ラグジュアリーか、ストリートか? ジャズとファッションの100年
公開取材「ジャズキス」第7回のために、ジャズとファッションの100年をざっと追ってみました。
1910s以前
めちゃくちゃストリートカルチャーだったはずのジャズも最初はみんなスーツなんですね。というか当時のミュージシャンはジャズのルーツミュージックでもスーツが基本。クラシック音楽的な正装とされていたのでしょう。カジュアルな格好で演奏している画像は見つけられません。
音楽自体はクラシックではないので、ストリートミュージックをラグジュアリーな格好で演奏するというファッション観だったのか。
1)世界最古の大学マーチングバンド「バンド・オブ・ザ・ファイティング・アイリッシュ(ノートルダム大学・1845年)

2)バディ・ボールデン楽団(1905年)

3)ニューオーリンズのストリートミュージシャン(1850年代頃?)

4)アドルフ・カールソン・ワーバーグ「ルイジアナ州の奴隷居住区 1861-65年」

1920s:ジャズは最初の音楽ファッション
大体ジャズをファッション目線で語るとき、よく論じられるのは1940年代のビーバップ期におけるブカブカでイカつい「ズートスーツ」。これについての解説は菊地成孔氏のインタビューが一番わかりやすくて面白いです。
しかし、ロカビリーファッションをデザインしている「THE KING」さんのコラムにとても興味深い記述を発見しました。
<アメリカン・ストリート・ファッションの“はしり”ともいうべきスーツであり、1910年代末期に登場して「黄金の1920年代」の幕開けの一端を担ったのが「ジャズ・スーツ」じゃ>
ガチで???
と思ったら、本当らしい。20年代のジャズエイジにシカゴのジャズミュージシャンから流行したスーツで、しかも音楽ジャンルで名付けられたファッションはこれが最初だとか。これが本当に正確かどうかはさておき、少なくとも「ロック系やB系よりも先にジャズ系があった」ということになります。これには驚いた。
どんなスタイルかというと、これが後に流行るズートスーツと対照的にタイトなスタイルで「THE KING」さんは60年代ロンドンのモッズを連想したとか。モッズについては後述します。
1)デューク・エリントンのグループ(1920年代)

2)サム・ウッディング・アンド・ヒズ・オーケストラ(1925年)

3)ルイ・アームストロング(一番右) とホットファイブ(1928年)

1930~40s:スーツのストリート化?
20年代後半から流行に合わせてジャズミュージシャンのスーツのサイズはデカくなっていきます。そして前回に引き続き、ロカビリーのファッションブランド「THE KING」のボスによれば1939年にオーバーサイズのズートスーツが登場。
<スーツの伝統性の「破壊」、はたまた「パロディ」、いや「ブラックパロディ!」としか思えん、紳士服史上最初の衝撃的(一方では笑劇的!?)なファッションだったのじゃ>
ビーバップというよりも、最もジャズがポピュラーミュージックだったスウィング期にズートスーツが生まれたというべきでしょう。
ファッションリーダー的存在のひとりはキャブ・キャロウェイ。彼のバンドに1939年から2年間、後にチャーリー・パーカーとビーバップ運動を繰り広げるディジー・ガレスピーが参加していましたが、リーダーをナイフで刺すという問題行動を起こして辞めました。
またパーカーはカリスマ性がすごすぎて、着たまま寝たりしたクシャクシャなスーツでいるだけなのにそれを真似するフォロワーもいたとか。今でいうクラッシュデニムみたいな感じか。さらにガレスピーのトレードマークだった黒縁眼鏡は「バップ眼鏡」として売り出されるほどだった。ジャズメンがファッションアイコンだった時代。
それから40年代まではズートで決めたジャズミュージシャンが多い。
コテコテのズートではない、こなれた感じがカッコいいです。
1)デューク・エリントン・オーケストラのメンバーたち(1934年)

2)キャブ・キャロウェイ(1943年)

3)チャーリー・パーカー&ディジー・ガレスビー&マックス・ローチ(1940年代)

https://www.facebook.com/photo?fbid=1438430361066124&set=a.610995063809662
4)セロニアス・モンク、ハワード・マギー、ロイ・エルドリッジ、テディ・ヒル (1947年)

1950s:カジュアルダウンのアイビー期
1950sのハードバップ(ビーバップがポップになったもの)期から、アイビーファッションに身を包んだジャズミュージシャンが増え始める。要するにアメトラ(アメリカン・トラディショナル)。ボタンダウンシャツなどドレスダウンな感じ。
1)アートブレイキーとジャズメッセンジャーズ(1955年)

2)チェット・ベイカー(1955年)

3)マイルス・デイヴィス(1958年)

4)ジョン・コルトレーン(1959年)

1960s:一番クールとされる時期
モードやフリー、クラシックとの融合などジャズが多様化していく黄金期、それが1960sです。ジャズミュージシャン独自のアイビーファッションが洗練されていきました。上品で30年代前半よりもタイト。ボトムスは、ほとんどスキニーですね。
一番カッコいいとされる時代なんじゃないかな。この時期のジャズミュージシャンの着こなしこそがブルーノートレコードのクールなイメージであり、60年代イギリスのモッズたちが参照したスタイルでした。「モッズ」は「モダンジャズ」を語源としています。
1)リー・モーガン(1960年)

2)オーネット・コールマン・カルテット(1961年)

3)ジョー・ヘンダーソン(1963年)

4)マイルス・デイヴィス(1960年代)

https://www.reddit.com/r/OldSchoolCool/comments/a4bz4t/miles_davis_king_of_cool_1960s/
5)ビル・エヴァンス・トリオ(1966年)

6)ロンドンのモッズ(60年代)
1970s:スーツからの脱却
1970年代はロックやファンクからの影響でエレクトリック楽器が用いられたジャズロックが全盛となった時代。それに伴いジャズミュージシャンはスーツを脱ぎだします。マイルスは遅くとも69年には脱スーツ。数年前までスーツ着てたのにアフロヘアにベルボトムとか履いてて、変わり身がすごい。
全体的にカジュアルでストリートファッションですね。まったくラグジュアリーではない。ジャコ・パストリアスはウェザーリポート加入した最初のステージでキャップを被ってます。多分ジャズメンでキャップを被って登場した最初の人かもしれない。また、これ以降ジャズからモッズの影響を与えたようなファッションが提案されることはなくなります。
1)マイルス・デイヴィス(1973年頃?)

2)キャノンボール・アダレイ、ナット・アダレイ、デクスター・ゴードン、ジーン・アモンズ(1973年)

https://www.flickr.com/photos/edsijmons/8337576661
3)ハービー・ハンコック(1976年)

4)ジャコ・パストリアス(1976年)

1980s:多様化、“あえて”のスーツ
1980年代以降は4枚の写真で紹介しきれないくらい多様になっていきます。マイルスはもう晩年ですが、引き続きモードを追いかけてバブリー。特筆すべきは20代のウィントン・マルサリスがスーツにネクタイでアコースティックな演奏を始めたこと。ジャズ・メッセンジャーズは衣装がスーツでしたが、彼は流行ではなく明確に「哲学」や「伝統」としてスーツを着始める。ちなみにこの流れは90代に入って日本に入ってきます。
1)ウィントン・マルサリス&ブランフォード・マルサリス(1982年)

2)マイルス・デイヴィス(1987年)

https://www.photo123.ch/en/original-photograph/50015/miles-davis/
3)カルロス・サンタナ&マイケル・ブレッカー&ウェイン・ショーター(1989年)

4)ジョン・ゾーン(1989年)

https://www.instagram.com/p/CrleSTcurQj/
1990〜2000s:ジャズファッションの終焉
80年代は同じバンドのなかでは大体系統が同じだったのに、90年代以降はだんだん同じバンドでも違うスタイルの人が混ざっていても、何でもOKになっていきます。普段着で演奏しても、スーツで演奏しても何でもあり。
1)ジョシュア・レッドマン&クリスチャン・マクブライド(1994年)

2)ナット・リーブス&ケニー・ギャレット(1996年)

3)スティーブ・コールマン(1999年)

4)マーカス・ストリック・ランド&クリス・ポッター(2010年)

2010s~:ストリートラグジュアリー化
カニエ・ウェストやファレル・ウィリアムズ、ヴァージル・アブローらを象徴とする2010年代、ストリートウェアとラグジュアリーファッションの境界は急速に曖昧になった。
ロバート・グラスパー『Black Radio』(2012年)で名実ともにヒップホップと同等で語られるようになったジャズシーンでは、ラグジュアリーなステージでもTシャツ、パーカー、スニーカーもステージで着てOKになりました。
ストリートから生まれスーツで演奏していた時代から、ストリートウェアを着て演奏する時代へ。
では改めて、ジャズはストリートカルチャーなのか?
1)ロイ・ハーグローヴ(2010年)

2)ロバート・グラスパー(2015年)

3)サンダーキャット(2018年)

4)DOMi & JD BECK(2023年)

https://www.bluenote.co.jp/jp/reports/2023/05/11/domi-jd-beck.html
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