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【なお社長のお茶のみトーク Vol.11】クローザーの流儀



テレビマンが脱いだ「20キロの防弾チョッキ」


ふわふわのリコッタパンケーキで有名な「bills」でお会いした今日のゲストは、KBCグループホールディングスの取締役、またグループ会社“株式会社KBC MoooV”で代表取締役社長を務める佐伯拓史さん。
報道記者、海外特派員、番組プロデューサー、そして経営者へ。
テレビというメディアと共に歩んできたそのキャリアを伺うと、想像以上にドラマチックでした。
世界を駆け巡った元報道記者であり、数々の番組を立ち上げ、そして「終わらせて」きた、メディア界の「クローザー」。
今だから話せる「心の鎧」の脱ぎ方について、じっくりと耳を傾けました。


29歳、ニュース編集長になる

佐伯さんがテレビの世界に興味を持ったのは大学生の頃。
「報道に関わりたい。ニュースを伝える仕事がしたい」
その思いから地方のテレビ局に就職しました。当時は「地方の時代」と言われていた頃。地域でニュースを伝える仕事に可能性を感じていたそうです。

ところが、キャリアは思わぬ方向に進みます。
入社から数年後、まだ20代の佐伯さんに突然言い渡されたのは、「ニュース編集長をやれ」でした。
しかも29歳。本来は50代のベテランが担うような役職です。
経験豊富な40代、50代の記者たちに「この原稿は短くしてください」「この構成は違います」と指示を出す立場になった若手編集長。言葉にできない摩擦と孤独がありました。
それでも会社のミッションはただ一つ。「ニュースを変えろ」。

当時、テレビのニュースを大きく変えた番組がありました。
それが『ニュースステーション』
原稿だけで伝えるニュースから、視覚的に「見せるニュース」へ。
段ボール箱100個が証拠品として押収された事件なら、実際に箱を積み上げて見せる。「100個」という数字が目で理解できるニュースに変わる。
その表現方法を毎日研究してはローカルニュースに落とし込んでいったそうです。

「ミッションを達成できたと思ったことは一度もない」


ウィーンから始まった戦場の取材

その後、30代になって海外特派員の道を歩みます。
赴任先は、音楽の都として知られるオーストリアのウィーン…なのですが。

「ウィーンにはニュースがないんですよ」

実はウィーン支局は遊軍支局と呼ばれる拠点。何か事件や紛争が起きたら、そこから世界中へ飛んでいく役割でした。

【自衛隊のルワンダ難民教護派遣を取材。1994年ザイール(現コンゴ民主共和国)ゴマにて】


最初の取材先はアフリカ。その後も旧ユーゴスラビア紛争のサラエボ、中東、南米など、18の国と地域を取材。まさに最前線です。
内戦下のサラエボでは、オリンピック会場だったスタジアムが墓地になっていました。壁に弾痕が残るホテル、電気もガラスもない客室、それでも営業しているレストラン。

「サラエボに入るとき、20キロの防弾チョッキと防弾ヘルメットを装備して行ったんです。でも、現地のコーディネーターに『そんな格好をしていたら、撃ってくださいと言っているようなものだ』と一蹴されて」

身一つで歩き、現地の人と同じものを食べる。そのレストランで出された皿は、サラエボ五輪の記念プレート。「昔は多くの民族が集う平和な国だった」…その誇りを静かに伝えたいというメッセージだったそうです。
ニュースの現場は、人の尊厳や希望が交錯する場所でもあるのですね。

メディアで伝えきれない「現実」とのあまりの乖離に、佐伯さんはもどかしさを感じたといいます。
何を伝えるかは社会によって変わる…そのギャップに何度も葛藤したそうです。


「壊す」ことで生まれる新しい未来

帰国後の佐伯さんに待っていたのは、再び「変革」のミッションでした。
“報道と制作”という水と油のような組織を融合させ、朝番組の形をつくる。
それが、今の福岡の朝の顔であるテレビ番組『アサデス。』の礎を築くことに繋がっています。
そこで佐伯さんが担った役割は、前に立つ表方ではなく裏方。
調整、準備、段取り。

「誰かが後ろを守らないといけない」

海外取材の現場経験から、チームビルディングの面白さに目覚めたそうです。

「新しいものを作るのは、大変は大変ですけど、思ったほど難しくはないんです。みんなが前を向いているので。一番難しいのは、それまでの伝統や思い入れをリスペクトしながら『壊す』こと。僕は、周囲からクローザー(終わらせる人)なんて呼ばれることもありますが、“仕上げ”を任される大切な役割だと思っています」

野球で言えば、試合を締めくくる抑えの切り札。
ビジネスでは、契約をまとめる最後の交渉人。
でも佐伯さんにとってのクローザーは、未来への橋渡し役なのだと感じました。

成功しているときほど、終わらせるのは辛い。
けれど、古い椅子を片付けなければ、新しいソファは置けません。
佐伯さんは、組織が未来へ向かうために、あえて嫌われ役を引き受けてきたのでした。


71万人が来た「阿修羅展」と無駄じゃない経験

番組以外でも、佐伯さんらしいエピソードがあります。
福岡の九州国立博物館で開催された「国宝阿修羅展」。
想定来場者は20万人、ところが結果は71万人、6時間待ちの行列。

そこで役立ったのが、なんとゴルフトーナメントの運営経験。
人の流れ、導線、入場コントロール。さらに、阿修羅像の前で人が止まらないようスタッフが声を掛けながら15歩ずつ移動するという方法を取り入れました。
最初は批判もあったそうですが、やがて来場者が一緒に楽しむようになったそうです。
「無駄な経験はない」…まさにその通りですね。


鎧を脱いで、星と言葉で寄り添いたい

そんな佐伯さんが今、見つめているのは「働く人の幸せ」です。

「社員の家族が、お父さんやお母さんの仕事を誇りに思える会社にしたい」

子どもたちが「お父さん、お母さんの仕事すごいね」と目を輝かせている光景を見ること…それが今の目標だそうです。
「マスゴミ」などという辛辣な言葉が飛び交う現代において、テレビを作る人たちが誇りをもってワクワクしながら働ける場所を作ること。
報道は、心身を鍛錬し人間性を高める「道(どう)」である、その価値を次の世代に伝えたいと話してくれました。


そして意外なことに、現在の佐伯さんは「星占い(ホロスコープ)」を勉強中なのだとか。それは、カウンセリングやキャリアコンサルティングと組み合わせた"心の勉強"の一環。

「経営者は24時間、心の鎧を着て戦っている。そんな人たちの話をじっくり聞いて、少しだけ鎧を脱がせてあげたいんです」

カウンセリングと聞くと構えてしまう方も多い。そんなとき、ホロスコープがアイスブレイクになれば…という柔らかな発想が、いかにも佐伯さんらしい。
かつて20キロの防弾チョッキを脱いで戦場を歩いた佐伯さんだからこそ、誰かの心の重荷を下ろすことができる。そんな優しさに触れた、温かなティータイムでした。


【今回のお茶飲み友達】
佐伯 拓史(さえき ひろし)さん
KBCグループホールディングスの取締役兼KBCMoooV代表取締役社長。テレビ業界一筋のメディア人。報道記者としてキャリアをスタートし、20代でニュース編集長という異例の抜擢を経験。海外特派員としてアフリカや旧ユーゴスラビア紛争など世界18の国と地域を取材した経歴を持つ。その後は番組プロデューサー、編成、事業などテレビ局のさまざまな改革を担い、「クローザー(終わらせる人)」の異名も。裏方の仕事をこよなく愛する静かな情熱の持ち主でありながら、現在は星占いの資料をカバンに忍ばせ、迷える経営者の背中をそっと押す「星読みの騎士」への転身を画策中。ユーモアを解する大人の余裕と、時折見せる報道マンとしての鋭い眼差しのギャップが魅力的な福岡メディア界の名物社長です。

【今回のお茶飲みスポット】
bills(ビルズ)
https://www.billsjapan.com/jp
住所:福岡市中央区西中洲13-1水上公園内 SHIP’S GARDEN 1階
営業時間:
曜日によって営業時間が違います。ご確認ください。
「世界一の朝食」と称されるリコッタパンケーキで有名なオーストラリア発のカジュアルダイニング。開放感あふれる空間は、今回のような深い対談にもぴったり。海の気配を感じる窓辺でゆったりと味わうコーヒーは格別です。


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