【なお社長のお茶飲みトーク Vol.21】60歳から、人生はもっと面白くなる。
「会社を卒業してからが本番」という生き方
静岡県三島市にある地域のコミュニティ拠点「みしま未来研究所」。今回の「なお社長のお茶飲みトーク」は、どこか懐かしく温かい木造の空間で始まりました。
お相手は、元・大手メーカーのトップ技術者であり、現在は地域のものづくり企業を泥臭く支える熱いコンサルタント、野毛由文(のげ よしふみ)さんです。
私たちが何気なく使っている「あの切符」の誕生秘話から、定年を前に湧き上がった葛藤、そして驚くほど情熱的な現在のライフワークまで、胸が熱くなるお話をたくさん伺ってきました。
新幹線の切符を作った男が、41歳で直面した「青天の霹靂」
野毛さんは、根っからの理系人間。新卒で株式会社リコーに入社し、コピーやプリンターの消耗品開発に没頭する技術者人生をスタートさせました。
彼の手がけた仕事のスケールには本当に驚かされます。私たちが普段利用しているJR東日本の首都圏の切符や、東海道新幹線の切符の「裏表のレシピ」を開発したのが、まさに野毛さんなのです。
表面にきれいに印字される熱の化学薬品と、裏面の改札機でトラブルを起こさない磁気記録の絶妙な配合。日本中の誰もが一度は野毛さんの作ったプロダクトにお世話になっていると言っても過言ではありません。
まさに花形開発リーダーとして順風満帆だった41歳の時、突然の辞令が下ります。
「営業へいきなさい」
ずっと技術の殻にこもっていた野毛さんにとって、それは青天の霹靂でした。しかしここからが野毛さんの凄いところ。口上手な営業マンを目指すのではなく、圧倒的な「技術の知識」と「顧客への傾聴」を武器に、気づけばトップセールスへ。
開発、生産立ち上げ、営業、商品企画に品質保証まで…ものづくりの「作る・売る・守る」を一気通貫で語れる、非常に珍しいキャリアが生まれていきました。それはやがて、野毛さんが最も愛する「戦略を組み立てるクリエイティブな仕事」の土台となっていきます。
57歳、「会社に残るほうがリスクじゃないか?」という気づき
充実した日々を送っていた野毛さんですが、57歳の時にふと立ち止まります。
定年を迎えた先輩たちの多くは再雇用として会社に残るものの、どこかルーティン化された仕事に収まっていく現実を目の当たりにしていました。
「このまま大好きな『戦略を組み立てるクリエイティブな仕事』ができなくなっていいのだろうか。会社を完全に卒業する65歳の後に、まだ20年も30年も人生があるのに」
短期的な安定を選んで会社に残ることこそが、長期的な人生の最大のリスクではないか…。そう直感した野毛さんは、再雇用を選ばない道へと舵を切ります。
最初は塾のフランチャイズ経営を思い立ち、本部にまで乗り込みましたが、奥様に「一体何を考えているの!」と猛反対されあえなく撃沈。
しかしそこで諦めず、初期投資がほとんどかからない「個人コンサルタント」という生き方を見つけ出し、59歳の時に覚悟を決めて退職届を出したのです。
どん底の3年間と、ワークマンの作業服に込めた魔法
「60歳で独立したら、すぐに引っ張りだこになるだろう」
そんなワクワクした気持ちでスタートした野毛さんを待っていたのは、コロナ禍という過酷な現実でした。登録した顧問エージェントからは思うように案件が来ず、退職金を切り崩し、奥様の給料に頼らざるを得ない焦りと苦しみの3年間。
それでも歩みを止めませんでした。
商工会議所や信用金庫のマッチングの仕組みを泥臭く調べ上げ、100社以上の社長さんたちのリアルな悩みをひたすら聞いて回る。コツコツと提案書を出し続けた結果、現在は製造業を中心に約10社のがっつりとした経営支援を行うまでに大復活。
独立4年目にして、会社員時代に密かに誓っていた「再雇用で残った場合の給与を上回る」という目標を鮮やかに達成されました。
「今思えば、あの3年間は種まきだったんです」
その言葉が、とても印象的でした。花が咲く前には、土の中で根を伸ばす時間が必要。人生も同じなのかもしれません。
そんな野毛さんのコンサルタントとしてのこだわりが、またユニークで素敵なんです。
「製造業の会社に行く時は、どれだけ偉い社長さんとの商談でも、絶対にスーツではなく自前の『ワークマンの作業服』を着ていくんです。現場の従業員の方々との心の距離を少しでも縮めたいから」
この謙虚さと現場への愛こそが、多くの経営者から絶大な信頼を寄せられる野毛さんの魔法なのだと感じました。
夜11時の音楽室バトルと、6年越しの「夫婦の野望」
野毛さんのパワフルさは、仕事だけにとどまりません。学生時代から続けるヴァイオリンでは現在2つの楽団の正団員を務め、大ホールのステージに立っています。さらにトロンボーンの演奏や地元ジュニアブラスの指導までこなし、ヴァイオリンとトロンボーンで年間20回もコンサートやイベントに出演している音楽人でもあります。
今年、家を建て替えた際にプロ仕様の防音扉を備えた本格的な「音楽室」を作りました。実は奥様もオーケストラでチェロを弾く演奏家。
夜の11時を過ぎると、
「次は私が使う!」「いや俺だ!」
と、夫婦で防音室の激しい取り合いバトルが勃発するのだそう。
思わず笑ってしまいました。
6年前、野毛さんの独立に「全く理解できない」と大反対していた奥様は、今や最大の理解者。
「近いうちに合同会社を作って、カミさんを巻き込んで二人で会社をやろうと思っているんです。僕が独立してから芽が出なかった3年間、彼女がずっと支えてくれた。だから今度は僕が『3年間は失敗してもいいから自由に遊んでいいよ』って恩返しをする番なんです」
そう照れくさそうに笑う野毛さんの優しさに、私は胸がいっぱいになってしまいました。
帰る頃には、「定年」という言葉の意味が、私の中で少し変わっていました。
会社を卒業することは、終わりではない。積み重ねてきた経験を、もっと自由に、もっと自分らしく社会へ返していくスタートなのかもしれません。
人は、お茶を飲みながらだからこそ話せることがあります。
60歳からの人生がこんなにも豊かで面白いと、野毛さんが教えてくれました。
次は、どんな人生に出会えるでしょうか。

【今回のお茶飲み友達】
野毛 由文(のげ よしふみ)さん
ものづくりデザインラボ 代表
リコーでJRや新幹線の切符を開発した元・花形技術者であり、営業から品質保証まで網羅したスーパーOB。60歳で「再雇用はリスクだ!」と飛び出し、どん底の3年間を経て、ワークマンの作業服を正装に中小企業を救う凄腕コンサルタントへ大変身。ヴァイオリンとトロンボーンを操り年20回ステージに立つ音楽の鉄人でもあります。夜11時の防音室争奪戦で奥様と競り合う、愛妻家な一面が最高のチャーミングポイント。「仕事も音楽も人生も、まだまだこれから」そんな言葉がぴったりの魅力あふれる方でした。
▶ものづくりデザインラボ
▶note https://note.com/monozukuri_d_lab/n/n1f25fd606ddb
今回のお茶飲みスポット】
みしま未来研究所
https://mishima-mirai.com/
住所:静岡県三島市中央町6−2
静岡県三島市にある、元幼稚園の建物をリノベーションして生まれたコミュニティスペース兼コワーキングスペース。一歩足を踏み入れると、どこか懐かしく温かい木造の雰囲気に包まれます。コワーキングスペースでの仕事はもちろん、多種多様な人々が自然とつながれる場所。野毛さんが独立直後から「自分の新しい居場所」として愛し、新たなご縁を育み続けている三島の素敵な未来の基地です。

