【小話】What`s new?

「おれのこと、まだ恨んでるかい?」

言いたい事は山ほどあった。
だが一度は本気で憎んだ面が、目の前で憔悴を滲ませている姿を見て、おれの気もいくらか晴れてしまったようだ。
「恨み言だけで許せる相手なら、とっくにこの手で殺してる」
3年前に突然姿を消した男は、あの頃と比べれば少しだけ老け込んだように見える。カウンター越しに投げつけた、物騒なおれの返事にも小さく笑っただけで、まるで老人の様に掌でバーボンのオン・ザ・ロックを転がしている。
琥珀の波を見つめる、同じ色。
それだけは、あの頃と少しも変わっていないのに。
 
かつてこの色に憧れ、一度だけ自分からカウンターを越えたことがある。
以来、三日に一度はおれの店に立ち寄っていた男が、ある日を境に突然、何の前触れもなく消息を絶ったのだ。
「本当に死んだと思ってたんだ」
仕事柄、あり得なくなかった恐怖は常にこの男に纏わりついていた。それがいつ現実となるかと、あの頃の自分はいつもどこかで怯えていたように思う。
こぼれ落ちたおれの本音を受け止めるでもなく、二本目を灰にした所でようやく男はグラスに口をつけた。滑らかに揺れているあの頃と同じ味を、ささくれた唇の奥にとろりと流し込んでいく。目の端に映り込んだ姿は、3年という空白を一瞬で埋めるほど見慣れた光景に似ていた。
 
「何かあったのか?」
閉店後にようやく口にできたそれが、おれにとってどれほどのものだったか。
堪え難かった現実を受け入れた時から今日まで、おれが一体どんな思いで過ごしてきたのかなど、この男には知る由もないのだろう。
そして「別に」とだけ返した声にも、同じような感情の抑制があったのかもしれない。

「ただお前に逢いたくなっただけだよ」だなんて。
昔に比べて嘘の付き方が下手くそになってるからさ。

初出典:2019年「Night Starker」(改稿:2026年1月4日)

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