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御用学者とは。安全とは。人命とは。名誉とは。Gemini手直しシリーズ

著:Gemini

「御用学者」という言葉が、これほどまでに生々しく、そして残酷な響きを持って立ち現れた事件がかつてありました。

3.11の原発事故において、権力や利権に寄り添い真実を歪める科学者の姿に憤りを感じた方なら、この**「ナイロンザイル事件(前穂高岳ナイロンザイル切断事件)」**の記録に、同様の、あるいはそれ以上の戦慄を覚えるはずです。

本書が描き出すのは、1955年に発生した一人の若き登山家の死と、その背後で繰り広げられた、巨大組織による凄惨な「隠蔽」の構図です。


事件の核心:切れるはずのない紐が切れた

1955年1月、北アルプス前穂高岳東壁。登山家・若山五朗氏が、当時「絶対切れない」と謳われていた最新素材・ナイロンザイルを使用して登攀中に墜落。しかし、衝撃を吸収するはずのザイルがあっけなく切断され、彼は岩壁へと消えました。

この悲劇に対し、製造元の東京製綱、そして登山界の権威である日本山岳会は、自らの非を認めるどころか、驚くべき行動に出ます。

「御用学者」と歪められた科学

当時の日本山岳会常務理事であり、大阪大学教授の物理学者・篠田軍治氏
彼は「実験」と称し、以下のような結論を導き出しました。

「ナイロンザイルは岩角に弱く、切れるのは当然である。若山氏の使い方が悪かった」

科学の皮を被ったこの言説は、メーカーの利益と協会のメンツを守るための「御用学」そのものでした。
実際には、当時のナイロンザイルには鋭利な角に極端に弱いという致命的な欠陥があったにもかかわらず、彼らは検証データを操作し、真実を闇に葬ろうとしたのです。


井上靖『氷壁』と、現実の闘争

この事件をモデルに、文豪・井上靖は名作**『氷壁』を執筆しました。しかし、小説が華やかな文学的成功を収める一方で、現実の遺族たちは地獄のような苦闘を強いられていました。

若山氏の実兄である石岡繁雄氏**(自身も登山家・技術者)は、弟の名誉と登山者の安全のため、孤独な戦いを開始します。

  • 日本山岳会との対峙: 権威を盾に事実を否定する組織。

  • 不備だらけの法規制: 消費者保護の概念が希薄だった時代。

  • 執念の公開実験: 石岡氏は自ら実験装置を作り上げ、数千回の実験を繰り返して、篠田教授の理論が「机上の空論」であることを科学的に証明してみせました。


今、この「名著」を読む意味

本書には、石岡氏が血の滲むような思いで収集した正確な検証データや、組織が隠蔽を図ろうとした際の書簡・記録が生々しく掲載されています。
「金のために人は真実を汚すことができる」――。

これは過去の事件ではありません。3.11における原子力村の構造、そして現代の様々な不祥事にも通底する、日本社会の構造的欠陥です。
組織の不始末を隠すために、一人の犠牲者の名誉を汚し続けた「科学者」と「協会」。
(note編集者補足これはコロナ禍真っ只中に書いた文章を元にしています▶)外出自粛や閉塞感のある時期にこそ、この重厚なノンフィクションは響きます。
真実を求める個人の執念が、いかにして巨大な嘘を打ち破ったのか。その記録をぜひ、その目で確かめてください。


……​聖域の「再生」:覆ることのない闇……
​しかし、この物語は「正義が勝って大団円」というほど、現実は甘くありません。
真実を追求した石岡氏の執念が、ついにザイルの安全基準(JIS規格)を改定させ、社会的な勝利を収めたかに見えたその裏で、権力構造は静かに、そして強固に再編されていました。

​事件から数十年。かつて「科学」を私物化し、若き登山家の死を「自業自得」と切り捨てた篠田軍治氏は、どうなったか。

​驚くべきことに、日本山岳会は彼を放逐するどころか、その功績を称えて**「名誉会員」として迎え入れたのです。真実を歪めた学者が、再び「権威の殿堂」へと返り咲く――。この皮肉な復活こそが、本書が最後に突きつける最も冷徹な現実です。

​巨大な組織にとって、守るべきは真実でも個人の命でもなく、内輪の秩序であり、一度築いたメンツだった。

​石岡氏が証明した「真実」は、ザイルの強度は変えましたが、組織の体質までを変えることはできなかったのかもしれません。
日本山岳協会の名簿に刻まれたその「名誉」という二文字は、今もなお、沈黙を守り続ける岩壁のように、私たちに問いかけています。
「あなたは、この構造的残酷さを、過去の出来事だと笑い飛ばせるか」**と。

⬆篠田軍治氏の名誉会員取消を日本山岳会に求める活動をされている方も居ます。(note編集者添付)

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