シャア専用ホースリールが9,900円で売れる理由。ガンダムが「大人の日常」に入り込んでいる
シャア専用のホースリールが発売される。
最初に見たときは、さすがに笑った。
そこまでシャア専用にするのか、と。
商品名は「機動戦士ガンダム ホースリール10m シャア専用モデル」。シャア専用ザクIIをイメージした赤いホースリールで、価格は9,900円(税込)。
普通に考えれば、ホースリールはホームセンターで買う日用品だ。
ところが、これを「シャア専用」にすると話が変わる。
単なるネタ商品に見えて、実はかなり面白いIPビジネスだと思う。
ガンダムは、もう玩具だけのIPではない
ガンダムといえばガンプラを思い浮かべる。
でも、最近の商品を見ていると、それだけではない。
工具箱、ドライバー、パーツケース、テーブル、コーヒーミル、アウトドア用品。そして今回のホースリール。
完全に生活用品の世界へ入ってきている。
考えてみれば当然でもある。
『機動戦士ガンダム』の放送開始は1979年。
当時10歳だった人は、2026年には57歳だ。
ガンプラを買っていた少年たちは大人になり、車を持ち、家を持ち、庭いじりをし、キャンプやDIYを楽しむようになった。
だったら、ガンダム側も一緒に追随すればいい。
ガンプラを売るだけではなく、ファンが今使っているものをガンダムにする。
今回のホースリールは、その象徴に見える。
「シャア専用」は日用品と相性がいい
中でもシャア専用は強い。
キャラクターグッズというと、大きくキャラクターの顔が描かれているものを想像する。
大人になると、これは少し使いにくい。
ところがシャア専用は違う。
赤い。
ジオンのマークがある。
型式番号が入っている。
それだけで成立する。
庭に置いても、ガレージに置いても、一見するとちょっと格好いい赤い道具だ。
分かる人だけが、
「シャア専用じゃん」
と気づく。
普通のホースリールなら価格比較される
ここからがビジネスとして面白い。
普通のホースリールを買おうと思ったら、Amazonやホームセンターで比較する。
10mなのか20mなのか。
軽いのか。
巻き取りやすいのか。
いくらなのか。
完全な機能比較になる。
ところが「シャア専用ホースリール」が欲しい人にとって、普通の赤いホースリールは競合ではない。
欲しいのはホースリールではなく、
「シャア専用のホースリール」
だからだ。
こうなると価格比較から抜け出せる。
成熟した日用品をIPによって別の商品に変えてしまう。
言い換えれば、
コモディティを非コモディティ化している。
ここが今回の商品で一番面白いところだと思う。
日本の成熟市場とIPは、実は相性がいい
さらに広げて考えると、日本企業にとって結構重要な話でもある。
人口が減れば、日用品の販売数量は伸びにくくなる。
ホースリールを毎年2倍売るのは難しい。
だからといって、機能を増やし続けるのにも限界がある。
軽量化しました。
巻き取りやすくしました。
収納しやすくしました。
競合も同じことをやるので、最後は価格競争になる。
そこでIPが効いてくる。
同じような機能の商品でも、
「シャア専用」
になるだけで、買う理由がまったく変わる。
しかも日本にはガンダムだけでなく、ドラゴンボール、エヴァンゲリオン、ポケモン、ワンピース、サンリオなど、何十年も愛されている巨大IPが大量にある。
これは日本が持つ、かなり特殊な資産だと思う。
次は何が「シャア専用」になるのか
ここまで来ると、次の商品を考えるのも面白い。
シャア専用高圧洗浄機。
シャア専用電動空気入れ。
シャア専用工具セット。
シャア専用ポータブル電源。
シャア専用芝刈り機。
このあたりは普通にありそうだ。
個人的には「シャア専用ロボット掃除機」を見てみたい。
赤い機体が家の中を自律走行する。
しかも通常モデルより高速。
設定としても妙にしっくりくる。
そして、そのうち「シャア専用老眼鏡」が出る
さらに10年、20年先を考えると、もっと面白い。
ガンダムファンも当然年を取る。
だったらIPも一緒に年を取ればいい。
シャア専用老眼鏡。
ジオン軍ウォーキングシューズ。
ガンダム健康器具。
シャア専用電動アシスト自転車。
今は冗談に見える。
でも、シャア専用ホースリールが本当に発売されたことを考えると、そこまで荒唐無稽でもない。
これまでキャラクタービジネスは、若い人をどう取り込むかという発想が強かった。
でも、長寿IPにはもう一つの戦い方がある。
昔からのファンと一緒に年を取ることだ。
10歳のときにはガンプラ。
30歳になったらアパレル。
40歳になったらキャンプ用品。
50歳になったらガレージ用品。
60歳になったら健康用品。
そうやって人生の横をずっと走り続ける。
考えてみると、とんでもなく強いビジネスだ。
シャア専用ホースリールを見たときは、
「そこまでやるのか」
と思った。
でも、調べていくと逆だった。
まだまだ、やれる。
ガンダムが玩具市場から飛び出したというより、40年以上かけて育てたファンの生活そのものが、新しい市場になっている。
そう考えると、この9,900円の赤いホースリール。
意外と、長寿IPビジネスの未来を先取りした商品なのかもしれない。
