ザ・たまごサンド温泉駅
サンドイッチを食べた。
ザ・たまごサンドだ。卵を割るところから、まな板で重石をするところまで。それは家庭科の調理実習の思い出を食材に、小学生だったあの頃をスパイスとして振りかけたような懐かしい味、その記憶がシューンと通過する。もっともそれが物理的にどんな味になるのかはわからないが、味としてはごく普通のザ・たまごサンドだ。近所にあるなじみの青いコンビニ。その日は、車で出かけていたので、道路の右側にあり駐車場の広い青いコンビニで買い求めた。
そして、駐車場でひとり黙って食べた。
モグモグモグモグ。ふー。
モグモグモグモグ。ゴクリ。
ふー。
ブブブブブブブ~ププッ!
しゃーしゃーぶーぶーしゃーしゃー
ドドドドドドド…
これまたザ・コンビニコーヒーをいただきながら、フロントガラスの外、行き交う人々を眺めながら、自動車たちが奏でる多様なメロディーを耳にしながら、ザ・たまごサンドを食べた。おそらく何か考えごとをしていたのだろうが、その何かは思い出せないほどにぼんやりと…しかしその【ザ!】の味はしっかりと記憶している。
いやいや、味を記憶しているというよりも、長い期間で感覚的に当然のように記憶したその味を、手もとの状況をきっかけに思い出しただけのことだろう。平凡な記憶と平凡な状況がリンクしているだけのこと…。
・・・
相変わらず、ピンポイントの出来事を深々と味わう私だ。ちょうどそれは大きめの濃紺の野球帽を深くかぶりなおし、その視線を隠すようにひっそりとしかし感覚を研ぎ澄ましているような…。
は?
例えが複雑すぎて謎は深まるばかりだ。
たまごサンドはどうして、パンとパンでたまごを挟むのだろう。パンに載せるだけでも同じような味がしそうなものだが、さらにその上にパンをのせる。ハンバーガーに対抗したのだろうか?ハンバーガーもつぶして食べると聞いたことがある。どことなくたまごサンドもハンバーガー風だ。エッグバーガー?何か違うような…。
あぁ。
温度。たまごサンドは冷やしたほうがおいしい、いや温めると傷んでしまいそうだ。一方ハンバーガーが、よく冷えたフレッシュな感覚でしゃきっとしたレタスのように、おいしく提供される…わけが【ない】。
あぁ。
ならばたまごサンドをホットサンドにすればハンバーガーに近づくだろうか。うん。これなら似たようなものにはなりそうだ。とはいえ、ハンバーガーショップにザ・たまごホットサンドをみたことは【ない】。
・・・
駐車場でザ・たまごさんどを食べていたとき何を考えていたか。たまごサンドを分解しているうちに少し思い出してきた。真ん中に挟まれた【たまごサラダ】の悲哀を自分に重ねたのかもしれない。
なんとなく、自分は食パンに挟まれる【たまごサラダ】として、食パンの圧力で凝縮される。凝縮されるというと濃くおいしくなるイメージがあるが、実際のところ潰されるのだ。たしか調理実習の手順でも【つぶす】と習ったような…知らんけど(笑)。
私は、上司と部下に挟まれて…なんて誰もが思い出しそうなことはどうでもいい。大勢の人々が、板挟みを嫌というほどに味わってその答えを出せずにあきらめてしまったこと、そんな嫌なことを思い出したくもない。だって、このザ・たまごサンドはおいしいのだ。なぜ嫌なこととセットで食べるのか、私には理解できないし、コンビニエンスストアの定番商品として嫌なものを並べるわけがない。
何も考えていなかった!
それはきっと気がついたら目的地についていたようなもの。そのプロセスの中にあったたまごサンドがすっかり抜け落ちて、出発と到着のふたつだけが存在する不思議な世界。あとになって、そういえば【ザ・たまごサンド】を食べていたことを思い出すわけだ。おそらくその程度ものだろう。私が考えることなど、上司と部下に挟まれるというようなごく普通のことから遥かに逸脱した不適応の極み、まさかの「無」。
それはそれで高尚なもの?
単にぼーっとしていただけで
車を運転するにはかなり危険…
・・・
なぜ今【ザ・たまごサンド】を思い出したのだろうか。
食パン(その1)にたまごサラダをのせる。その上に食パン(その2)をのせる。そして、食パン(その1)+たまごサラダ+食パン(その2)をつぶす。
何となく思うのは、東京駅からのぞみ(新幹線)に乗って京都に行くようなものだろうか。熱海駅…気がつくと通過している。魅力的な温泉地なのに秒速で通過する。
あの【ザ・たまごサンド】は、
熱海駅のようなものだ。
四の五のいわず、
あーだこーだいわず、
単にそれだけのことだ。
【ザ・たまごサンド】はうまかった!
思い出せないのは
当たり前のうまさと
当たり前の安心。
やはり定番の魅力には叶わない。
なぜだろう?
梅干しのおにぎりが食べたくなった。
直巻きのそれを…。
思い出はパリッとではなく
しっとりがいいようだ(笑)
今日も車で移動だ。
青いコンビニで何を買おうか♪
ぶぶぶぶぶぶぶー
ぷっぷっ!
