「霊能者鹿喰今日子は今日も霊視をしたくない」企画書
キャッチコピー
天才霊能者鹿喰今日子。今はしがない占い師。今日も因縁の相手から霊視しろって脅されてます。
あらすじ
鹿喰今日子は、一世を風靡する占い師兼霊能者。
一般の観覧者もスタジオに入れた生放送の占い特番で、彼女は観覧席にいた一人の女性に声をかけた。
「あなたの家で、人が殺されている」
放送されてしまった発言は炎上、関係者から事実無根との大々的な抗議もあって物議をかもし、持て囃されていた今日子は一転、ペテンの烙印を押される。
以来、“鹿喰今日子”は表舞台から姿を消した。
事件から15年。霊能力を使うことを辞め、雑居ビルの漢方薬局に居候してアルバイト生活を送る今日子を、制服姿の少女が、行方不明の兄を探してほしいと訪ねてくる。少女の名前は横溝有栖。
かつて今日子が「人が殺されている」と言った家の子どもだった。
第1話のストーリー
都内のスタジオで、人気占い師兼霊能者として一世を風靡する《鹿喰今日子》をメインキャストに、テレビの占い特番の生放送が行われている。
一般観覧者も多数入る中、ゲストの芸能人を相手取り、歯に衣着せない物言いで霊視を行う今日子。
テレビのレギュラー出演、複数の雑誌での特集など、世の中は鹿喰今日子旋風の只中にある。だが、短期間で人気を得た彼女には、探偵を雇ってゲストを事前調査しているなどの噂、いわゆる「やらせ疑惑」も浮上していた。
概ね順調に進む放送は、スタジオの観覧者を霊視する企画となった。
一般人への霊視が出来たら、本物という証明になるのではないか。
いや、一般人を装ったさくらが、仕込まれているのではないか。
それよりも、名も無い一般人の霊視でどれだけ場を持たせられるのか。
様々な思惑が交錯する中、今日子はMCに選ばれ他愛のない悩みを話し始めた中年女性に向かって、突如、
「あなたの家で、人が殺されている」
と言い放つ。
スタッフが慌ててCMへ切り替えるまでの間、動揺する女性に向けて、なおも告発めいた言葉を畳みかける今日子の姿が放送されてしまう。
テレビ局へは批判と問い合わせが殺到。
女性の家族からも大々的な抗議がなされ、世間を巻き込んだ大論争へ発展。
しかし、今日子が指摘した「殺されている」人物は存在しないと明らかになり、今日子の行動は「偽霊能者の売名目的の暴走」と結論づけられ、メディアの表舞台から追放される。
それから15年。海に面した首都近郊のある町。
雑居ビル一階の漢方薬局《御行堂》に今日子の姿はあった。
開店休業状態の薬局での店番の傍ら、占いアプリで占い師のアルバイトをして暮らす日々。
かつての華々しい面影は無いが、今日子は気にする様子もなく、自堕落で気ままな生活を送っている。
そこへ、制服姿の少女が訪ねてくる。
行方不明の兄の消息を調べてほしいと訴える少女に、ここはただの薬局だとシラを切る今日子。
「鹿喰今日子さんですよね、本物の霊能者の」
食い下がる少女に、今日子は、
「鹿喰今日子という霊能者は偽物」と躱す。
けれど少女は「鹿喰今日子は本物の霊能者」だと微笑む。
自分は、鹿喰今日子が本物の霊能者だということを知っている。
なぜならば、自分は15年前のあの日、鹿喰今日子に殺人を看破された家の人間だから。
少女は、今日子の目の前に多額の現金を差し出すと、横溝有栖と名乗り、兄の消息を調べてほしいと再度依頼する。
第2話以降のストーリー
横溝有栖は、芳しくない反応を示す今日子の様子にため息を吐くと、多額の現金を置いたまま、また来ると言い残して姿を消す。現金を置いて行かれたことに気が付いた今日子は慌てて表に飛び出すが、そこにはもう誰の姿もなかった。
今日子の霊能力は、有栖が言う通り、確かに本物だった。
15年前の生放送中、当たり障りのないような家庭の悩みを、質問として話している女性に、プロジェクションマッピングが照射されているかのように、彼女の家で行われている虐待とも、計画的な殺人とも言えるような光景が映し出された。それを見てしまった今日子は思わず口走っていた、
「あなたの家で、人が殺されている」と。
元来、今日子は占いと霊能力による霊視以外、一般的なことは何もできない人間だった。言うべきではないこと、言わないほうが良いこと、人の顔色、場の空気。そんなものを判断する能力が決定的に欠けていた。おまけに他人には見えないものまで見えてしまう始末。
余計なことを言うから友だちはおらず、家族の中でも浮いている。今日子にとっては、占いの道具だけが打ち解けられる友人となり、占いの技術だけが、世界とコミュニケーションを取るツールとなった。
そうして飛び込んだ占いの世界で、今日子の霊視の能力は心強いパートナーとなっていく。
駅の地下街にある占いコーナーで、よく当たる占い師と知られるようになった頃、その後マネージャーとなる男にスカウトをされたのが全ての始まりだった。
スカウトの後、今思えばどう見ても裏社会の人間にしか思えない人間たちがいる事務所で契約をさせられ、どういう裏取引のおかげなのか、あっという間に人気霊能者としてテレビや雑誌に取り上げられるようになった。
彼女をメディアに売り出したマネージャーが、余計なことを言わないようにと今日子に厳命していたおかげで、「寡黙なクールビューティー」と誤解されたキャラクターが独り歩きしたが、本当は頓珍漢なことばかりするし、見えているものをうまく何かに利用することもできない。
そうして、バランスを欠いたまま進んでいった先で、自分はまた「言うべきではないこと」を口にしてしまったのだ、と今日子が思ったときには、マネージャーはもういなかった。稼いできたギャラは全て持ち逃げされていた。
予定されていた仕事はなくなり、追いかけまわす週刊誌から逃げるため家にも帰ることのできない日々だったが、名誉棄損と大きく騒いでいた女性の家族たちは、今日子の気配がメディアから無くなった途端におとなしくなり、結局は訴訟なども行わなかったことで、騒動は次第に風化していった。
行く当てのない今日子を拾ってくれた漢方薬局《御行堂》の店主であり、ビルの向かいに立つアパート御行のオーナーでもある林衛花。
アパート御行の住人で、15年前の騒動全てを国家レベルの陰謀だと主張する陰謀論者「今のあんたには欠片も関心が無い」が口癖の、霊能者時代の今日子を信望するオタク宮藤。
そして、同じくアパート御行の住人で、今日子が占い師として働く占いアプリ《刻詠みのグリモワール》運営者、決して姿を現さずに常にオリジナルのリモート端末でコミュニケーションを図ろうとする引きこもりのジギタリス。
友人とは言えないまでも、今の今日子を取り巻く知人たちに、今日子は横溝有栖と名乗る少女が訪ねてきたことを相談する。
占いと霊能力による霊視しかできないのに、霊能力を使うことを自ら辞めた以上、今の今日子はただの占い師。それも、占い以外は人並以下の能力しかない。
自分の手には余るという判断で相談をしてみたが、今日子以外の人間たちも、どちらかといえば社会のはみ出し者。これといった情報も、打開策も無く、結局今日子は、「また来る」と言った有栖が再び現れるのを待つしかなかった。
そうして三日後の夜、再び有栖が現れる。初めて現れた時と同じ制服を着て。
今日子は、有栖に感じていた違和感を伝える。
まずは有栖の見た目の年齢。
どう見ても、14、5歳に見える見た目。15年前にはまだ産まれていないだろう。それなのに、今日子を「知っている」と話すこと。
そして、もうひとつ。家の名前。
あのとき、騒動になって、一般人である相手の家の苗字は伏せられて報道こそされなかったが、渦中の今日子の耳には入った、はずだ。けれどその名前は「横溝」という名前ではなかった。じゃあ、その名前はと言えば、それを今日子は覚えていない。
それならば、と有栖は挑発的な態度で提案する。
確かめてみればいいのではないか。有栖が何者なのか。有栖が話していることは本当のことなのか。今日子が霊視で確かめればいい。
有栖の挑発に乗るかと思われた今日子だが、にらみ合う内、途端にやる気をなくしてしまう。もう何もかもどうでもいい。霊視しないと真実がわからないなら、真実なんて見れなくていい。大体、有栖が何者だろうと、なんで兄とやらの行方を捜しているのかも、自分には関係ない。今日生きていられたらそれでいいし、明日死んじゃうならそれも仕方がない。
そう、それに世の中の普通の人は皆、霊視だなんだってしちゃいないのだから。
拗ね始めて生きる気力を失くしたかのようにだらだらと姿勢を崩していく今日子の様子に、慌てたのは有栖のほうだった。挑発して、今日子のやる気を出させ、かつてと同等の能力を発揮してもらい、自分の目的を果たす。
有栖の想像のシナリオはそういう流れを描いていたが、相手はいかんせん、本当は占いと霊視以外何もできないダメ人間。《凄腕の霊能者》という世間で認識されていた姿のすべてが偽りではないものの、そのメッキを剥がせば出てくるのは、人に頼りながら自堕落に生きていくのがせいぜいの関の山な、ポンコツ人間だった。
いつの間にか様子を見ていたアパートの住人たちは、これが鹿喰今日子だ、と有栖に語る。
「だからこいつが嫌いなんだ」と、霊能者・鹿喰今日子に今でも変わらぬ憧れを抱き続けるオタク宮藤は、肩を落とす。
「俺はこいつが鹿喰今日子さんだなんて認めない!」と騒ぎ立てる宮藤を林がなだめすかす間に、ジギタリスはリモート端末から有栖に尋ねる。
「それで、君はどうする?」
この15年の間、自分の能力を捨てて必要最低限の自堕落な人生を送り、望みも行動も最小限に、内輪に内輪にと自分の人生を折りたたむようにして生きて、それで満足したつもりになっている鹿喰今日子を、まともな人間になれと動かすのは至難の業だ。
人は自分の生き方を、こうと決めたらなかなかそこから動かない。それは年を取れば取るほど重く固くなる。
それでも君は、他の方法を探すのではなく、他でもない鹿喰今日子を頼るのか。
答えに窮するも、家から大金を持ち出してしまい、今更帰ることができないと話す横溝有栖に、林は、
「なら、君もここに住んじゃえば?」
と軽々しく声をかける。
かくして、鹿喰今日子の因縁の相手であるらしい少女、横溝有栖がアパート御行の住人に加わることになる。
横溝有栖は、大金でも、挑発でも、泣き落としでも、頑なに動かない鹿喰今日子に、時に怒り、時に脅し、時に呆れながらも、世話を焼き、仕事を手伝い、次第に打ち解け合っていく。
そうして、15年前有栖の家で何が起きていたか、有栖の兄はどこへ消えたのか、今日子は有栖との因縁に向き合わざるを得なくなっていく。
