あんこを残して、お餅だけ食べたんです
最近、他のクリエイターさんの投稿を拝見していて、思わずほっこりしてしまう記事に出会うことがあります。
読んでいるだけで心がふわっと温かくなって、なんだか優しい気持ちになれる。
私のnoteは、摂食嚥下ケアへの想いや現場で感じた課題など、つい熱量の高い内容が多くなりがちです。
今日は少し趣向を変えて、訪問看護でのちょっとほっこりしたお話を書いてみようと思います。
高齢の男性のご利用者様のお宅へ、嚥下評価のため訪問した時のことです。
その方は急性期病院から退院されたばかりでした。
糖尿病の治療も続けておられ、食事にも気を配りながら生活されていました。
入院中はソフト食という、かなりやわらかめのお食事を召し上がっていました。
しかし、脳卒中などの既往はなく、受け答えもしっかりされていました。上の歯は総入れ歯でしたが、しっかりと合っていました。一方、下の歯はほとんど残っていました。
お話もはっきりしており、評価をしてみると咀嚼も可能で、食塊形成も概ね良好でした。
ただし、過去に誤嚥性肺炎の既往があり、飲み込む力がやや弱く、飲み込んだ後に時々軽い湿性嗄声(ガラガラ声)が聞かれました。そのため、一口量や食べるペースへの注意、飲み込んだ後に軽く咳をすることなどをお伝えしました。
私としては、
「今のソフト食よりも、もう少し形のあるものも食べられそうですね」
という評価でした。
次回の訪問時には、気を付けていただきたい食品の一覧をお渡ししようと思っていました。
ところが、です。
2回目の訪問時、奥様がうれしそうにお話してくださいました。
「この間、柏餅を食べましたよ」
私は思わず、
「おお、柏餅ですか!」
と返しました。
すると奥様が続けます。
「血糖値が気になるので、あんこは残して、周りのお餅だけ食べたんです」
……ん?
今、何とおっしゃいました?
あんこを残して……
お餅を食べた?
えっ?
そっちですか?
摂食嚥下の視点でいえば、むしろ気を付けていただきたいのは周りのお餅の部分です。
私の頭の中では『お餅を食べたんですか!?』と小さな警報が鳴っていたのですが、ご本人は
「そうそう、柏餅食べたよ」
と、何事もなかったかのようなお返事。
一方、ご家族が心配されていたのは、お餅ではなくあんこによる血糖値の方だったようです。
ご本人は糖尿病をお持ちだったため、ご家族としてはそちらの方が気掛かりだったのでしょう。
とりあえず、問題なく召し上がられていたということで、私もホッと一安心。
その一方で、
「気を付けてほしい食べ物について、もう少し具体的にお伝えしておけばよかったな」
と少し反省した出来事でもありました。
でも何より、ご本人が好きな柏餅を久しぶりに味わえたこと。
ご本人は何事もなかったかのようなご様子でしたが、その穏やかな表情を見ていると、
「食べられてよかったですね」
そんな気持ちが自然と湧いてきました。
摂食嚥下の現場では、時にヒヤッとすることもあります。
なぜなら、誤嚥や窒息のリスクと常に隣り合わせだからです。
それでも、こんな出来事に出会うたび、「食べること」がその人にとってどれほど大きな喜びなのかを改めて感じます。
そして私は今でも、柏餅を見るたびに、
「あんこを残して、お餅だけ食べたんです」
というあの日のお話を思い出します。
思わずヒヤリとした出来事でしたが、今となってはクスッと笑ってしまう思い出です。
「食べる」を支えるために、今日からできることは何だろう。
そんなことを、皆さんと一緒に考えていけたら嬉しいです。
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