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【展覧会レポ】アーツ前橋「リキッドスケープ 東南アジアの今を見る」

【約5,100文字、写真約50枚】
初めてアーツ前橋へ行き「リキッドスケープ 東南アジアの今を見る」を鑑賞しました。その感想を書きます。

▶︎ 結論

1)東南アジアの作家だけを集めた作品群から、その地域特有の国民性や地域性がアートに反映されることがよく分かった、2)日本の特殊性にも目を向けるきっかけとなった、3)アーツ前橋の過去の問題を調べるにあたり、組織運営におけるガバナンスの重要性を再認識できた。

おすすめ度:★★★☆☆
会話できる度:★★★☆☆
混み具合:★★☆☆☆
展覧会名:リキッドスケープ 東南アジアの今を見る
場所:アーツ前橋
会期:9月21日(土)~12月24日(火)
休館日:毎週水曜日
開館時間:10時00分~18時00分
住所:群馬県前橋市千代田町5丁目1−16
アクセス:前橋駅から徒歩約10分
入場料(一般):1,000円
事前予約:ー
展覧所要時間:約1時間
撮影:全て可能
URL:https://www.artsmaebashi.jp/?p=20820 


▶︎ 訪問のきっかけ

アーツ前橋にて

群馬旅行を計画した際、現代アートを見られる美術館を調べたところ「アーツ前橋」「原美術館ARC」が候補にあがりました。過去「作品紛失問題」で名前を聞いたことがあったため、アーツ前橋へ行くことにしました。

▶︎ アクセス

前橋駅(南口)

アーツ前橋へは、前橋駅(北口)から徒歩約10分。高崎駅から前橋駅は電車で約15分で行くことができるため、アクセスは比較的良いです。

前橋駅(北口)
駅からほぼ真っ直ぐ
看板もあって親切

住所:群馬県前橋市千代田町5丁目1−16

アーツ前橋は、空きビルだった西友リヴィン前橋店 WALK館を改修した後、地上1階・2階、地下1階を利用しています。

地下1階から地上2階までがアーツ前橋

前橋には、タカ・イシイギャラリーや小山登美夫ギャラリーが同居する「まえばしガレリア」、JINSの代表・田中仁さんが引き継ぎ、再生した「白井屋ホテル」があるなど、意外と現代アート盛りだくさんの街です。

周辺のアートマップ

▶︎ アーツ前橋とは

美術館の全景

アーツ前橋は、2007年に前橋市の美術館構想として検討が始まり、2013年10月にオープン。「アーツ前橋」という名前や建物の見た目、今までの展覧会の性質から、私立の現代アートに特化した美術館だと思っていました。しかし、実際は、公立の美術館で、現代アートメインでもありませんでした。

パンチング加工のような建物の外壁
ゲゲルボヨの作品(インドネシア)
入ってすぐ左にあるカフェ

実際は、現代アートだけでなく「地域ゆかりの作家の作品」「美術館の諸活動に関連した作品」「アートの想像力によって地域に貢献できる作品」の収集を積極的に行っている美術館です(収蔵品は約900点)。

可愛いグッズ
おしゃれなステッカー
1つ購入

しかし、私が訪問した時、収蔵品の展示は1つもありませんでした。収蔵品の展覧会をせずとも、施設内やカフェなどに数点でも展示した方が、前橋市民のためにもなるのではないでしょうか。

また、収蔵品をWebで見ると、渋い作品が多いです。今までの展覧会のテーマと、収蔵品の作風が異なる点は、アーツ前橋がどういうアートの方向性を向いているのか、違和感を抱きました。

ショップ内のお絵描きスペース
お絵描きスペースはすべての美術館に併設すべき
朝鮮学校との取り組み
ショップを抜けて、受付へ

特別館長は、森美術館特別顧問でもある南條史生ふみお。館長は、兵庫県立美術館で学芸課長を歴任した出原ではら均。館長らの性質を見ても、現代アートに強みをもたせたい意向が見えます。

公立美術館として「アーツ前橋運営評議会報告」を定期的に開示しています。市民にとって議論のベースになるため、重要なプロセスだと思います。

「<アーツ前橋という組織が全体として何を目指していくか>という基本や指標がどのようなものか、それに基づく柱が何なのかが分からない。」
「基礎資料を共有していただきたい(紙で資料が欲しい)。」

「委員」からのコメント

29回も評議会を開いてて今ソレ言うんかい!事前にWebサイトなりしっかり読み込んでこんかい!と、ツッコミどころがあって興味深いです。なお、私も「アーツ前橋の強みは何か?」が見えてこなかった点は、上記の通り課題だと思いました。

「前橋プラザ 元気21」の屋上には、美術館開館時に設置されたパブリックアートを見ることができます。日本とイタリアで「空の交換日記」を通して制作した作品です。

アートの説明
廣瀬智央《空のプロジェクト:遠い空、近い空》
設置から10年経ち、色褪せが目立つ
屋上に上がれるのも楽しい
車はほぼないため安全
前橋の景色も楽しめる
地上からも作品が見える

▶︎ 「リキッドスケープ 東南アジアの今を見る」感想

メインロゴ

東南アジアでは、急速な経済発展と都市開発が進み、変化するライフスタイルの中で多様な生活が営まれています。一方で、過去の歴史や風景、土地に根差した信仰、自然との関係も社会の底流には存在しています。(略)流動する東南アジア地域の文化、社会の状況を「リキッドスケープ(流動する風景)」と名付け、12組の作家による展覧会で紹介します。(略)共通して見られるのは、流動する風景の中で、「どこから来てどこへ向かうのか」という問いに答えようとする作家たちの眼差しと試みです。

公式サイトより

要は、東南アジアのアーティストに限定した作品から、何か新しい発見があるのかな?と楽しむ展覧会です。

チケット
撮影OK

東南アジア」と言えば、さまざまな国、島、民族、宗教、文化が混ざり合い、過去には日本も含めて多くの国から統治された過去をもつ地域です。

ゲゲルボヨの作品群(インドネシア)
インドネシアならではの文化
日本統治の歴史も

現在、それぞれの国は独立し、固有の歴史や文化をもっているように思います。しかし、何をもって国家は「統一」と言えるのか、国間の「共通」と「差異」、国ごとのアイデンティティの「確立」と「揺れ」などを意識するような展覧会の構成になっていました。

また、会場ではさまざまな映像や音が混ざり合うことで、東南アジアの多様性や「わちゃわちゃ感」を感じられるキュレーションだと思いました。

エレベーターで地下へ移動

今回の展覧会では、出身国(タイ、インドネシア、シンガポールなど)を意識することで「なるほどぉ」「確かにぃ」と唸る場面も多かったです。

ウィット・ピムカンチャナポン《果てなき迷路》(タイ)
時間によって壁が上下して迷路の形が変わる
「仏陀の悟りへの旅を反映した体験に誘う」意図があるらしい
ホー・ツーニェン《CDOSEAのAからZ》(シンガポール)
「東南アジアは何を持って結束しているか」を問う
チャールズ・リム《海況6、フェーズ1》(シンガポール)
石油精製によってできた巨大な人工島で「自然」「人工」の矛盾を突く

前橋を歩くと、東南アジア出身と思われる方を見ることが多かったです。そのような前橋の一面も、この展覧会を企画した趣旨の一部かもしれません。

ピンクの部屋は、靴を脱いで入る
ナターシャ・トンテイ《炎に包まれた庭》(インドネシア)
スラウェシ島を舞台にしたファンタジー映像
カウィータ・ヴァタナジャンクール《母と私I(掃除機III)》(タイ)
自分の体を道具化し、女性の社会的立場の低さを訴える
《杼》
チトラ・サスミタ《ティムール・メラ》(インドネシア)
バリ島に伝わる絵を、現代社会や女性をテーマにアレンジ
『寄生獣』みたい…

東南アジアにおける女性問題(地位の低さなど)を取り扱った作品も展示されていました。2024年に発表されたジェンダーギャップ指数では、シンガポールは48位、タイは65位、インドネシアは100位、日本は118位でした。

先進国と言われている日本は、ジェンダーギャップ指数が圧倒的に劣っています。特に「経済」「政治」が指数の足を引っ張っているようです。同じ「女性」をテーマにした作品でも、作者が東南アジアの人と、日本人では、作品の見せ方やメッセージ性が変わってきそうだ、と思いました。

ハーディム・アリー + ムムターズ・カーン・チョパン + アリ・フロギー + ハッサン・アティの作品群(パキスタンやアフガニスタンからインドネシアに移住)
ナウィン・ヌートンの作品群(タイ)
タイの神話とゲーム・コミック・映画をミックス

なお、会場に看視員が多過ぎることに加え、少し過干渉だと感じました。看視されると強く感じることで、作品鑑賞を楽しみづらくなります。

コラクリット・アルナーノンチャイ《From Dying to Living》(タイ)
ごちゃごちゃしてて東南アジアっぽい

▶︎ まとめ

買ったポストカード。金子英彦《スクラップ人間》

いかがだったでしょうか?東南アジアのアーティスを集めるという切り口の展覧会は稀です。企画が新鮮だったことに加え、その国独自の価値観は、アートにもしっかり反映されることを、改めて認識できました。また、1つの大きな島国である日本に住んでいると、多民族国家、宗教の違い、他国に支配された歴史などを認識する場面は少ないため、東南アジアと比べた時の日本の特殊性にも、気付くきっかけとなりました。

▶︎ 今日の美術館飯

★3.5/パーラーレストラン モモヤ (群馬県/中央前橋駅) - tontonオムライス (¥1,150)、プリン・ア・ラ・モード (¥580)

▶︎ おまけ(作品紛失問題について)

全国ニュースになった、アーツ前橋の作品紛失問題。結論から言うと、管理体制の問題ではなく、美術館のガバナンスの問題だと私は思いました。

✔️ 事件の経緯

2018年12月:遺族の家から旧前橋市立第二中学校のPC室に52点を搬入。
2019年3月:37点をアーツ前橋へ移送。残り15点は旧二中のPC室に保管(紛失作品は現存)。
同年11月:52という作品点数を遺族が初めて連絡を受ける。
同年12月:副館長が、旧二中で捨てられては困るものを整理するよう指示。副館長・事務職員・別室担当の学芸員が借用作品と学校備品の境界を区分け(担当学芸員は不在)。同月内に処分。
2020年1月:担当学芸員が作品3点の紛失を認識、元館長に報告。
同年2月:さらに3点の紛失を確認、計6点の紛失が判明
同年4月:住友元館長は紛失の公開を拒否。
同年6月:担当学芸員が遺族を訪問(紛失は伝えず)。
同年7月:担当学芸員が、遺族へ紛失を電話で報告
同年8月:館長と担当学芸員が別の遺族が「報告が遅過ぎる」と怒る

✔️ 住友元館長ほかのコメント

担当学芸員は「現在は調査中というかたちで、保留にしておくのが良いのではないか」と文書にまとめていました。

住友元館長は、紛失が判明したものの「(紛失した)3作品はコンディションの都合で候補にすることを見送る」と委員へ、事実と異なるような説明をしました。

また、調査報告書には、住友元館長が「作品リストを更新して(書き換えて)、紛失した作品は最初から借用していなかったと遺族に伝える」「2022年に作家の企画展を提案し、その終了後に紛失の事実を伝えるか判断する」と提案したことが記されています。

文化国際課長らは「事実を遺族に伝え公表すべき」と住友元館長に伝えたものの「いま相手方に話してマスコミに公表されてしまうとアーツ前橋の信用が落ち、他館からの作品借用などができなくなり、館運営に支障をきたす」と、自分勝手な反論をしていました。

加えて、学芸員の残業時間が月80〜100時間の過労死ラインを超えたり、非正規雇用の学芸員の残業代の未払いがあったそうです。さらに、住友元館長は、週に数回来館した際、学芸員からのプレゼンテーションに代替案も出さずに否定、無責任に会議が長時間になることもザラだったそうです。

✔️ 所感

人間が何かをする以上、ミスは絶対にあります。それに対して素直に「ごめんなさい」した後、同じ過ちを繰り返さないことが重要だと思います。

隠蔽しようとした担当学芸員は悪いです。しかし、それを容認し、正しい方向に導かなかった住友元館長は、責任者としてもっと悪いです。

作品紛失問題の主因は、住友元館長が、1)「バッドニュースファースト」を徹底せず、正しいことをするように指導しなかった、2)リーダーシップを発揮せず、人の上に立つべき素質がなかったことだと思いました。また、悪いことを悪いと言えない職場は、ガバナンスが欠如している証左です。

今でも「アーツ前橋=作品紛失問題」と紐付ける人が多いと思います。信頼回復には時間がかかります。実効性と透明性のある「アーツ前橋運営評議会報告」を実施・開示しながら、質の高い展覧会を愚直に続けていくことが重要だと思いました。


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