒントを綴っています。

また、メンバーシップ『質問力実践ラボ|社労士の対話塾』では、
実際に現場で使える「質問の型」と「対話の技術」を一緒に磨いています。


いいなと思ったら応援しよう!