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【突発速攻「太宰になろう系」企画】ラストキス

こちらの企画への参加です!
(なみさん、いつもありがとうございます!)
30分きっかりで、今回は1416字の作品になりました。
しかも、noteでBL派生企画なのだから、BLにするのが明記されておらずとも暗黙のルールだったのかもしれませんが、真逆の百合小説になってしまいました。(問題ありでしたらご指摘ください!!)

見直ししてないので、誤字脱字がありましたら失敬。
自分で想像していたのと違う方向に話がいって、大変楽しかったです。
※見出し画像はみんなのフォトギャラリーからお借りしました。


ラストキス

「棺を開けてほしいんですけど」

と、彼女は言った。
どことなく虚ろな目つきだった。
さっき来たばかりの女の人だ。場違いに真っ赤なワンピースが目に眩しい。葬祭場ではあまり見ない色合いだ。
彼女を案内した面会室には、昨日運ばれてきたご遺体がある。たしか、まだ若い女性のご遺体だった、と思う。

「何かお入れしたいものがあれば、こちらでお預かりをいたしますが?」
葬祭場の受付をしていると、よく言われる要望だ。
手紙を入れたい、とか。花を入れたい、とか。故人が好きだったものを入れたい、とか。死出の旅路を見送るために、人間は昔から色んなものを死者に贈りたがる。
でも、棺を開けるかどうかの判断は私たちにはできない。こういってはなんだけれど、その人の死に方によっては、棺を開けるわけにはいかない状態のときもあるので。担当している葬儀社の判断を仰がないとならない。

「入れたいもの、とかじゃなくって」
「恐れ入りますが、お棺を開けるかどうかは、私たちには判断ができないんです。担当の葬儀社の者に聞いてみないと」
「ちょっとでいいんです」
「えっと、ですから」
「これ、これを彼女に」
目の前にいきなり拳を突き出される。咄嗟にひるみかけたけれど、握りしめられた拳が小刻みに震えているのを見て、すっと肩の力が抜けた。
「彼女に、これを」
握りしめられていたのは、口紅だった。
「口紅、ですか」
こくん、と赤いワンピースの人は頷いた。
「えっと」
私はすばやく手元にあった資料で名前を確認する。
亡くなった人を私たちは“故人”と呼んでしまうけれど、その人の身近な人にとっては、死、それ自体が受け入れがたいことが多い。だから、故人の面会者に対しては、名前で呼ぶように、というのがマニュアルの中にある。
「こちらは、渡辺様のメイク道具、だったのでしょうか」
私の言葉に、目の前の彼女はもう一度頷く。仕草が幼いのが印象的だ。
「ご本人がお使いになられていたメイク道具で綺麗にして差し上げたいんですね……。わかりました、それではメイクの者を」
「えっと、そうだけど、そうじゃなくて。それで、キスしてほしいんです、彼女に」
「え?」
「それ、私が彼女にあげた口紅なんです。彼女、赤が好きだったから」
ぽとり、と私の手の中に目掛けて口紅が落とされる。真っ黒のボディに金色の縁取り。
「彼女に、これでキスをしてもらうんです。だから、棺を開けて」
「あの、それはお引き受けいたしかねまして」
「なぜですか? だって、彼女はもう嫌がらないでしょう。死んでるんだから」
ぎょっとして顔をあげる。
綺麗な女の人だ。でも、悲しそうではなかった。
此処にはいろんな人が、死んだ人を訪ねに現れる。
泣いていたり、怒っていたり、気落ちした人も、努めて明るく振舞おうとする人も、色んな人がいる。誰しもに故人との思い出があるはずで、その最後の時間を過ごそうとやって来る。
一人一人に違ったドラマがあるはずで、同じ人はいないのはわかっている。それでも、見たことがない。赤い色のワンピースと同じだ。見慣れない。異質なもの。

「彼女が好きな色を着て来たんです」
私がワンピースに視線を向けたのを感じてか、彼女ははにかんだようにワンピースの襟をつまんで見せる。
「綺麗な色だから、彼女も気に入ると思って。口紅とおんなじ色なんです。彼女がほめてくれた私のプレゼント。だから、棺を開けてください、最後くらいキスしてもらうんです」
赤いワンピースの彼女は、晴れやかな笑顔だった。



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