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「あの人は変わった人だ」と思ったとき、変わっているのはどっちか。

認知の基準点が自分の中にあることに気づく視点

こんな場面はありませんか

顧問先の社長から、こんな相談を受けたことはないでしょうか。

「うちの若手社員、ちょっと変わっていて困っているんです」

話を詳しく聞いてみると、その社員は指示された業務は正確にこなし、納期も守り、トラブルも起こしていない。ただ、雑談に加わらない、飲み会に参加しない、休憩時間を一人で過ごす。
そういった「らしくなさ」が、社長の目には「変わっている」と映っているだけだったりします。

このとき、私たちはつい「変わった人がいる」という前提で話を聞いてしまいがちです。しかし一歩立ち止まって考えると、実はもっと大事な問いが隠れています。

「変わっている」と判定しているのは誰の、何を基準にした評価なのか。

「変わっている」は相対的な言葉である

「変わっている」という言葉は、絶対的な性質を表しているようで、実は比較によってしか成立しません。何かと比べて初めて「変わっている」は意味を持ちます。そして多くの場合、その比較対象は「自分」であり「自分が属する集団の多数派」です。

つまり、「あの人は変わっている」という発言の正体は、

「あの人は、私(たち)の普段の基準からずれている」

という報告に過ぎません。これは対象についての客観的な記述ではなく、発言者の内側にある基準点を映し出す鏡なのです。

社労士として企業の人事労務に関わる私たちにとって、この視点は決して抽象論ではありません。むしろ日々の実務判断の精度を左右する、非常に実践的な視点です。

実務で起きていること

いくつか具体例を挙げてみます。

ハラスメント相談の場面 「あの上司の言い方は変わっている、きつい」という相談を受けたとき、その基準は相談者自身のこれまでの職場経験や家庭環境に根ざしていることが多くあります。一方で、行為者側にも「自分では普通のコミュニケーションのつもりだった」という基準があります。どちらが正しいかではなく、双方が異なる基準点を持っているという前提に立つことで、初めて公平な事実整理ができます。

就業規則・服務規律の運用 「協調性がない」「常識がない」といった評価が就業規則の解釈に持ち込まれるとき、その「常識」は誰の常識か、という点検が抜け落ちがちです。属人的な基準がそのまま懲戒処分の理由になってしまうと、後々の紛争リスクにつながります。

採用・配置の場面 面接官が「なんとなく合わない」と感じた応募者は、実は面接官自身の経験してきた組織文化と異なるだけ、というケースは少なくありません。この「合わない」を丁寧に言語化させる支援も、社労士に求められる役割の一つです。

基準点が自分の中にあると気づくこと自体が、専門性である

ここで大切なのは、「基準を持つこと自体が悪い」という話ではないということです。基準がなければ判断も評価もできません。問題は、その基準が自分の内側にあるという自覚を持たずに、それをあたかも普遍的な物差しであるかのように扱ってしまうことにあります。

顧問先の社長の「変わっている」という言葉をそのまま受け取り、「では改善指導をしましょう」と進めてしまうのは簡単です。しかし社労士がその前に一呼吸置き、

「その評価は、どのような基準に基づいていますか。その基準は、就業規則や職務内容に照らして必要なものですか」

と問い返せるかどうかで、対応の質はまったく変わってきます。これは単なる優しさや配慮の問題ではなく、リスクマネジメントであり、専門家としての価値そのものです。

顧問先に伝えるときの視点

この考え方は、顧問先の経営者や人事担当者に伝える際にも有効です。「変わった人」というレッテルを外してもらうために、こう問いかけてみてください。

  • その行動は、業務や職場運営に具体的な支障を与えていますか

  • 「変わっている」という評価は、事実の記述ですか、それとも印象ですか

  • 同じ行動を、あなた自身がしていたらどう評価されると思いますか

こうした問いは、感情的な人物評価を、事実ベースの業務評価へと引き戻す働きをします。結果として、指導や処分の場面でも、後々のトラブルに耐えうる公正な判断につながっていきます。

おわりに

「あの人は変わった人だ」この一言に出会ったとき、私たちが本当に見るべきなのは、その「あの人」ではなく、評価している側が無意識に握っている基準点です。

社労士は、企業と労働者の間に立ち、双方の「当たり前」がすれ違う場面に日常的に向き合う専門家です。だからこそ、「変わっている」という言葉が出てきたときに、一呼吸置いて「その基準はどこにあるのか」を問い直せる視点を持っておきたいものです。

それは、誰かを裁くための視点ではなく、自分自身の認知の癖に気づき、より公正な判断に近づくための視点です。

「変わっている」は、性質ではなく距離である。

今日の問い

その人を「変わっている」と感じたとき、あなたの中のどんな「普通」が、静かに物差しとして働いてましたか?


今回の記事とあわせて読んで欲しい3本

「昔は普通だった」が今も正解とは限らない。ハラスメントの基準は受け手の感情にあることを説く、今日の記事の実務編。

「うちの業界ではこれが普通」と譲らない。基準のズレが不信感を生む心理を、認知的均衡理論から考えてみました。

自分の基準で断定する前に「あなたの視点では?」と問う。認知のズレを埋める具体的な質問技術がここにあります。


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