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ごくせん(2002)視聴率17.4%の衝撃――松本潤・小栗旬を生んだ”配役の逆転”とは

2002年、水曜の夜10時にチャンネルを合わせると、そこにはヤクザの娘が教壇に立っていた。

《ごくせん》は、2002年4月17日から7月3日まで日本テレビ系水曜10時枠で放送された
学園ドラマだった。
森本梢子の漫画を原作に、
任侠集団・大江戸一家の跡取り娘が正体を隠して高校教師になるという、シンプルといえば
シンプルすぎる設定だった。
平均視聴率は17.4%。最高視聴率は最終回の23.5%。
当初は全11話の予定だったが、放送開始から
高視聴率が続いたため第5話放送後に
延長が決まり、全12話になった。
現場が視聴率に追い越された、
数少ない例だった。
主演の仲間由紀恵は、このドラマで一気に
国民的女優の座に近づいた。
《TRICK》で見せていた飄々とした空気とはまるで違う、ジャージ姿で怒鳴る熱血教師。
そのギャップ自体が話題になった。
キャッチコピーは
「あの(長髪)先生より人情家。
あの(グレート)先生より無鉄砲。」。
金八先生でもGTOでもない、第三の熱血教師像として、ヤンクミというキャラクターが茶の間に定着していった。

このドラマを語るとき、どうしても外せないのが生徒役のキャスティングだ。
沢田慎役の松本潤、内山春彦役の小栗旬、
南陽一役の石垣佑磨、野田猛役の成宮寛貴、
熊井輝夫役の脇知弘。
さらに毛利研一役で松山ケンイチ、
大石雄輔役で上地雄輔。
撮影当時、松本潤は18歳。
まだ嵐としての国民的人気もなく、
《花より男子》で大ブレイクする前だった。
小栗旬は19歳。
《GTO》でいじめられっ子を演じた4年後、
今度は金髪の不良として現場に立っていた。
面白いのは役名の付け方だ。
慎・内山・熊井・野田・南という主要5人の
名前は原作漫画に由来するもので、演者本人とは無関係だった。
松本潤は"松本潤"ではなく、あくまで沢田慎として存在していた。
ところが、原作にいない大勢のモブ生徒たちの
下の名前には、演者自身の本名がそのまま使われている。
大内政行の演者は泉政行、
織田浩司の演者は金沢浩司、といった具合だ。
唯一まったく無関係な名前になっているのが
ウエンツ瑛士演じる結城正人で、
これが例外にあたる。
つまりこのドラマは、主役級には原作の記号性を守らせ、脇に回るほど"素"に近づけるという、
逆転した匙加減でキャストを組んでいたことになる。
目立たない生徒ほど"本人"に近く見え、
目立つ生徒ほど"役"として立っている。
この距離感の操作が、教室というアンサンブルにリアリティと虚構性を同時に持たせていたのだろう。
そしてこのキャスティングは、
事務所の壁を越えていた。
ジャニーズの松本潤、ホリプロの小栗旬、
当時まだ無名だった松山ケンイチや上地雄輔。
バラバラの出自の若手を一つの教室に放り込んで、結果的に多方面のスターを同時に輩出することになった。
現場の人間関係すら、後になって"物語"の一部になった。
松本と小栗は当時、決して仲が良くなかったという。
小栗が「いけ好かない野郎だと思っていた」と
後年語っているのは有名な話だ。
それが《花より男子》での再タッグにつながっていくのだから、現実のほうがドラマより出来すぎている。
ロケ地となった実践女子短期大学は、
1998年の《GTO》でも使われた学校で、
小栗旬はこの2作の両方に出演している。
同じ教室、同じ廊下で、
いじめられっ子から不良のリーダー格へ。
主題歌にも、似た構図があった。
V6の《Feel your breeze》が主題歌になった裏には、同時期にTBS《木更津キャッツアイ》で
V6の岡田准一が主演し、その主題歌に嵐の
《a Day in Our Life》が起用されていたという
"貸し借り"があった。
借りを返す形で、松本潤が出演する《ごくせん》の主題歌にV6が起用された。
ドラマ単体の勝負ではなく、事務所を横断した
プロモーションの中で番組が回っていた。
視聴者が意識しないところで複数のコンテンツが手を組んでいた、いわば初期の
メディアミックス的な仕掛けである。

自分の家では、正直なところヤンキーというもの自体からすでにかなり距離があった。
だからこのドラマは、リアルな不良の記録というより、完全に別世界の物語として観ていた。
それまで観てきた学園ドラマのような、
生活に食い込んでくる重さはなかった。
ヤクザの家の娘が先生になって、
生徒たちとわちゃわちゃやる。
ただそれだけの、娯楽としての気楽さがあった。それはそれで、素直に楽しかった。
90年代の《湘南爆走族》や《特攻の拓》、《GTO》が背負っていた不良像の実感が、2002年にはすでに薄まりつつあった。
携帯電話とネットの普及が、若者の居場所を
"路上"から"画面の中"へと移していた時期だ。
そんな中で《ごくせん》は、不良を"悪"として
描くのではなく、"社会からこぼれた若者"として描いた、最後の学園不良ドラマだったように思う。
リアリティが薄れたからこそ、逆に安心して
笑える物語になった。
そこには2002年という年の、 
独特の"優しさ"があった。

主役の生徒5人以外にも、
脇を固める大人たちの存在感が忘れがたい。
教頭の猿渡五郎を演じた生瀬勝久のコミカルな
空回りは、シリアスになりがちな学園ドラマの
空気を常に軽くしてくれる調整弁だった。
保健室の先生・川嶋菊乃役の伊東美咲、
大江戸一家三代目・黒田龍一郎役の宇津井健、
若頭代理の阿南健治、舎弟の金子賢。
極道の世界と学校という、本来交わるはずのない二つの世界が違和感なく同居していた。
熊井輝夫、通称クマの"実家がラーメン店"という設定に象徴されるように、不良といっても人を
傷つける方向ではなく、どこか昭和の人情喜劇の残り香をまとった生徒たちだった。
沢田慎は代議士の父親との確執から不良の道に
進んだという背景を持ちながら、
頭脳明晰でスポーツ万能、仲間思いという、
後のヒーロー役の原型のようなキャラクターでもあった。
不良でありながら、誰も本気で怖くない。
その塩梅の絶妙さが、このドラマを
"ヤンキードラマ"ではなく"学園コメディ"として成立させていた最大の要因だったように思う。

社会の側は、決して穏やかではなかった。
小泉政権の劇場型政治が連日ニュースを賑わせ、日韓ワールドカップが列島を熱狂させ、
その一方で北朝鮮拉致問題が明らかになり社会が大きく揺れた。
携帯電話は写メと着メロで生活の中心に入り込み、2ちゃんねるやWinMXがネット文化を形づくり始めていた。
その落差の中で、《ごくせん》の明るさは
一層際立って見えた。
不安定な社会と、
教室の中の他愛のない喧嘩騒ぎ。
その対比こそが、このドラマを"生活の避難所"にしていたのかもしれない。

我が家では、当時まだ幼稚園に通う子どもが
戦隊やライダーに夢中だった。
夜9時か10時のドラマを家族で観るという
習慣が、まだ普通に残っていた時代だ。
学校でも職場でも、翌日にはドラマの話題が
共有された。
V6の《Feel your breeze》はカラオケで誰かが
必ず歌う曲になっていたし、コンビニに寄れば
テレビ誌が平積みになっていた。
そういう、いま思えば呑気な"テレビの匂い"が2002年にはまだ確かに存在していた。
不良に思い入れがなくても、教室のドタバタを
笑っていられる。そのくらいの距離感が、
ちょうど心地よかった。

《ごくせん》が残したものは大きい。
仲間由紀恵は国民的女優となり、
松本潤は俳優としての地位を確立し、
以後《花より男子》へとつながっていく。
2005年放送の第2シリーズは平均視聴率28.0%、最終回32.5%という驚異的な数字を記録し、日本テレビ系連続ドラマの伝説的なシリーズになった。
2008年の第3シリーズも年間の民放連続ドラマ平均視聴率1位を獲得し、2009年には劇場版として映画化、興行収入は34億円を超えた。
学園ドラマというジャンルそのものを再ブームさせ、"熱血教師"像を令和の時代まで生き延びさせた功績も見逃せない。
"理想の先生ランキング"でヤンクミが1位を獲得したという事実は、フィクションの教師像が現実の願望にまで食い込んだことの証だろう。
2020年、放送から18年後に
「ごくせん2002特別編」として再放送された際、初回の視聴率は12.7%を記録した。
昨今のゴールデン帯の連続ドラマが視聴率10%を超えるのに苦労する時代に、18年前の再放送でこの数字を叩き出したことは業界内でも話題になった。
懐かしむ声だけでなく、当時を知らない世代が"今のスターの若き日"として新鮮に楽しんだという反応も多かった。
親から子へ、あるいは子から親へと話題が渡っていく。
そういう形で作品が生き延びること自体が、2002年という年が残した最大の遺産なのかもしれない。

2000年のB'zや《バトル・ロワイアル》、
2001年の《千と千尋の神隠し》や9.11が背負っていた"時代の重さ"と比べると、
《ごくせん》はあきらかに毛色が違う。
時代を語るドラマではなく、
時代の隙間で笑うためのドラマだった。
2002年という年に、そういう"軽さ担当"の作品が視聴率トップクラスで存在できたこと自体が、この年の空気をよく表している。

ヤクザの娘が先生になって、
不良たちとわちゃわちゃする。
それだけの話が、20年以上経った今も語られ続けている。
無名だった生徒役たちがそれぞれの分野でスターになり、番組そのものが"未来の俳優名鑑"になった。
2002年という年の明るさと軽さを、
いちばん屈託なく体現していたドラマだった。

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nao46222 チップをありがとうございます。 そのまま宝にしておきます。^_^